第23話 夜は長いんだから

 紗季は苦笑しながらカーテンを閉めた。

陽子に好きな人が出来たのかもしれない。

それは、当然又吉ではない。

その事実が、妙に紗季を落ち着かせている。


 陽子ももう三十三だ。

好きな人が出来ていても不思議ではない。

男女の関係に鈍感な紗季が気が付かないだけで、

陽子にはきっと意中の人がいるに違いない。

 その彼と、陽子は一緒になるつもりなんだ。

ひょっとしたら外国にでも・・・


紗季は頭を振った。

陽子の無事がわかったら、この有様だ。

陽子が、紗季よりも好きな男を選んだのではと思

うと、妄想でありながらも少し嫉妬を覚え、安心

もした。

 

 そうだ。

これは姉が企んだ、紗季自立への試験みたい

なものだ。きっとそうだ。

 家にひきこもり、家事以外は何もしない紗

季にそろそろ自立しなさい、いつまでも陽子

はいないのよというメッセージなのだ。


 思いながらも、又紗季は頭を振った。


そんな手の込んだ事を陽子はするか?

どちらかと言えば陽子は短絡的な性格だ。

好きになれば、すぐ行動起す。

思ったことも直ぐ口に出す。

そんな陽子に恋人がいた・・・


いや、ありえない。

陽子の嘘はわかりやすい。

好きな人がいれば、いくら鈍感な紗季にもわ

かったはずだ。

 陽子自身言っていたではないか。

「自分は心理学者としては失格だ。自分自身

 の感情を直ぐ人に悟られるから」と。


ふと、目の前に敷かれた二組の布団に目が行

った。隙間が全くない。

ピタリとくっつけられている。

ホテルの人が二人を恋人同士と勘違いしたの

だろうが・・・


又吉は大風呂に行った。

いずれ帰ってくる。


そうだ、私も早く湯を浴びないと。

湯に浴びて、ゆっくりしよう。

姉の思惑は、シンリとゆっくり話し合えばいい

んだ。


夜は長いんだから。

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