実用テスト ①

何百万と収用するには、不具合があってはならない。『実用テスト』なるものを行わなければならない。そこで出てくるのが、選ばれし4名である。既に『転送』テストをしており、一般player様方への安全性を確認していたのだ。


その一部始終を、中継放送でご覧いただこう。

中継でお見せ出来ないのは、こちらとしても心苦しい限りである。


~・~・~・~・


~Opening-Ceremony二日前、PM7:30~


『本日はお集まりくださり、誠にありがとうございま~す!』


幻光がいつもの軽いテンションで進行している。現在、別々に画面の外にて待機中。

影山颯人かげやまはやと』、『四條英太郎しじょうえいたろう』、 『磯崎麻里絵いそざきまりえ』、 『神楽坂未琴かぐらざかみこと』。年齢も職業も様々な彼らが揃っている。事前にキャラクター作成も完了してもらい、今日は万全のはずだ。


『今から、テストをしていただきまぁす!出来れば目を閉じててくださいねー?』


四人にはお知らせを送り、納得してもらっている。寧ろ、最初に体感出来るならと喜んでいた。……それがフラグだとは思わずに。


ボタン、ぽちっとな!』


懐かしいフレーズで開始した。


~・~・~・~・


『はぁい!到着でーす!ご気分はいかがでしょうかぁ?』


……言わんこっちゃない。瞬間を見逃すまいと目をギンギンに開いていた男性二名。吐く一歩手前の微妙な状態で倒れていた。


「うぇっぷ。……何かドラ◯もんの机の引き出しん中みたいな……うぇ……。」


「あー………、いやいやキテ◯ツの………ダメだ、目がチカチカする。」


女性は問題ないようだ。


「あら~、それは脳ミソ掻き回されたみたいになりそ~。」


「変な言い方しないでくださいよ……。」


~・~・~・~・


この結果により、"cyber-goggles"の構造が一部変更になった。好奇心よりも、体の安全を第一にして頂くために。尊い犠牲により、より安全性を高められた。


~・~・~・~・


第二回実用テストは、Opening-Ceremonyの3日後。


戦闘方法のテスト。少しでもやり易いシステムにするために。


今回は中継でお送りします!現場のカランコエさぁぁぁん!


『はい、こちら試験会場です。実況はフェアリープリンセス・カランコエがお送りします。』


画面が異常にアップされ、周りがボケる。彼女があまりに小さいからだ。このゲームの種族は、人間・亜人・獣人・妖精がメインである。

彼女は妖精を選んだらしい。淡いオレンジ色の髪が輝いている。彼女の下では、『影山颯人(以下ハヤト)』、『四條英太郎(以下エイタロウ)』、 『磯崎麻里絵(以下マリエ)』、 『神楽坂未琴(以下ミコト)』の4名が待機中だ。


『今からこちらの4名の方に、試験クエストをおこなって頂きます。皆さん、準備万端ですかー?』


上から呼び掛ける。四人がそれぞれ返事を返す。


『では、皆さん。スマホをご準備ください。画面にアイコンがあります。皆様のジョブに合わせたアイコンがあるのが分かりますか?』


ハヤトは剣士。カッコつけでなければいいが、ツーハンドだ。彼のスマホのアイコンをクリックすると、《スラッシュ》と書かれたアイコン表示がある。


エイタロウも剣士。こちらは盾つきの片手剣だ。彼のスマホのアイコンをクリックすると、《バッシュ》と書かれたアイコン表示がある。


マリエはマジシャン。ミニスカートの軽装。彼女のスマホのアイコンをクリックすると、《ファイアボール》と書かれたアイコン表示がある。


ミコトはヒーラー。格好はマリエと然程変わらない。彼女のスマホのアイコンをクリックすると、《ヒール》と書かれたアイコン表示がある。


『確認出来ましたねー?要はクリックするとそのスキルが発動する仕組みになっています。詠唱しても発動しますので、演出なさりたい方は実行して見てくださいね。』


にっこり笑った顔が可愛い。


『それでは、実践タイムです。あちらに見えます、"ツインウルフ"さんが今回のターゲットになります。』


ガサガサと現れた双頭の銀色狼が、獰猛そうな瞳を光らせている。


「……あれ、マジ?」


「最初のモンスターだから、然程強くはないんじゃない?」


「パッと見は……強そうよね。」


「………牙剥いてないですか?」


皆、冷や汗を隠せない。


『はいはい、皆さん。"search"アイコンをポチっとしてみてください。』


四人が同時に、スマホの"search"アイコンをクリックする。すると、カメラが起動する。


『カメラが起動しましたね?"ツインウルフ"さんを写してください。』


皆、慎重に"ツインウルフ"を捉える。


《scanしました。searchを開始します。》


スマホから同時に音声が流れ、ものの数秒で完了し、ぽんっと効果音がする。


《"ツインウルフ"レベル2・無属性・物理及び魔法攻撃どちらも効果を発揮します。》


「ナニコレ?すげぇ!」


ハヤトがはしゃぐ。


「これなら無茶しないですむな。」


エイタロウが頷いている。


「……すごいわね。てゆうか、"あれ"ホントになわけ?」


「確かにリアリティかなりありますね。」


鼻息もリアルだ。"cyber-goggles"の性能はかなり高度なのだと実感せざる得ない。これで試作品だというのだから、完成したらどれだけの性能が体感出来るのか、今からたのしみだ。


……現在の問題は、ことだろうか。


『ガウッ!!』


"ツインウルフ"が唾を垂らしながら牙を剥き、襲いかかってくる。


『敵さんはリアリティを醸すために、野性味たっぷりに製作されています。こちらではので、張り切ってどうぞー。』


全くもって他人事顔の妖精さん。


「うわっ!ちょ!」


「マテマテ!!」


ハヤトとエイタロウが慣れない剣を振り回し、牽制する。


「えい!」


マリエが魔法アイコンをクリックする。ボウっと炎の玉が出現した。


《ターゲット一体。ファイアボール!》


音声が言ってくれる。


『ギャウ!!』


炎の玉が命中した。しかし、致命傷には至らない。


《ターゲット、総HP1000。現在、HP700。》


至れり尽くせり機能。この機能が全playerに対応している。問題は、慣れたら煩わしくなること。そんなあなたに!簡易切り替えボタンタップで、ゲージ表示に瞬間的に切り替わる。増減がカラーでわかるので、慣れたらお使い頂きたい所存である。


……感動の余韻に浸っている時間はない。


「ガウガウ!!」


攻撃されたことで興奮した"ツインウルフ"。加速して襲い掛かってくる。


「うわっ!?」


誰もが想定していただろう。……最初に負傷したのは、ハヤトだった。


「痛ぇ?!」


腕を噛みつかれ、出血している。


《playerハヤト、総HP500、"ツインウルフ"により100のダメージを受けました。》


『あ!ハヤトさん!攻撃をもろに受けてしまいました!大変!出血してます!でも大丈夫!ここで、ミコトさんの出番ですよ!』


「え?わ、私?!あ………。」


名前を呼ばれ、びっくりするもスマホの画面を見直す。

恐る恐る"ヒール"アイコンをタップする。


《playerを選択してください。》


パーティーメンバーの四人の名前が表示される。


「えっと、ハヤト……さん。」


呟きながら名前をタップした。


《playerハヤト確認。ヒール!》


ミコトのスマホが光り、集束した光がハヤトの負傷した腕を包み込む。光が霧散すると、噛みつかれた痕が綺麗さっぱり消えていた。


《playerハヤト、ヒールによりHP100回復。全快しました。》


「すげぇ!痛みもなくなってる!」


『はい!痛みはリアルに感じ、見あった怪我はします。ですが、あくまでゲームですから♪因みに怪我をしたままログアウトしてログインし直しても治ります!多少インタイムにラグが生じる程度です。支援がいない!回復アイテムがない!そんなとき!街に戻って宿屋で寝たり、食事を採っても回復しますよ!』


よくあるゲームシステムも採用し、馴染みやすい設定になっている。レトロ機能と最新機能のいいとこ取りだ。古きよきシステムと新しき斬新さを融合させることにより、馴染みやすく、飽きの来ないものを提供したいがためである。


『あ、死亡扱いですが、HPが無くなれば動けなくなるので、自動的に最後に立ち寄った街に転送されますから安心してくださいね。』


ならば後の気になるものと言えば、やはりデスペナルティだろう。ゲーム初心者にはデスペナルティが重い。ゲーム熟練者にはデスペナルティがないと温い。ここはやはり、制作側も頭を悩ませた点である。如何に飽きさせず、妥協範囲内に納めるかが要となるシステムだろう。


そして考え出されたのが、デスペナルティ分配システム。レベルはランク分けされており、50までが初心者として、ノーデスペナルティとなる。51からは、一律5%のデスペナルティが発生する。

しかしパーティーを組むと、パーティーごとで5%のデスペナルティを分配するシステムだ。

ボスや中ボス以外は、五人まで戦闘の参戦が可能。パーティーを組めばそのメンバーで、パーティーを組まずとも参戦した人数により分配される。

ボスや中ボスに至っては、中ボスは10人まで、ボスはボスランクにもよるが、15人から最大50人までが入り乱れて共闘が可能となる。

ボス相手ではデスペナルティの嵐で嫌煙してしまう懸念を考慮してみた。初心者が参加することで、足手まといだとか邪魔者扱いするランカーも少なからず出てくるだろう。

初心者が勇気を出して参加すればするだけ、デスペナルティが減ると考えれば気持ちが楽になるのではないだろうか。確かに、極力ランクも武器防具なども安定しているplayerの参加を望みたいだろう。


まだ払拭されない壁の払拭を鑑みてみた。ならば、オリジナル初心者参加ボーナスを発案してみようと。ただアイテムが支給されるのでは、他のゲームと変わらない。ならば、うちはこうするまでだ。


\a Random Status Up!/


略して、"RSUシステム"。初心者が参加すればするだけステータスがランダムで一時付与される。物理職には、物理攻撃・防御や敏捷、クリティカルをメインに。魔法職には、魔法攻撃・防御や技量をメインに。しかしながら、数字もランダムである。あなたのリアルラックに掛けよう。

初心者は三回まで、敵からの攻撃を無償ガード。ステータス付与はないが、大概のmonsterなら上級者に協力してもらったり、三回以内に倒せればいいのだ。

だから、ランクを問わず協力しあって欲しい所存である。どちらにも利点があれば利害が最初から一致しているのだから邪険にする必要もされることもなくなるはず。


だが、ランク51以上のplayerとランク50以下の初心者playerがいてのみ、発動することを忘れてはいけない。ランク51以上のみ、ランク50以下のみであれば、通常戦闘となる。

ランク50までは経験値が一律10倍なので、上級者が参戦すればするだけ、早く安定した戦闘に持ち込める利点もご用意している。


さて、彼らに戻そう。


『HPあと700!"ツインウルフ"には回復魔法なんてありませんから、攻撃しただけ減りますよ!張り切ってちゃっちゃと倒しちゃいましょう!』


安全な上空からにこにこしながら言う、カランコエ。


「……怪我して治してもらっただけじゃ終われねぇよ!」


ツーハンドソードをカチンと言わせて合わせる。はっとするハヤト。物理武器だと、スマホを持って戦えない。……カランコエがにんっと笑っていたことには気がついていない。ハヤトは駆け出した。敵の目前にまで迫る。


「ハヤト?!」


エイタロウがびっくりした声を発した。二人は息を飲んでいる。


「……!バーーーーーーーーーシュッッッッッ!!!!」


叫び、"ツインウルフ"に切り込む。叫ぶと共に合わせていたツーハンドソードを勢いよく下方に振る。


………ザシュッッッ!


ハヤトの手に重い感覚が走る。一瞬後………。


「ギャウ!」


……"ツインウルフ"の双頭の片方が力なく、小さな血吹雪を上げて崩れ落ちた。


《playerハヤトのバッシュがクリティカル攻撃に成功。"ツインウルフ"残HP700にクリティカル攻撃400が加わり、残HP300となりました。従って、"ツインウルフ"は体の一部を失いました。》


四人はHPが減らせた、攻撃が当たったことよりも、目の前の凄惨な光景に唖然としていた。数秒経った後、崩れ落ちた片方の頭は、電子分解のようなジジッという砂嵐によって消えていく。本当にホログラフィーなんだなと思う反面。戦闘も細部までリアルなのだと実感せざる得ない。


「……な、なんだよ、これ。当たった感触がリアルなんだけど。」


ハヤトの言葉に、皆が青ざめる。しかし、敵はやはり待ったなし。野性味があれど野生ではない。戦うことのみ、システムされているリアルホログラフィー。バランスを失いながらも、ギラギラした瞳でハヤトたちを睨み、にじりよって来ている。


「……ビクついてる暇はない、か。」


覚悟を決めたらしいエイタロウが構える。


「これからもっと強いモンスターと戦うんでしょ?及び腰になってらんないわよ。」


マリエも体制を整える。


「……生きてるように見えて生きてはいないんですものね。」


ミコトも気を奮い立たせた。そんな皆の勇気に後押しされてか、ハヤトもぐっとツーハンドソードを握りしめた。

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Princess's Garden On-line 『Android Future』 姫宮未調 @idumi34

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