第9話 カレーライス

散らばったカレーを片づけ、割れたお皿をゴミ

箱に捨てると又吉はゆっくりテーブルに座った。


 紗季は放心状態だ。


 ゆっくり紗季の作ってくれたカレーを口に入

れると


「旨い、やっぱ紗季ちゃんの作ってくれたカレ

 ーは絶品だ」


紗季は泣き腫らした瞼を手で拭うと、苦笑いし

ながら


「冷えて美味しくなんかないわよ」


「紗季ちゃんのカレーは冷えた方が美味しいん

 だよ」


「よく言うわよ・・・」


ゆっくり、立ち上がり、又吉が食べているカレ

ー皿を無理やり取り上げた。


「温め直すわ」


カレーを温め直し、別のお皿にカレーを盛り直し

又吉に差し出すと、


「冷たいのでよかったのに」


又吉は、出されたカレーを口に入れた。


「旨い」


また唸った。


紗季は自分用にカレーをよそうと


「ごめん、しんりさんの顔見たら急におかし

 くなっちゃった、でも、もう大丈夫」


紗季も又、カレーを口にした。


「うわ、辛い・・」


顔をしかめて又吉を見た。

目から火が出る程辛い。


見れば、又吉は、相変わらずおいしそうにほう

ばっている。


「分量間違えたみたい、よく平気で食べられるわ

 よね」


「いいや、美味しいですよ、ちっとも辛くないで

 すよ」


「よく言うわよ、お水空っぽじゃない」


立ち上がった紗季は、空になったコップに水をそ

そぐと、又吉の前に差し出した。


「ダメ、これはもう食べちゃダメ、私の沽券にか

 かわるから」


カレー皿を持つと、流し台に持って行った。


「ところでなんですか、思い出したことって」


「あっ、そうそう、実は、ゴホン・・・」


言いながら、又吉はむせると、コップの水を一気

に飲み干した。


「ほら、やっぱり、我慢して食べてくれてたんで

 しょ」


普段の紗季に戻っていた。

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