第5話
また、人狼の群れをやっつけていると、森の木々が燃え落ちた。何事かと思って駆けつけると、一人の魔族が宙に浮いていた。黒マントの下に真紅の服を着ている。顔は怒っているのか笑っているのかわからない変な顔だ。魔力の濃度が濃い。相当な強力な魔族だということは一目で見てとれた。やつの周囲の空気が燃えて、所々、赤く輝いている。
「わはははははっ、この魔王を退治しようとする刺客は貴様らか」
魔族は一人で嘲笑って話しかけてきた。
「おまえは何者だ。魔族といえど、簡単に遅れをとる我らではないぞ」
女勇者が言い返すと、魔族は気持ち悪いくらい自信に満ちた笑いを見せた。
「おれを知らんのか、バカ者が。おれはおまえたちが探している魔王だよ。この魔王、人類の刺客から逃げるようなことはない。みずから、刺客を探し出して首切り落としておるわ。貴様らもここで死ぬのだ。か弱い人間ども」
おれは驚いた。やつのことばを信じるなら、魔王城の奥深くに暮らしているはずの魔王がみずから、単身で戦いに出向いてきたというのだ。これほどの好機はない。
女勇者は汗をかいていた。さすがに、目指している相手がいきなり現れたのだ。それも、魔族最強といわれる魔王直々に。
この魔王は、うわさで聞くに、魔族の間の抗争を実力でのし上がり支配した真の征服王なのだという。
「勝てるか、女勇者? 魔王だと名のっているぞ」
おれが話しかけると、女勇者は、
「ここで退いたら、何のために旅をしてきたのかわからない。もちろん、行くぞ」
といった。
女魔法使いが稲妻を魔王に向かって放った。魔王は、かわすこともなく、雷撃の直撃を受けた。まるで、そんな脆弱な雷撃などくらっても平気だといわんばかりだった。
女勇者が走って魔王との間合いを詰めた。魔王は、ぐうんと低空飛行してきて女勇者にナイフを突き立てようとした。女勇者がその魔王の突き出してきた腕を斬りつけようとする。
おれも慌てて走った。魔王に挑む。ここで活躍しなければいつ活躍するのかという場面だ。
女勇者のこては、魔王に軽い傷をつけたようだ。魔王が女勇者に火炎魔法を浴びせる。
おれは
「女勇者」
と叫んだが、火炎はおれの方にも飛んできて、皮膚が焼けて激痛が走った。おれは、前が見えなくなって、火を消そうと地面を転がった。女魔法使いが水魔法をかけてくれて、火は消えたが、魔王を見ると、また、宙に浮いていた。
女勇者は、服が燃えている。
「はははは、面白いやつだ。おまえほどの手練れは人類では初めて見たぞ。簡単に殺すのは惜しい。また、遊びに来てやる。俺様みずからがな」
魔王はそういって、空を飛んで帰って行った。
どうやら、女勇者の剣が魔王に一太刀浴びせたらしい。
女魔王使いが女勇者の火を消すと、燃えた服の下におっぱいが見えた。おれはどきっとしてしまったけど、それで淫惑な気持ちになることはなかった。おれたちがしているのは殺し合いなのだ。そんな心の余裕はない。
「逃がしちゃったね、戦士」
女勇者はいった。
「ああ、だけど、ひとまず傷を治せよ、女勇者。だけど、まさか、魔王が自分から魔王退治しているやつら全員に勝負を挑みに来る性格のやつだとはなあ。うわさに聞いていたのとは大ちがいだ」
「ああ、度胸もあるし、実際にかなり強いな、魔王は」
女勇者はいった。
これが魔王との初めての戦いだった。
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