第26話 恋人関係じゃないです
「姉に聞いたことがあるんです」
紗季がの瞳がいたずらっぽく光った。
「シンリさんは姉にとってどんな人かを」
「なんて答えてましたか」
又吉も聞きたい。
本人の口からぜひ聞きたいことだったが、元々
陽子と二人きりで会うことが無かったのだから
聞く事も出来ない。
陽子は皆の前で、又吉の事を気安く「シンリ、
シンリ」と呼んでいたが、実生活では明確に二
人の間には大きな溝があった。
又吉は陽子にとって、恋愛関係を隠す(隠れ蓑)
の存在なんだと、理解していた。
デートと称して自宅に又吉を招くときも必ず紗
季が一緒だった。
陽子の、私に手を出すんじゃないわよ!と無言の
圧力だと捉えていた。
当然紗季も陽子がそんな考えで又吉を連れまわ
していることを知っているものとばかり思ってい
たが、どうやらそうではなさそうだ。
紗季は又吉と陽子が本当に付き合っていると思っ
ていたようだ。
「オスだと言ってました」
言うと少し笑い
「鼻の穴をおっぴろげたオスだと」
今度は口に手を当て本当に吹き出した。
「ひ、ひどいなあ」
又吉は頭を掻きながら顔を歪めた。
陽子とあっている時に男の自分を出したことな
どなかった。
あくまでも編集社の一担当者の姿勢を保ってきた
自負がある。それをオスだとは・・・。
「ひどいでしょ」
紗季は髪を触りながら遠くを見つめ
「姉流の比喩です」
「比喩といいますと?」
「繁殖能力を醸し出す男は全てオスと評していま
したから」
「じゃあ、そのままじゃないですか」
「姉の場合は、男性として観察するに値する男性
のみオスを使っていましたから、褒め言葉なんで
すよ」
「はあ?」
姉妹でからかわれているのかな?
そんな気もしたが、紗季の言い方が案外本気なので
「じゃあ僕を恋人にしてもいいと」
「あら、何仰ってるんですか、恋人同士なんでしょ」
「まさか」
又吉は否定した。
こんな関係の恋人はない。
絶対ありえない。
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