第24話 ワインの香
又吉が戻って来たのは大風呂に行くと言って二
時間も経った頃だった。
紗季は一時間も前に内湯から出ていた。
「ああいい湯だった」
言いながら戻って来た又吉の髪はすっかり乾い
ていた。
「紗季ちゃんは?」
「ええ私もゆっくりさせていただきました」
「よかった」
ピタリと並べられたままの布団を横目に又吉は
紗季の斜め前に座った。
持っていたビニール袋をテーブルの上に置いた。
何か買い物をしてきたのだろう。
「疲れたでしょう、もう寝られます」
二人の視線が並べられた布団に向かった。
「あ、僕は今日このソファーで寝ますから、紗季
ちゃんはいつでもあのお布団で寝てくださいね」
又吉はビニール袋からワインと、つまみを取り出
した。
「少し寝る前にやろうと思いましてね」
「じゃあ、私も頂こうかしら?」
「あれ?紗季ちゃんも飲むんですか」
紗季は舌を出しながら頷いた。
三人での(デート)では紗季は一度も飲んだこと
が無い。
飲むのはもっぱら陽子だけ。
紗季は食事の用意、後片付けと忙しく、飲む余裕
などなかったと言うのが実情なのだが、陽子と二
人きりの時は多少飲んだ。
お酒が好きなわけではないが、飲めなくもない。
今は妙に飲みたい気分。
「ホンの少し、頂きます」
紗季は周りを見渡した。
その気配を察したのか、又吉は立ち上がると奥の
テーブルに置いてあったガラスコップを手に持ち
「少し味気ないコップですが」
言いながら、ワインのコルクを抜くと、コップに
ワインを注いだ。
「陽子さんの無事がわかったことに乾杯しましょ
うか」
嬉しそうに笑うと
「人騒がせな姉に乾杯」
紗季も苦笑し、又吉のコップに軽くコップを当てた。
甘いワインの香が徐々に部屋の中に充満していった。
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