第20話 紗季の憂鬱

 食事は妙に白けた感じで終わった。

紗季が考え込んでいたからだ。

どうもおかしい、紗季の態度が急変しすぎる。

明らかに、あのメールからだ。


 理由を聞こうにも紗季がよそよそしく、目も

合わせてくれない。

たまらず又吉は紗季に聞いた。


「おかしいよ、紗季ちゃん」


紗季は唇を何度も嘗め回し、又吉を見るがやは

り迷っているようだ。


「紗季ちゃん」


又吉の催促で紗季は携帯を取り出すと、届いた

メールを見せた。

 

「見てもいいんですか?」


こくりと頷く紗季から携帯を受け取ると又吉は

メールに目を通した。

 陽子からのメールだ。


「心配ない。しばらくあちこち旅をします。し

 んりへ渡す原稿は家のパソコンに送信します。

 私は大丈夫だから気にしないでちょうだい」


こんなメールで安心できる人間がいたら教えて

ほしい。

メールはまさに、心配しろと言ってる内容にも

受けとれる。


「馬鹿にしてると思わない」


紗季は唇を噛んでいる。

 心配して又吉とここまで来ているのに本人は

能天気に旅行に行ってるときた。

このタイミングでだ。

 メールを送るならもっと早く送るべきだろう

沙希の瞳は明らかにそう訴えかけている。


「まさか誰かに無理やり書かされたとか」


又吉が思いついた事をそのまま言えば


「さらわれたとでも言うの」


「マリアのしずく信仰みたいなものがあって、

 その信者に・・」


「小説の読みすぎ」


紗季は言下に否定した。


「でも、今頃になって急にメールを送るなんて、

 おかしいでしょうに」


「姉ならありうるわ」


紗季は苦笑した。

何かにのめり込むと、他の事は忘れてしまう

体質だ。

陽子に関してはありえない事ではない。

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