第30話 じゃあ、約束よ

「素敵な先生だと思っています」


又吉はは眩しそうに紗季を見た。

陽子の事をどう思うかと聞かれ正直に答えた。


「素敵って、具体的に?」


「あの文体は僕には書けない文体です」


「あ、そう言えばシンリさん、夢は小説家だ

 っておっしゃっていましたよね」


「あはは、あくまで夢です。文才が無いので

 半分あきらめていますがね」


「嘘」


紗季は又吉を睨んだ。

陽子から又吉の書く作品は一風変わった作品で

けっこう面白いと聞いたことがある。


「シンリさんの作家の夢案外本気だって姉言って

 ましたわよ」


「あれは、陽子さんにエッセイ続けてもらう為

 適当に話を合わせただけですよ」


「でも姉に見せたんでしょ、お書きになった作品」


「無理やり取り上げられたんです」


又吉は髪を何度も掻きあげた。


「とても面白い作品だって言ってましたよ、姉」


「社交辞令ですよ」


又吉の汗は中々止まらない。


「私にも見せていただけますか」


「つまんないですよ」


「見たいんです」


「それはかまいませんが」


「じゃあ、約束よ」


はいはいと小さくうなづいていた又吉だったが

思い出したように


「じゃあ代わりに、紗季ちゃんが書いてる絵見

 せてもらえますか」


「私の絵を?」


今度は紗季が目を見開く番だった。

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