第42話 探偵の目
ひとしきり涙を流しすっきりしたのか紗季は
「じゃあ食べましょうか」
と、いきなり食事を始めた。
笑顔を浮かべてはいるが何か考え事をして
ているのだろう、視点は又吉に戻ってこない。
一度このモードに入ると紗季はもう何も喋ら
ない。
心理学者陽子が言うには、紗季は男脳の持ち
主だと言う。
集中力が優れており、一度このモードにはい
ると他の事が目に入らなくなり、もう放って
おくしかないと苦笑していた。
だから又吉も又、食事を黙々と食べた。
黙々と食べるに十分値する美味しさなのだから。
食事が終わり二人で食器を洗い終わると紗季
は熱いコーヒーを入れ「よっこいしょ」と腰
をかけた。
又吉をジッと見つめると
「ねえ、提案があるの」
「ん?」
「交換しない」
最初又吉には意味が分からなかった。
紗季が遺書をヒラヒラするのを見てまさかと
は思ったが
「この遺書の事?」
「そう」
紗季は深く頷いた。
「べ。別にいいけど、何か理由でも?」
「先入観を持って読みたくないの、だからお互
い違う遺書を読みあったら姉貴の真意がわか
るんじゃないかと」
「真意も何も、遺書だろこれ。陽子さんからの
最後のメッセージなんだから・・・」
言われながら、又吉はフッと別の思いが頭をよ
ぎった。
そう言えば、紗季、陽子の事を最近「姉貴」と
呼ぶようになっている。
前は「姉さん」と呼んでいたのに。
「どうして三ヶ月も待って渡すように言ったの
かしら」
「それは・・・」
「又吉さんも小説家の卵でしょ。だったら姉貴の
この(わけありげ)な行動、何か別の意図が隠
されていると思わない?」
勿論又吉も訝しんでいた。
この三ヵ月遅れの遺書には明らかに陽子の隠され
た意図が潜んでいることは想像できる。
「推理は出来上がってるんでしょ」
「推理だなんて」
遺書に似つかわしくない言葉を、紗季はどんど
ん言ってくる。
三人で食事をしてだんだんわかってきたことが
あった。
最初は陽子が男らしく、紗季が女らしい姉妹だと
思っていたが、実はその真逆なのだ。
紗季は事あるごとに、その男っぽさを見せ、陽子は
世間では絶対見せない女らしを、食事中随所に見せ
た。
おそらく紗季は普段陽子の事を「姉貴」と呼んでい
たのではないだろうか。
「でね。その探偵の目で、姉貴が私に宛てた遺書を
読んで見て欲しいの」
「探偵だなんて・・」
言いながら紗季を見ると、紗季の瞳は怪しく光っ
ていた。
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