第7話

 三十一人のうち、十四人が主役で、十六人が悪役。脇役はおれ一人。


 つまり、このクラスのおれ以外は、みんな、主役か悪役なのだ!!!

 脇役はおれだけだ。

 主役は輝いているし、悪役も見方によっては魅力がある。この学級のおれ以外の全員はみんな、魅力に満ちているのだ。そして、高校生活を充実にすごしているのだ。

 それなら、それでいいじゃないか。おれは、自分が主役でなくてもいいし、もちろん、悪役でなくてもいい。

 おれは自分が目立たない脇役でいい。

 例え、おれのこの先の運命が、主役たちの戦いに巻き込まれてあっさり簡単に殺されることであろうとも。

 おれは脇役として生きよう。

 おれには、おれにできることがあるはず。それを精いっぱいやっていこう。

 脇役のおれにしかわからないことがあるかもしれない。

 脇役のおれにしかできないことがあるかもしれない。

 ただ、主役や悪役が派手に登場するのを見て驚くだけの観客でもいいじゃないか。世の中のすべての人に重要な役はまわって来ないもの。

 おれは、存在価値の薄っぺらな脇役でいい。

 おれは、非力でひ弱な脇役でいい。誰が脇役を嘲笑おうか。物語の登場人物の九割は脇役ではないか。

 味のある脇役。渋みのある脇役。助演男優賞などが狙える脇役でいいじゃないか。

 おれに主役なんて、無理だもの。

 おれに悪役なんて、無理だもの。

 おれは、小さな力しか持たなくてもいい。だって、世界中をほぼ埋め尽くしているのは脇役だろう。脇役ががんばらなくてどうする。脇役ががんばっていて当たり前の世界で、主役や悪役は、存在価値を引き立たせるのだ。

 脇役ががんばっていた方が、主役も悪役も暴れがいがあるというものだろう。

 例え、おれが人生の脇役でも、おれには祝福された生き方ができるだろう。

 野原の見えもしないような小さな花だって、よく見れば、きれいな花が咲いているものさ。

 いいや、そもそも、おれは、自分が幸せになれなくてもいいのかもしれない。おれは昔から自分が幸せになることを目指していなかった。

 おれという人生は、みんなに注目されることなく閉じるのだ。それが定めだ。それが宿命だ。おれは生まれながらの脇役なんだ。

 おれの努力は、みんなにとって、どうでもいい小さなもので。おれの悲しみは、みんなにとってどうでもいい些事で。おれの夢は世界の大局を動かしたりはしないのだ。

 脇役万歳。全人類皆脇役。

 たまたま、この学級の同級生が、世間の常識とはかけ外れて魅力的なやつらだったというだけさ。主役や悪役には、ふさわしい劇的場面が訪れることだろう。しかし、脇役のおれに劇的場面などない。

 おれのこの物語は、地味に、土着的に、俗に、幕を閉じることだろう。人生とはそういうものだし、ならば、おれが脇役であることは、現実的な着目点であるといえよう。

 おれの人生こそが、世界人類の大多数の人生であり、おれはその模型である。そこに夢やロマンはないかもしれない。だが、等身大の親近感があることだろう。

 おれは脇役として、この物語を生きよう。

 大冒険するのは、全部、他の奴らさ。おれは、家でごろごろしているだけ。庶民的な登場人物を演じよう。

 そもそも、人生に期待するなど愚かなことで、人生とは暇と惰性に埋め尽くされるものなのだ。それはまさに脇役の人生ではないか。

 おれは、安部が魔王を倒す時、学校で勉強しているし、いちろうが宇宙人を倒す時、テレビのくだらない番組を見ているし、リリナが天才科学者を倒す時、ぐうたらと昼寝しているのだ。

 それが脇役というものであり、人の生きる人生そのものなのだ。

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