第2話
担任が死んだ。怪物と化した先生の死体は、警察がおとなしく引き取っていった。おれは罪を問われなかった。
担任のいなくなった学級には、若い女の副担が来ることになった。副担などというものがいたことをおれたちは知らなかった。ただし、副担の準備が間に合わないらしく、学級に顔を出せるまではまだしばらく日にちがかかるらしい。副担が来るまでは、学級委員による自治に任せられることとなった。
おれは脇役だから、担任を殺したことを誰も問い詰めなかった。
おれが友だちもできずにすごしていた高校三年生の二日目は、学級委員の主役ともいえる頑張りによって、無事終わった。迷惑をかけてすまない。まだ高校生なのに、担任に代わって学級をまとめあげる学級委員は、おれには主役のように輝いてみえた。
で、本当の物語の始まりは、二日目の放課後だった。
学校から帰ろうとしたおれは、宿題のノートを教室に置いたままにしていたことを思い出し、教室へと帰って行った。時間は午後六時だっただろうか。
教室に近づくと、少し、不思議な気配がした。何か、教室が静かすぎる気がするのだ。みんなの帰ったはずの教室にやってきたおれは、廊下から教室の中を見て、あっと驚いた。
教室の中に、光の精霊が降臨している。教室の中心が光輝き、教室の中を黄色く染めていた。
教室の中には、物語の主役である四人の男女がいた。安部、安藤、つぐみ、つぼみ、の四人だ。安部、安藤は男子で、つぐみ、つぼみは女子だ。光の精霊は、四人の高校生に話しかけていた。おれは、四人の勇者が異世界へ召喚される場面に、偶然、立ち会ってしまったらしい。おれは廊下からその様子を見ていた。
光の精霊はいった。
「わたしたちの世界は滅びかかっています。わたしたちの世界を救う四人の勇者が現れると、お告げがありました。あなたたち四人は運命に選ばれし予言された勇者です。どうか、わたしたちの世界へやってきて、世界を滅ぼそうとする混沌の悪魔たちを倒してください。わたしたちの世界を救えるのは、あなたたち四人しかいません。どうか、お願いです。力を貸してください」
四人は、狐につままれたような顔をしていた。あまりにも唐突なできごとで、要求を受け入れろというのが無理だ。普通なら、光の精霊のお願いを聞いてやるやつはいない。だが、四人の勇者はちがった。
「ぼくたちのできることなら、力になりましょう」
四人には力強い意思があった。
おれは脇役なので廊下で見ていただけだが、四人の勇者は、光の精霊に導かれて、異世界に移動した。不思議な空間の歪みを通って行った。
四人の姿が消えた頃、脇役のおれが邪魔になることはないだろうと、教室に入ったら、
「今、見たことは誰にもいわないでください」
と光の精霊にいわれた。そして、空間の歪みと、光の精霊は、すうっと消えてしまった。
おれは、脇役なので、家に帰って、爆睡した。
おれには関係ないことだ。
おれは勇者ではないのだ。
驚くべきことは、翌日の朝にあった。教室に登校してきた安部が、全身血だらけだったことである。包帯をぐるぐる巻きにしていたが、なお、血が止まらないらしく、白いはずの包帯が濃い赤色の血に染まっていた。
安藤、つぐみ、つぼみも、無傷ではなかったが、安部を心配しているようだった。
「大丈夫か、安部」
クラス中の者に心配された安部は、
「家で料理を失敗した」
とかいう下手な嘘をついていた。明らかに、異世界で怪物と戦ってきたに決まっていた。
おれは、高校三年生の三日目の放課後、安部に話しかけた。
「実は昨日、光の精霊を見たんだ」
四人の勇者は驚いていた。
「黙っていてくれ。おれたちは、逃げるわけにはいかない」
安部がいった。
「見守ることしかできないけど、何か手伝えることがあったらいってよ」
おれがいうと、安部はいった。
「大丈夫。おれたちは、おれたちにできることをするだけだ。脇田は、相談にのってくれるだけでいい」
わかった、と返事した。
おれの個人的判断による学級一の美少女であるつぐみは、
「わたしたちに何か少しでもできることがあるなら力になりたい。それがわたしたちに身分不相応な役目だとしても」
といった。おれは、
「女の子に戦いはきつくないか?」
と聞いたが、
「わたしは黒魔法が使えるの」
と答えた。つぐみは、
「祈るだけでもいい。あの世界のために頑張れるなら」
といっていた。おれが話していると、空間の歪みが現れた。
「行こう」
つぐみがいった。四人は迷うことなくでかけていった。
「安部も行くのか。そんな体で」
おれが叫んだが、安部は、うなずいただけだった。
四人は今日も異世界を救う冒険に出かけたようだ。
おれは、家に帰って、だらだらとゲームをしているうちに、四人の勇者のことを忘れ、あっけらかんと熟睡した。
次の日になると、安部の傷は治っており、
「回復魔法を覚えた」
とのことだった。それから一週間、ずっと四人は放課後、異世界に出かけている。おれは普通の日常を送っている。選ばれた四人の勇者じゃないから。
相変わらず、教室では、ぼっちだ。安部たち四人が時々、話しかけてくれる。異世界の話を聞けるので楽しい。なんでも、四天王のうちの一人を倒したそうだ。
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