第14話

 一週間後、シュヤクナンジャイが帰ってきた。

「いやあ、楽しかった。宇宙旅行って最高だね」

 シュヤクナンジャイは、五人とも無事に帰ってきた。

「どうだった、いちろう?」

 おれが聞くと、いちろうはべらべらと一週間の旅を話しつづけた。

「びっくりしたよ。宇宙船に乗りこんだのはいいけど、里中がお風呂に入りたいってごねるから、宇宙人の宇宙船の中でお湯を探したんだよ。そしたら、お湯でできた宇宙人がやってきて、そんなにお風呂に入りたいなら呑み込んでしまうぞおっていうんだ。里中が、呑み込まれたんだけど、里中がゆったりとお湯につかってるところをひろしが見つけて、里中が悲鳴をあげて、洗面器を投げつけたんだ。それで、全裸の里中と一緒に、宇宙人の宇宙船の中を逃げまわったんだ」

「それは楽しそうだね」

 さすが、主役のシュヤクナンジャイである。家でごろごろしていたおれとはおおちがいだ。

「それで、宇宙人の翻訳機を手に入れて、放送室を占拠して、何百カ所に連絡をとったんだけど、そしたら、異性生命体と友好を結ぶ団体が見つかって、そこへ行ってきたよ。そしたら、ひろしが宇宙人と恋に落ちて、ひろしは、今、宇宙人と文通しているんだ」

「へえ」

 やっぱり、楽しそうだ。これが主役というものか。

「帰ってくる途中で宇宙帝王をやっつけてきたけど、宇宙旅行はだいたいそんな感じだったね」

 宇宙帝王を倒した話をあっさり終わらせちゃう辺りが主役って感じだね。


 そして、おれは一冊のノートをとりだした。

「友好的な宇宙人と連絡を密にとり、なんとか、宇宙人と平和条約を結びたい。しかし、宇宙文明と地球文明が貿易を開始した場合、宇宙文明が地球の商品より圧倒的に高い競争力をもつと思われる。宇宙文明と交易をした場合、地球人は、貿易の取引で大損をすると思われる。とにかく、宇宙文明と地球文明の技術差がありすぎる。かつて、ヨーロッパ人の持ってくるガラス球を宝石と交換したアフリカ人のように、大損な取引を引き受けさせられる可能性が高い」

「じゃあ、宇宙人と貿易したら、ダメじゃん」

「そうだ。だが、宇宙文明の技術を手に入れることは、地球文明の発展に好影響をもたらすことはまちがいない。そこで、宇宙文明の調査をできるだけ速やかに行い、取引で詐欺に合わないようにしなければならない」

「難しいのね」

「その管理は、シュヤクナンジャイに任せようと思う」

「えええ、おれたち、そんな難しいことできないよ。まあ、それは、おれたちを支援してくれている国連に任せよう」

 シュヤクナンジャイの支援者は国連だったのか。

「うん。ならば、その通りに実行してくれ。幸運を祈る」


 宇宙文明との交易は、異世界との交易と違い、この世界が劣位に置かれる。貿易は、取引する両者に利益をもたらすというのが経済学の基本概念だけど、それを信じて任せるしかない。経済学の盲信は、人類の危機を招く。その危機管理は、国連がやってくれるだろう。脇役のおれには、頭がパンクして、考えれそうにない。

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