第19話 ホテルに泊まる
真理蛙湖には二軒の宿屋があった。
一軒は洋風、もう一軒は和風。
どちらに泊まろうか又吉は悩んだ。
辺りはもう真っ暗だ。
考えあぐねた又吉は
「もし陽子さんが泊まったとしたらどちらにし
たと思われますか」
紗季にたずねた。
当然紗季も悩むものと思っていたがあっけな
く
「こちらよ」
洋風の方を指さした。
「どうしてそう思うんですか?」
「あれ」
紗季の指さした方向を見ると又吉は苦笑した。
「確かに」
ホテルの玄関には大きく、マリアのしずく館と
書かれていた。
ホテルに入るとカウンターには中年の女性が
立っており、又吉達と目線が合うと、人のよさ
そうな笑みを浮かべながら会釈をしってきた。
又吉が部屋が空いているか尋ねると、女はチ
ラリ目の端で紗季を一瞥し一部屋なら用意でき
ると、又笑顔を投げかけた。
一部屋という言葉を気にしつつ、同意を求め
ると、紗季は軽く頷いた。
部屋は和室だった。
少し緊張気味に部屋に入った二人は、和室で
あることに顔を見合わせた。
「へー和室なんだ」
又吉はそのまま奥に進むと、ベランダのカーテ
ンを一気に開いた。
外は真っ暗で何も見えない。
部屋に掛かっている時計を見ればもう7時を
過ぎていた。
紗季も又吉の横に並ぶと
「真っ暗、気味悪いくらいに、姉さんの心の中
みたい」
ぽつりとつぶやいた。
「後で聞いてきましょうか」
「いいわよ、別に」
紗季は相変わらず外を眺めたまま無愛想に答えた。
又吉を見ようともしない。
「食事はホテルの食堂で用意してくれるそうです。
9時までだそうですから、食べに行きますか」
「そうね」
気の無い返事だ。
心ここにあらずといった感じだ。
そういえば、さっき紗季にメールが入っていた。
紗季がぎこちなくなったのはそれからだ。
何なんだったんだ、あのメールは。
「どうかされたんですか」
「え?」
慌てて振り返った紗季は
「夕飯食べに行きましょうか」
ぎこちない笑みを又吉に投げ返した。
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