ロボット ピノの人さがし
村ののあ
第1話
病床の老人のもとに、あるロボットがやってきた。
ロボットの名前はピノ。最近開発された新型の人工知能を搭載しており、「なんでもできる」とのキャッチコピーで発売されたロボットだった。
老人の息子が、自分のいない時に老人の世話をしてやれるように買ってきたのだろう。
「はじめまして、ご主人様。ぼくはピノといいます。ご主人様の言うことをなんでも聞きますよ」
老人は目を細めて言った。
「おお、おお、ついに届いたか。誠治のやつがわたしに買ってくれたんだったな」
老人はベッドから起き上がろうとしたが、筋力も衰えていてなかなか起き上がれない。
それを見たピノは、見かけによらない強い力で老人を抱きかかえ、無理のない姿勢で老人を起き上がらせた。
「……見かけによらず、すごい力を出すことができるんだな、ええと……」
「ピノです。ぼくはピノという名前です」
「おお、ピノだな。よろしく、ピノ」
「はい、よろしくお願いします」
ピノはにっこり微笑んだように見えた。
それから、老人とピノの日々が始まった。ピノは食事も作ってくれたし、掃除も完璧にこなした。時には老人の話し相手となった。老人は昔を懐かしんで様々なことを語った。少年時代のこと。がむしゃらに働いた青年時代。家庭ができ、様々なことに悩みながらも、妻と一緒に子どもを育てた。子どもは成長し、やがて孫ができた。
「そうやって、わたしはここまで来たんだよ、ピノ」
「はい、わたしはあなたのことをより良く知ることができました。とても嬉しく思います。」
「ロボットが、嬉しいと?」
「はい、ご主人様。わたしには何百種類もの感情が用意されています。わたしは人間と同じ、いや、それ以上の豊かな感情を持っているのです」
「……そうなのだな。人間以上の感情か」
「はい。記憶と感情はとても強く結びついています。記憶機能をより強化するためには、わたしも人間と同じように感情を持つべきである、という風に考えられ、わたしは作られました」
「なるほどねえ」
老人はほのかに微笑んで、ふう、とため息を漏らした。
「ピノ、先ほども言ったが、若いころ、わたしはロボットに反対だったのだよ」
「はい、覚えています」
「当時のロボットは仕事をしてくれるが、感情を持たなかった。わたしは、あまりロボットのことが好きになれなかったのだ」
ピノは少しさびしそうな顔をした。
「わたしはロボットに意地悪をするように、人間でしかできないような無理難題を、次々とロボットに押し付けたものさ。その中には、泣いてみろ、なんてのもあったっけ。いま、ピノはそんなことも出来るのだろうな」
「はい、悲しい気持ちになったときには涙も出ます。泣けと言われて、泣けるものでもありませんが」
老人はふふふ、と笑った。
「確かにそうだ。泣けと言われてすぐに泣けるのは、嘘泣きのようなものだな。……ところで、ピノや。少し頼みたいことがあるのだが」
「はい、なんでしょう。お食事になさいますか」
いいや、違うのだ。そう言って、老人はある頼みを語り始めたのだった。
(つづく)
ロボット ピノの人さがし 村ののあ @noah_p
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