八話 下ネタ好きの女(露骨な下ネタ発言注意)
「はい、百勝十三敗。ホントよっわいなぁ。ほぼオレの全勝だ」
そう言って、俺から奪い取った玉将を投げて寄こす。
「うるさいなぁ、十三回は勝ってるだろ?」
「これはオレが風邪を引いた日、彼氏と別れた日、残りは生理の日だ」
「でかい声で生理とか言うな」
この女には恥じらいってもんがない。
「ホント、オレって重くてヤになっちゃうんだよね、男のクリちゃんには分かんないだろうけど」
どっかと座布団の上に腰を下ろす。
股を開いてそうするもんだから、スカートがふわりと浮いて赤いパンツが見えてしまう。だけどこいつはそんなのお構いなし。
「そのクリちゃんはやめろって言ってるよな?」
あぐらをかいて落ち着くともうパンツは見えなくなった。
「卑猥に捉えるお前が悪いんだ。アタシ、クリちゃん弄りが大好きなのっ!」
ヘンな裏声なんて使いやがって。
俺の名字が
「ホント、ムカつく女だよな、先輩って」
「ふん、負けて悔しいからってブゥたれるな。しょせんクリちゃんはオレが生理の時に突っ込まないと勝てないんだよ」
「突っ込むじゃなくて、付け込むね」
「おっと言い間違えた。生理の日に突っ込まれるなんて、そんな初体験は真っ平ゴメンだ」
こいつは下ネタなしでは生きていけないのか?
って、それよりも。
「あれ?
「お前、なんて失礼なこと言うんだ。オレは純真な処女だから」
純真は絶対に嘘だ。
「でも、彼氏いたじゃん」
「彼氏がいたからって即セッ●スするわけじゃないだろ? そこまで行く前に別れたんだよ」
「意外に清い交際だったんだ?」
「バ、バーカ、向こうがヘタレだったんだ。だからこっちから振ってやった」
嘘付け、振られて滅茶苦茶ヘコんでたくせに。
「まぁいいや、それよりもう一局しようぜ、槙奈先輩。今度は負けないから」
「クリちゃん、それ毎回言ってるよな? いい加減、弱い奴の相手はうんざりなんだけど」
とはいえ、我等が将棋部に来る部員は二人しかいない。みんなこの下ネタ野郎を敬遠して幽霊と化すのだ。
「じゃあ、賭け将棋しようぜ。俺が負けたら何でも言うこと聞いてやるよ」
「じゃあ、フルチンでグラウンド一周な」
「ぐっ! いいぞ、やってやろうじゃん」
タチの悪いこの女のことだ、負けたら絶対本当にやらされる。
それでも俺は引けない。
「ほほう、で? あり得ないけどオレが負けたらどうして欲しい?」
「お、俺と付き合え」
そう言ってやると、向こうは首を傾げやがった。まぁ、仕方のない反応だ。
「どこへ? ショッピングモールか?」
「違う。交際しろって意味だ」
「コウサイ? ごぼうのこと? ごぼうを突っ込めっていうの?」
「どこにだよ。それは根菜だ。違う。コ・ウ・サ・イ! 俺の恋人になれって言ってるの!」
「えっ! 冗談だろ!」
ようやく通じた。奴は目をひん剥いて驚いていやがる。まぁ、仕方のない反応だ。
俺だってこんな奴が好きだなんて認めたくない。でも好きなんだから仕方がない。夜な夜な……まぁ、それはいいや。
「冗談なもんか。俺とキャッキャウフフなお付き合いをしてもらう!」
「キャッキャウフフねぇ、いかにも童貞くさい妄想だなぁ」
腕組みをして目を細めやがる。童貞で悪かったな。
「いいだろ、別に。デートもちゃんとするからな」
「デート? そんなんでいいのか?」
「そんなんて?」
「即セック●させてやろう。オレの処女をくれてやる!」
「マ、マジかよ!」
夜な夜なの妄想が一気に脳内を去来する。
「ずぅぇぇぇったいにっ! 負けないけどなぁ~~~! では、オレの処女をかけて勝負だっ!」
ばしっと槙奈が王将を盤に張った。
そして、決して負けられない勝負が始まる。
「また振り飛車かよ。それで何回負けてるって思ってるんだよ」
「うるせぇよ」
それでもこれが一番勝率が高いんだ。
「え? あれ?」
「よーし」
奴の凡ミスに付け込んで銀をゲット。いいかんじだ。
「あれ? あれれ?」
「くっくっくっ、飛車頂きだ」
どうも奴は調子が悪いようだ。
ふと顔を見てみると、青ざめていやがる。
「どうした? 今日は生理か?」
一方の俺は余裕の表情だ。
「え? 違うぞ。でも、全然頭が回んない」
「分かった!」
「え? 何が?」
槙奈は完全に負け犬の顔。
「槙奈先輩。お前、俺に抱かれたいな?」
「ば、ば、ば、ばーかっ! そんなわけないだろ? 十八年守り通してきた処女、クリごときに奪われてたまるか!」
そう言ってばしりと打ってきたのはひと目見て分かる悪手だった。
よしよし、相当動揺しているぞ。
そして盤面は俺優位のまま推移した。
「はい、王手。詰みだな」
「嘘だろ……」
震えた声で盤を掴む槙奈。この将棋盤は我等が将棋部の伝統ある逸品らしい。
俺は立ち上がると大きく伸びをした。
「よーし、今日の部活はおしまい。隣駅の近くにラブホあったよな? 早速今から行くぞ、槙奈」
「冗談だろ?」
俺を見上げる槙奈はどこまでも情けない顔。
「言い出したのは槙奈だからな? いや~、俺もいよいよ脱童貞かぁ」
ここでいつもなら童貞を馬鹿にしてくるのだが、今のこいつにそんな元気はなかった。
まぁ、俺としても本気ではない。まずは清く正しいお付き合いから始めたいのだ。意外に付き合い始めたらこいつも素直ないい子になるかもしれないし。
と、うつむいた槙奈から弱々しい声が。
「ぐすん……ぐすん……」
「え? 泣いてんの、槙奈?」
「だって……ぐすん……だって、十八年間守り抜いてきたのに……ぐすん……」
普段との落差が酷すぎるぞ……。
「ま、いいじゃん。どうせいつかは捨てるんだし」
優しく肩に手を置く俺。
「ひゃあっっっ!」
ものすごい勢いで座ったまま壁まで後ずさる槙奈。しっかりとスカートを引っ張ってパンツは見えないようにして。
「どうした、下ネタ大好きなお前らしくもないぞ?」
この機会にしっかり教育しておこう。それが清く正しい交際に向けた第一歩に違いなかった。
「あんなの全部冗談じゃん。あの、セ……するとかも、全部冗談だからな?」
媚を売るように首を傾げる。
「槙奈、お前に大変残念なお知らせがある」
「な、何?」
「俺、結構Sだわ」
「えええええっっっ!」
絶望的な槙奈の声。スカートを握りしめて震えている。
ま、この辺でいいかな。
「冗談だよ、清く正しい交際をしようぜ」
そっと手を差し出す俺。とてもいい奴。
「よかったぁ、冗談かぁ……」
槙奈が一転にこやかな笑顔で俺の方へ手を伸ばす。こうやって笑うととてもかわいい奴なのだ。
「あ、付き合うのは付き合うからな」
「ちっ!」
顔を背けてすごい低い声で舌打ちしやがる。
「……お前な、勝負に負けたくせにその態度はなんだよ」
「分かった、分かったよ。付き合ってやるよ」
俺の手を引っ張って立ち上がった。実はこうして手を握り合ったのも初めてなので俺はドキドキ。
ふっと槙奈がこっちの顔を覗き込むようにしてくる。
「あ、ツキアウって言っても、その粗チンで突いてくるのはオレの高校卒業までなしだからな?」
「槙奈の貞操観念がよく分かんねぇよ。取りあえず駅前のカフェでお茶しようぜ」
「仕方ねぇ、いかにも童貞くさい妄想の実現に付き合ってやるぜ」
そう言うと、腕を絡めてぴっとりくっついてきた。
ホント、口の減らない奴だ。
でもかわいい。
(「下ネタ好きの女」 おしまい)
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