第27話 思い当たる事はあります
「僕は陽子さん二人きりで会ったことないんで
すよ」
「嘘!」
紗季の目が大きく見開かれた。
本当に驚いているようだ。
「本当です。デートと言えば陽子さんの家で紗
季ちゃんと、紗季ちゃんが作った料理を食べ
る、これだけでしたから」
「嘘、姉はシンリさんと映画とか絵画展に行った
話よくしていましたわよ」
「ええ?」
今度は又吉が驚いた。
そんな事は一度もない。
陽子が又吉に連絡してくるのはエッセイの話と家
での食事会の話以外一度もなかった。
なんで紗季にそんな嘘をつく必要があるのだ。
さっぱりわからない。
「何度もいいますが、僕と陽子さんとは先生と編
集者の関係以外何もありませんでした」
「ええ?」
今度は紗季が驚いた。
「前から沙希ちゃんには何度も言いましたでしょ」
「照れ隠しの冗談かと思ってました」
紗季は口を手に当て、本当に驚いている。
「姉のシンリさんとの楽しいデートの話、じゃあ
あれは」
「陽子さんの作り話ですよ」
「何の為に」
「さあ」
又吉が聞きたいくらいだ。
あの陽子が、紗季にそんな嘘話をしていたなど、
想像もできないのだから、理由などわかるはず
が無い。
「そのお話が本当だとすると・・・」
紗季は目を閉じた
「本当ですよ!」
ムッとして答えた又吉に
「思い当たる事はあります」
「?」
「姉、最近、急に部屋に閉じこもることが多く
なったんです。でね、部屋から出てくると、
なんでもない、なんでもないと笑うんですが、
真っ青なの顔色が。私はてっきりシンリさん
と喧嘩でもしたのだろうと思っていたんだけ
ど・・・」
「僕は喧嘩などできる立場じゃありません」
又吉の言葉にうなずきながら
「あれって、じゃあなんだったんでしょうね」
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