第9話

 おれが学校から帰ろうとしている時、厚いフードを被った少年に話しかけられた。

「ここはどこですか」

 おれは素直に答えた。

「ここは柊高校です。ようこそ、いらっしゃいました」

 なんか、自分がRPGの村人になった気分で、おれは少し落ち込みながらも、少年に四人の勇者がまだ残っている教室への行き方を教えた。

 村人A、それがおれなのだ。脇役には、ふさわしい役柄ではないか。村人Aの何が悪い。村人Aだって、立派に生きているのだ。村人Aを非難するのは、数多くあるRPGの村人Aをないがしろにする最低な行為である。村人Aも、世界を救うのに、ほんのちょっとは役に立っているのだ。村人Aを侮るなかれ。


 そして、おれは六人の魔族と会ったのである。

 六人の魔族は悩んでいた。

「どうしたの」

 おれが話に入ると、六人の魔族はため息をしながら答えた。

「それが、四人の勇者がみるみる力をつけているのだ。このままでは、あちらの世界の支配権は人類に奪われてしまう。我々は、再び、地下に隠れてすごすことになるのだろうが、場合によってはそれも難しい。我々魔族は、全滅するかもしれない」

「それはたいへんじゃないか。おまえたち、高校を卒業する前に、死んじゃうんじゃないだろうな?」

 おれが悲しそうな声を出すと、魔族は自嘲気味に笑った。

「死ぬことはないかもしれないが、魔族としての力は封印されるだろうな。あの勇者たちの考えそうなことだ」

「なんとか、人と魔族が共存する世界をつくれないのかな」

 おれが提案すると、魔族が一笑に付した。

「人と魔族が共存する? それはまずありえないな。不可能だ」

「なんで?」

「前にもいったが、人と魔族とでは、存在理由がちがいすぎるのだ」

「どういうこと?」

 おれが聞くと、魔宮は黙った。この前の主張をくり返す気はないらしい。代わりに、真宮寺が答えた。

「おれたち魔族が見た世界は、おまえたち人類の見ている世界とは根本的にちがうのだ」

「またその話? この前、抵抗文化の話はしたと思うけど」

「そうじゃない。おれが思うに、世界は滅びたがっているのだ」

「!」

 おれは驚いた。魔族の世界観は、悲観的すぎる。

「人類は滅びたがっているのだ」

「そんなことはない」

「いや、そうなのだ。世界は滅びたがっている。人類は滅びたがっている。だから、我々、魔族がいるのだ」

「そうだろうか……」

「おれたち魔族は死にたがっている」

「なんで……」

「おまえも死にたがっているのだ。脇田」

 はっと、本音をいい当てられた気がして、胸が苦しくなった。

「でも、世界は滅びない」

「いや、あの四人の勇者も死にたがっているのだ」

「なっ」

 いい返すことばもなかった。

「滅びた方が面白い」

「でも、そんなのほんの短い遊びにすぎないじゃないか」

「滅びた方が宇宙の理に適っている」

「それは魔族の見解にすぎず」

 おれは反論するが、それが人類の見解にすぎないことはわかっている。

「滅びることこそがみんなの目的なのだ」

 おれはいい返せなかった。

 四人の勇者は、いつか、異世界を救い、魔族をみんなやっつけるだろう。六人の同級生は、倒されて、欠席するだろう。

 なんとか、そうならないように、異世界で、人と魔族が共存できる世界を築くように計画を練らなければならない。

 四人の勇者は勝つだろう。六人の魔族は負けるだろう。だけど、それで学校の仲間がいなくなってしまうのは、あまりにも悲しい。なんとか、異世界で、人と魔族が共存する世界がつくれないだろうか。

 世界を滅ぼしたがっている魔族と共存する方法……

 おれは、あまりにも難しい難題に頭をかかえて、家で一人もんどりうっていた。

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