***

翔太くん・・・嗚呼わたしの愛しい人・・・

なんでわたしだけを見てくれないの・・・

なんでわたし以外の人にも優しくするの・・・

翔太くん・・・嗚呼わたしが想う人・・・

貴方あんたは何いってんの」

「あなたの気持ちを詩にしてみたの。少しおおげさだったかしら」

馬鹿馬鹿ばかばかしい。私に好きな人はいない。

「だってあなたは授業中暇さえあれば翔太くんのことみてるんだもの」

翔太くん―峰岸翔太は私と同じクラスでサッカー部に入ってる。身長は170㎝あるかないかで,誰にでも優しく男女問わず人気がある。

確かに他の男子より話しやすいが,だからといって好きなわけではない。

「でも今日だってサッカー部の部室から学校に移動している翔太くんをじっと見てたじゃない」

「そんなことない」

もともと覇気のない私の声だが,いつもよりも覇気がなかった気がする。それともいっしょにいる女の子の声が生き生きし過ぎてるのか。

さっき雨にうたれた右手を学校指定の制服のスカートを握りしめ,手を乾かそうとする。こういう時にハンカチを出さないのが行儀悪いと後ろめたい気持ちになった。

「そういうのをジョシリョクガヒクイっていうんだよ」

ハハハ,と女の子は私の顔を覗き込みながら笑い,そう言った。その仕草はなんだかとても女の子らしくうらやましいと思った。

同じ女の子なのに。

「ねえ,それでなんであいつに嘘をついたの」

「それってどれ。あいつって誰」

私はイライラしながら答えた。ただそのイライラが私の覇気のない声に乗っかったかはわからないが,隣で楽しそうに前を向いて歩く女の子に心を込めて言った。

「あいつってのはあの名前の分からない先生のことで,それっていうのは……どれだろ。まあとにかく,なんで翔太くんが部活終わるのを待ってたのに,雨が弱まるのを待ってたなんて嘘をついたの」

「別に嘘はついていない。ほんとに雨があがるのを待ってたんだもん。逆に翔太くんを待つ理由なんてないから」

翔太くんはただのクラスメイト。同じクラスなだけ。いっしょの空間で授業をうけてるだけ。ただそれだけ。

だから好きになる理由なんてないし,言われなければ思い出さない存在だ。そんなのは好きに入らない。

「じゃあ,嫌いなの」

「そういわけじゃない」

「じゃあ,興味がないんだ」

「多分……。よくわかんない」

「じゃあ,あの先生とおんなじなんだ。あなたにとっての翔太くんは」

「多分……。そうなんじゃない」

「ウソツキ」

ウソツキ。私が。誰に対してついて。嘘つきなのか。

そう思ったけどうまく言葉にできない。雨が傘にあたって跳ねる感触が左肩と左手に伝わる。それが少しもどかしい。

早く家に着かないかな。


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