第5話
須弥山までつづく町で、弐卦は、飢えた人々、貧しい人々、殺し合う人々、謀略を仕かけ合う人々、を見た。
帝釈天の治める国は、完全な幸せなどはどこにもなく、不幸で虐げられた可哀想な人々が数多くいた。帝釈天に上納する富を彼らにふりまけば、少しは彼らが幸せになるのはまちがいない。だが、それはなされない。なぜか。
帝釈天の治める国の貧しさを確認しながら、二人は須弥山へと辿りついた。
「ここから、須弥山か。世界の中心にある世界一高い山」
二人は須弥山を登って行った。
須弥山を登って行くと、中腹で、帝釈天の四天王が待ち構えていた。
「ここから先は、天領であるぞ。踏み込むなら、我らが四天王を倒してからだ」
二人は現れた四人の明王に対して、剣を抜いてかまえた。
「我らは、帝釈天のもとまで旅する者。邪魔をするなら斬って捨てるぞ」
弐卦が啖呵を切った。
「面白い。阿修羅以外に、我らに勝負を挑む者がいようとは思わなんだ。ならば、相手しよう。我は、前世、現世、来世を降す降三世明王」
つづいて、残りの三人が名乗った。
「我は、竜を食らう孔雀明王」
「我は、大威徳明王」
「我は、金剛夜叉明王」
「四人そろって、四天王」
四天王は、それぞれ、縄なり、独鈷なりの武器を持って立ちふさがった。
「そこをどけ、四天王」
弐卦が降三世明王に斬りかかる。
此花は、金剛夜叉明王と向かいあった。
「それ、お主の前世はすでに我に降伏した」
降三世明王がいう。
知ったことではなく、弐卦は斬りかかる。剣が届く前に、
「それ、お主の現世はすでに我に降伏した」
と、降三世明王がいう。催眠術をかけられたかのように、弐卦は降三世明王にひざを折って屈していた。
「それ、お主の来世はすでに我に降伏した」
と、降三世明王がいう。弐卦はいい知れぬ罪悪感を感じていた。前世も、現世も、来世も、ずっとぼくは降三世明王に負けていたのだ。
なんだというのだ。弐卦は、煩悩に満ちた悪い魂だった。それを降三世明王に救ってもらえたのだ。ありがたいことだ。
弐卦は、自分の名前について考える。太極が別れて両儀となり、両儀が別れて四象を形どる。四象が別れて、八卦となり、先天の図、後天の図を以て、万物を表わす。ぼくは、万物の四分の一、弐卦だ。時として、それは天の卦と地の卦を表わす。時として、それは鬼門と裏鬼門を表わす。
ぼくの現世は、前世も、来世も、決して降されてはいない。世界を運行する理は、弐卦を疎外してはいない。
弐卦は、みずから、降三世明王の力を弾き返した。
「うおおおお、ぼくは弐卦。天地を司る弐卦だ。鬼門裏鬼門を司る弐卦だ」
弐卦は、降三世明王に剣を振り下ろした。
「なんだと。ダルマを動かす法力をもっているのか、この小僧」
驚いた降三世明王は、そのまま、弐卦に斬り伏せられた。
「そこをどけえ」
弐卦は、孔雀明王、大威徳明王、金剛夜叉明王、をつづけざまに打ち倒した。
「すごい、弐卦」
此花が感嘆する。
「どうやら、四天王がやられたようだな」
そして、門の奥から、不動明王がやって来た。
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