第6話

 弐卦と此花が、不動明王と向かい合った。

 不動明王は、憤怒の表情をしており、あまりにもすごい眼光に威圧され、すくんでしまいそうだ。

「くらええ」

 弐卦が剣を振り下ろしたが、剣の刃は不動明王には刺さらず、ごっという音をして受け止められてしまった。

 この不動明王、すごく堅い。

 この不動明王、敵に対して、一個の傷を受けることもなく、一歩も後ろに退くことがない。

 どうやって、倒す?

 不動明王は、右手に剣、左手に縄を持ち、二人の前に立ちふさがる。五大明王の最強を誇る不動明王である。

 不動明王を動かすには、どうしたらいいか。


 その一、気合い。

「やああ、ずおりゃああ」

 ちょっとうまく行きそうにない。


 その二、押してダメなら退いてみろ。

「逃げるぞ、此花」

「うん」

 二人は逃げ出した。だが、追ってこない。不動明王は、門の前に立ったまま、びくともしない。陽動作戦も何も効きそうにない。


 その三、相対性。

 不動明王が動くのではない。不動明王以外の宇宙が動くのだ。

「うおりゃああ。ずおりゅああああああ」

「がんばれ、弐卦」

「ふんりゃああ。とおりゃあああ」

「がんばれ、弐卦」

「ぜえぜえ」

 激しく息をする弐卦。

「此花、無理だよ、これ」

「だよね」


 そして、いざ、勝負。話し合いに移る弐卦。

「あなたほどの強いものがなぜ、帝釈天の警備兵なんかをしているんだ」

 弐卦の問いかけに、不動明王は答える。

「仏敵を退治することこそ、天下泰平、満願成就の道だからである」

「でも、ぜんぜん、天下泰平、満願成就していないじゃないか」

「問答は無用。己の信じた道を進むのみ」

 ダメだ、これは。説得も話し合いも通用しそうにない。狂信者だ、こいつは。完全に、帝釈天に洗脳されているんだ。

「此花、まわり道して、走って逃げよう」

「あ、そうかあ。でも、意外とあの人、足速そうだけどなあ」

「だけど、他に策はない」

 こうして、二人は、門をまわり道して、不動明王をやりすごして、須弥山の頂上へと向かった。

 なんとか、不動明王をまくことができた。

 不動明王はすごい速さで追いかけて来たけど、門を守護する役目があるので、門の番に戻るので、その隙にやりすごすことができた。

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