第11話 サンタマリア

結局陽子は帰って来なかったし、連絡もない。

又吉と沙希はサンタマリアで落ち合う事にし

た。


サンタマリアからの景色は絶景だった。

周りはカップルばかりで、自然又吉と紗季の

気分も浮かれ気味にはなる。


失踪した陽子の行方を探すために来たのにロ

マンチックな夜景は二人を恋人気分にかきた

てた。


沈黙が妙な気分をさらに掻きたてることに気

付いたのは紗季の方だった。


周りのカップルにあてられ、狼狽え気味の又吉

に紗季はバックの中から手帳を取り出すと中央

のページを広げて見せた。


「マリアのしずくは、いずこに?

 探さないと・・・

 絶対見つけなければ・・・

 幸せの証なんだから」


「なんだい、これは?」


「姉さんの手帳。姉さんのデスクの上にあったか

 らちょっと中を見てみたら、こんなことが書い

 てあったの」


「やはり陽子さん、マリアのしずく探していたん

 だ」


「マリアのしずくって何だと思います?」


紗季は又吉に顔を近づけた。

周りの声が高く、BGMも少し高めで、中々声が

聞こえにくいのだ。

勢い顔を近づけなければ声が通らない。


「指輪、ネックレス、あるいは地名?」


又吉も紗季に顔を近づけた。

香水がいつもより強く感じるのは気のせいか。


「九時になれば、ヒントが出るって言ってたんで

 しょ、姉は」


「もうすぐ九時です。なんでしょうかね、ヒント

 って」


又吉はぐるり、当たりを見渡した。


紗季も周りをぐるりと見渡したが、それらしいも

のは見当たらない。


「姉は見つけたのかしら、ヒントを」


「見つけたから、いなくなったとも考えられます

 よ」


「嫌だ、よしてよ、そんな言い方、何かゾッとす

 るじゃないの」


紗季は思わず又吉の方に身を寄せた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る