第41話 紗季の涙
「読んでいいかい」
又吉は遺書を振っている紗季から自分宛ての
遺書を奪い取ると紗季に尋ねた。
「いいもなにも、それシンリさん宛の遺書だ
から私に聞く必要ないでしょ」
少しふてくされ気味の紗季に
「まあ、そりゃそうだが」
「あっ、そうだ、その前にさあ、先に料理食べ
ない、冷めちゃうし」
確かに紗季の言う通りだ。
湯気が立つせっかくのスープもこのまま遺書の話
をしてれば食べる機会を逃しそうだ。
「じゃ、先に、頂きます」
又吉は手を合わすと、頂きますと小さく呟きスー
プを口に入れた。
相変わらず沙希の料理は旨い。
「このスープね、姉貴が作れた唯一の料理なのよ」
唐突に紗季が呟いた。
紗季はスープを一口飲むと、ニコリと笑った。
ぎこちない笑いだと思ったその時、紗季の目から
大粒の涙がこぼれた。
「だから今日、作ったの」
紗季の涙がとまらない。
又吉はどうしていいのかわからなかった。
先ほどまで笑っていたのに大粒の涙。
今は顔を両手で覆い、オンオン泣いている。
「紗季ちゃん・・」
立ち上がり、そっと紗季の肩を抱いた。
「紗季ちゃん・・・」
「姉は、姉は酷いわよ、死ぬ間際まで私の心配ば
かりして、そのくせ私には姉の心配を一かけら
も寄こさずに」
又吉には紗季の肩を抱き、ただ黙って紗季が泣き
止むのを待つしかなかった。
「私ってそんなにもろい人間に見える?」
涙を拭きながら紗季は又吉を仰ぎ見た。
「そうは思わないよ。紗季ちゃんは芯の強い女
性だと思うよ」
これは本当だ。
又吉は本当にそう思っていた。
陽子と紗季との疑似デートで夕食を共にし、二
人の姉妹と話をするにつれ、依存は実は陽子の
方が強かったのではないかと思っていた。
陽子の方が実は紗季を必要にしていたのではな
いかと思うようになっていた。
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