第35話 止まらない震え

又吉はエレベータを降りた。

6階だ。

紗季が住んでる階よりワンフロアだけ高い。


紗季も無言でエレベーターを出るとそのまま

又吉を無視し、どんどん先に歩いて行った。

この寒いのに紗季は裸足のままだ。


やがて6階の端部屋に着くとそのままドアを開

けた。

まるで自分の部屋であるかのように。


「紗季ちゃん?」


意味が分からない。

又吉は首を傾げながら、恐る恐る部屋の中を覗

いた。

ツーンと鼻に突く強烈な臭いが襲ってきた。


紗季を見ると


「姉はここにいたの。ズートこの部屋にいたの、

 療養してたの」


又涙が溢れてきた。

呆然と突っ立たまま、唇を噛みしめ、身体を震わ

せている。


「さき、ちゃん」


かすれた又吉の声が、紗季にまとわりついたが

やはり紗季は黙ったままだ。

目で部屋に入れと紗季が言っている。


又吉は恐る恐る部屋に足を踏み入れた。

病院だ。

これは病院の匂いだ。

そう思いだした途端、ある考えが又吉を襲った。


「まさか」


結び目がほぐれ、全ての思惑が又吉に現実を推

理させた。


「まさか」


紗季を見ると、紗季も深くうなづいている。


「嘘だろ」


走るように部屋に飛び込むと、一番奥の部屋に

ベットが置かれその横には一人の医師と看護師

が立っていた。

又吉と目線が合うと深くお辞儀をし、すぐその

視線を紗季に走らせた。


紗季が気になるのだろう。


ベットに横たわる人が誰か、今更聞かずとも又

吉にはわかっていた。

わかり過ぎるほど、わかっていた。


ごくんと唾を飲み込むと、ゆっくりベットに近

づいた。

白い布がかぶせられているのでもう亡くなって

いることはわかる。

全身の震えが止まらない。

白い布の下に隠れている顔が、わかるだけに震

えは激しく、より激しくなって行った。

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