第1話 保護

 自分には記憶がない。あるのは自分の名前である「ダイコ」位しか

覚えているものがなかった。最初は。


 1週間前の事である。ふと目を覚ましたらそこは仄暗い一室に一人佇んでいた。寝ていたのか、自分の意思でそこにいるのか分からなかった。


 前の記憶がなく、なぜここにいるのかも分からず、ただひたすらどの位の時間か呆然としていた所に、いきなり何か蹴破る音と共に、光が差し込み、複数の人達が入り込む。


 ギラギラとした細く鋭い棒? みたいなものを自分に差し向けて警戒しながら声をかけてくる。


「お前は…人間か? ここで何をしている??」


女…性…の声だ。ここで…何をしている? うん…自分が知りたい。


「ここで…? 自分は…ここで何をしているんでしょうか?」


 はぁ? といいたげな顔をしながら細くギラギラとした棒? を突き付け困った顔をしている自分に再度問いかける。


「魔物ではないようだが…意思の疎通にかけるな。魅了魔法でもかけられたか。」


「おい、こんな深層に一人でいること自体異常だぞ。トラップの類じゃないのか?」


「いやしかし魔物が人語を解することがあるわけなかろう。どこかのチームからはぐれたか?」


 よくみると最初に声をかけた細くギラギラした棒? をもった女性の他にも数人いる。5人…いや扉の外にも何人かいる。


「君の名は?」


 細くギラギラした棒? を鞘にしまいつつ、扉の方から差し込む淡い光が女性の頬を照らす。


 照らされた顔をじっと見つめ、蒼く佇んだ瞳を見つめながらつぶやく。


「綺麗な人だ…な」


「んっ?! な、名前を聞いておるのだ! 私は!」


 想定していた問答の内容から逸脱した返答に、女は困惑し、声がうわずる。


「ダ、ダイコ…です。多分…」


「多分…?」


 いきさつというか、何も記憶のないいきさつを簡潔に話し、逆に困惑する女とその周りのチーム? と呼ばれる声が互いに行き交う。


 怪しいが、そのままにしておくわけにもいかんだろうとの意見がまとまり、保護される事となった。


 そして自分がいまどのような状況・状態にあるか知るにはそう時間もかかることはなかった。


 自分が保護されたのはゲートと呼ばれるダンジョン【迷宮】の最下層11Fであった。保護してくれたのは蒼眼(そうがん)とよばれる冒険団(クラン)で、その名前の由来でもある蒼眼のリーナ・団長が率いる遠征中に発見・そして今に至る。


 ほぼ探索も終え、そろそろ帰ろうかとしたときに部屋から光が漏れている、怪しい部屋があるとの報告を受け立ち入った所、自分がいたとの事であった。


 地上に戻るときに色々と尋問を受けるも、何も答えられることもなくむしろこの状況を教えるという有様に、困った顔をするリーナであった。


 しかし…すごい美女だな。初めてこんな美女見る。

 蒼く、腰ほどまでに伸びたまっすぐな蒼髪に、大きくお人形さんみたいなパッチリとした蒼い眼。ていうか顔が小さい。身長は自分とほぼ同じだけど、顔が明らかに小さい。


 体には鉄? の胸を覆うプレートみたいな防具を仕込み、腰には腰布? みたいな同じく鉄? のビラビラが、スカートかな? を纏っている。


 防具を着込んでいるにも関わらず、体のラインがとても美しく、胸はどちらかというと無い方だが、引き締まった腕・足がまるでパリコレに出るモデルみたいだ。

――パリコレ? ――モデル?? なんだそれ…?


 うーん。口から出た言葉に詰まる。さっきから自分の頭の中に出る言葉にそれはなんだ? と考え込み、そしてまた湧き出る言葉にまた考え込む。


 そんな話を聞きながら、しかめっ面をしている自分にリーナは優しく声をかける。


「大丈夫? さっきから話すたびに苦しい顔してる」


「あ、いや、苦しいというかもどかしいというか…」


「心の中には記憶・言葉の源泉が、湖面いっぱいにあるのに、それをすくえないというか。」


「考えすぎは良くないよ。無理して悪化してもいけないし。」


「地上に戻って中央街に行けば医者や神官もいるし、なんとかなるよ。もしかすると精神封鎖かけられているかも。」


「精神封鎖?」


「あ、魔物が持つスキルの一つなんだけど、魔呪使いの持つスキルを封じる厄介なスキルがあってね。」


「それかけられると稀に記憶喪失みたいな状態に陥る事があるの。それかもしれない。」


「うちにも優秀な治療者(ヒーラー)はいるけど、たいていは時間経つと封鎖が解けるし、すぐに 解呪できるんだよね。だけど解呪かけても変化ないし、もしかすると重度の精神封鎖をかけられてるかもしれない。」


「そこまでひどいと大神官クラスじゃないと解呪できないからさ。なんにしてもここでは無理っていう話」


「そっか…」


「にしても…装備無しでっていうか丸腰でアイテムすら持ってない状態でここまで来るってのもほんと神がかり的な状況だよね」


 そう。保護されたときに持っていたものは何もなく、いや、ポケットに薄い青色のカードと白っぽいカードをだけ持っていた。


 掌サイズの薄く青いカードの盤面にはこう記されてあった。


          社…会……保険…証…??


 なんだこれ・・? 幾何学的な模様みたいな文字とも取れる言葉に何か懐かしいものを感じる。盤面中央は擦れているせいか上手く読めない。だけど…なぜか読める・・これは文字だと心が告げる。


 リーナにも見せたまったく読めず、というか文字かどうかすらわからない。


 古文書に精通する蒼眼クランの魔呪使いにみせるも全く見たことのない文字だとのことで。


 同じように白く薄いカードには何やら首の長く黄色い動物? が描かれており、その隣には先ほど書いてあった文字より簡素な形でこう書いてあった。


          na…na……co??


 ななこ? 読めるのだが、それが何を意味しているのか分からない。

 裏面にも細かい文字が書いてあるのだが、何を意味しているのかさっぱり分からない。手がかりという手がかりもなく、そうして世界のことを教わりながら地上へと一歩一歩進める。


「出口だ」


 地上まではどのくらいかかったのだろうか。途中休憩を挟みつつも、1日はかかってない。多分。およそ8時間位かかってはいるだろうか。


 そうして大きな大きな扉の前に立つ。

 岩壁に面するその巨大な扉に声が思わず漏れる。


「でか…」


 あっけにとられている自分にかまわずクラン員達は歩を進める。


 どれ位の大きさだろうか? 高さは―20mくらいある…か?


 幅は10m位の大きい大きい扉。


 そもそもこんな大きな扉どうやって開けるんだ? そう思いつつも取り残されまいと足を進める。


 先頭が扉に近づいた瞬間、フッと消える。


 「え?」


 人が集団で消えたことなんてお構いなしに次々と近寄っては消えていく人の波。

 あっけにとらえられている自分の横顔をリーナは何をしてるの? とばかりの表情で覗き込み、そして手を引っ張り扉へ近づく。


「ちょ…っと、待って! それやばい!」


「ふふっ 何言ってんの? 行こう!」


 引っ張られ扉に後一歩分の距離に来たところで光に包まれ、そして景色が変わる。あの薄暗いダンジョンからうって変わって視界には赤く、そして薄暗くなりつつある夕日が飛び込んでくる。


 外だ。木々に囲まれたその場所は ゲートと呼ばれるダンジョンの入り口に自分達はいた。


 この世界には3つの国からなりたっており、その3つの国が交わる中央の円を描いた地域がある。


 その地域から見て北・東・西に国があり、3国が交わる部分を中央圏と呼ぶ。


 中央圏から北にある国は【エースランド】専制君主制の国であり、王様を頂点とした非常に豊かな国である。この世界の北側は非常に気候が安定しており、温度も比較的暖かく、王国中央にある世界の食糧庫とも呼べる肥沃なサファリティ平原地帯を擁しており、世界経済の要といってもいい国である。


 東には軍事に発達した共和制国家【エントラント】があり、西にははるか昔に大商人エンヤが興した商和主義国家【ダッカーランド】がある。

 商和主義・・・?なんだか聞き覚えの無い言葉だ。


 南にも地域があるということらしいのだが、ここは南方絶壁の先にあり【暗黒大陸】別名:不可侵地域 と呼ばれるらしい。


 東国と西国、中央圏に沿う形で存在する南方絶壁があり、雲の先までそびえたつその壁? 山? は人の力では到底越えることのできない高さらしく、過去に幾度となく冒険者がそびえたつ絶壁を乗り越えようと試みたが、未だ誰も超える事はできなかった。


 何があるかわからない場所、未だ誰も侵入することは叶わなかった為、暗黒大陸と名付けられたらしい。


 今いるゲートとよばれるダンジョンの入り口は中央圏にのみ存在しており、南方絶壁に多く存在している。


 自分が発見された場所は【月灯りの洞穴】と呼ばれるゲートであり、比較的中級者向けだ。11階層で構成されており魔物もゴブリン・中層にはオークが住み着いており、人型亜種系で構成されている。


 育成にはもってこいのゲートで、蒼眼クランも団員育成の為に来ていたとのことだった。


 ゲートから中央街までは徒歩で6時間少々。そんなに遠くない。


 このびっくりワープにまだドキドキしつつも一路本拠のある中央街まで戻るのであった。


 戻る途中、自分がみんなと服装が違うことに気付いた。


 そもそも武装はしていないのだから当然なのだが、形状が明らかに違うのである。上下黒の柔らかい布のに白い襟がついたシャツに―何やら首元に赤のロープを巻いている。


 最初リーナが貴族? って聞いていたのは後々わかることとなるが…

 やたらポケット多いなこの服は…ポケットをまさぐっているとなにやら古代文字で書いてあり、白く、服に縫い付けてある証みたいなものを発見する。


A…O…KI? あおき? なんだこれは。


 人の名前だろうか。これを作った人の銘なのか。悩んでも答えは出ず、そうこうしているうちに中央街へたどり着くのであった。


 中央街―――それは中央圏に位置する最大都市の名前である。


 そもそも中央圏はこの世界にある3国のどの領地にもあたらない中立地である。


 理由は様々あるのだが、まずここにしかないものがある。


 それはゲートと呼ばれるダンジョンである。ゲートはこの中央圏付近にしか存在せず、それを攻略する目的で集まった人々達【冒険者】達が最初に休息場所の為に作った場所が中央街であった。


 それは1000年以上前の話であり、当時はもっと国があり空白地も多数存在していた。その一つが中央街近辺であり、そこに不思議なゲートが発見されそこから発見される未知の鉱石・アイテムを人々は求め、休息所から村になり、そして街になり

都市になり今日を迎える。


 経緯はこのようなものだが、そこに至るまでに様々な組織が生まれ、その中でも一番重要である組織【ギルド】が誕生したのである。


ギルドとは当初冒険者の互いに情報交換等おこなう寄合組織であったが、未知の鉱石・アイテムが発見されるにつれて利害の不一致による冒険者同士の諍いが絶えず行われ、クラン同士の戦争が危惧される事態となってしまった。


 そこで当時12の有力なクランがあつまり、自治組織として誕生したのが【ギルド】であり、今日では様々なサポートや場合によっては法による拘束等、行う中央街で一番の組織となったのであった。


 ここ数世紀においては、時代の変遷によってギルドに求められるものも変わっており現在ではこの中央圏を統括し、運営する組織として機能しているのであった。


 ギルドが司るものは多数あり、その中でもゲート通行権を管理している唯一の組織でもある。ゲートは鍵が無くては入ることは叶わず、現在発見されている51のゲートは全てギルドが鍵を独占・管理しており、冒険者たちがゲートに入るにはまずギルドに所属することが第一条件となっているのであった。


 ゲートから発見されるものは全てこの世には今まで存在しなかったものばかりでそれは国を治める者たちにとって莫大な利権・利益になるものでもある。


 ゲートを誰が統治・独占するのかで国の興盛が決まるといった時代もあったが、多数の実力者をかかえるギルドによって幾度となく防がれ、今日では唯一の中立地、自治を認められる地域として確立するのであった。


 ギルドができてから約900年、今では人口30万を超える都市として成長を遂げ、

一国家並みの力を備えるまでになった。ちなみに中央街が中央都市と名前を変えないのはギルド法に名前が中央街と記されているかららしい。ここまで来ると変えるには相当労力かかるから変えない説の方が有力らしいけど。


 中央街を囲うように高い壁・・城壁みたいなものが先が見えなくなるまで続く。

 その前には堀があり、水が貯められている。もはや川という大きさの堀だ。

 中央街には複数の出入り口【門】がありここは南門【アレス門】。

 完全に戦争用に備えてあろう門だ。左右には塔があり、矢を装備している兵がチラチラ視界に入る。


 門の大きさはゲートより大きく高さ30mはあろうかという大きさに幅も同じように30mはあろうかという広さ。門番みたいなものいるしこりゃ本格的だ。…なにが本格的??


 そう心にささくれたつ違和感をスルーしつつ門を抜け、一路中央街中央部にある大聖堂へ向かう。


 門から連なる大通りには軒を連ねるように商店が立ち並ぶ。


 武器・防具・何やら怪しい色をした薬っぽい何か、食糧。


 ここ南門はゲートに一番近く、冒険者が必ず立ち寄るルートであるためそういった商店が数多くあるとのことだった。


 商店だけではなく、ギルドの分店や公共施設・宿屋・酒場などとても密集している地域らしい。


 キョロキョロしながら初めて見る品々に心奪われつつ、大聖堂へ到着し早速大神官へ診てもらうことになった。


「リーナ団長。我々は先にギルドへ報告行ってきます。」


「ごめん! お願い。後で酒場で合流しよ!」


 クラン員達と分かればなれになり二人で待合室へ移動した。


「あの、リーナさん。なんか色々と面倒かけてしまってすいません。」


「気にしないでよ。あそこで放置なんてできるわけないし。」


「それに…いろいろと、その…興味あるし…」


「興味?!」


「あ、いや、えと、その…ほら! 丸腰で最下層行くくらいだしどれほどのレベルの冒険者かなーーって。」


 顔を少しそむけつつ、モジモジしながら慌てて反応する。


「冒険者…か。そもそも自分って冒険者なのかな。」


「え? いやまず間違いなく冒険者でしょ。」


「なんで?? そう言い切れる根拠は??」


「だってゲート内にいたのよ? てことはまず間違いなく冒険者でしょ。」


「ゲート内にいた事が根拠なんですか??」


「そりゃそうよ。だってゲートに入れる鍵持ってないと入れないもの。」


「鍵…?」


「そうよ。ゲートに入るには必ず鍵が必要であり、鍵はギルドに所属している冒険者でないと手に入れられないもの。」


「だけど…鍵とかなにももってなかったですよ??」


「あぁ…鍵っていうか証っていうか」


「そだ。その前に登録紋確認してもいい??」


「登録紋??」


「そう。冒険者がギルドに加入したら背中にギルド所属の登録紋を魔法で刻むの。」


「加入した時期とか名前とかそういう類のもので、後にクランに入ればその事もね」


「じゃあ、リーナさんも登録紋背中にあるんだ?」


「もちろん。さぁちょっと背中めくってみて」


 この妙に動きづらい服の上着をめくりつつ、背中をリーナに見てもらう。


「……ない。」


「そんなわけ――隠されてる?? いや…そんな登録紋あるとか聞いたことないし……」


 リーナは困惑の表情をみせつつ、ぶつぶつと独り言を言い始めた。

 ちょうどその時、大神官の使いが待合室から本殿まで移動の連絡が告げられた。


 本殿へ移動の最中、リーナは繰り返しこちらをみてはぶつぶつと独り言をつぶやいていた。そして本殿へ大神官に状態を診てもらう。


「うーーむ。リーナ殿…特にこのお方は何も呪い等受けられてないのう。精神共に非常に健やかとみうけられる。」


「そ、そうですか。では記憶のほうは…?」


「それはわからないが、何か戦いの途中で強い衝撃を受けて忘れる事は多々あり、それかもしれん。ただ一つ言えることは彼は精神共に健康であるということじゃな。後は時間に身をゆだねるしかなかろう。」


「…わかりました。大神官様ありがとうございました。」


 リーナがお礼のお金? らしきものを大神官の使いに渡す。


 どうやらこの記憶喪失は魔法等ではないということははっきりしたらしい。


<大聖堂前>


「えと・・そのごめんなさい。」


「え?! いやいや、おれがむしろ謝るというか感謝を言わなきゃというか。」


「記憶…結局戻らなかったし。」


「そんな。むしろここまで保護してくれて助かったというか。お金もださせてしまって。本当にどう感謝を表していいのか。今日診てもらった代金は必ずなんとかしてお返しするから。」


「そんな大したお金じゃないから…気にしないで!」


「でも…なんで…ゲート内に……」


「えっ?」


「あ、いやなんでもないから…」


きまずい空気が流れつつもリーナが切り出す。


「えと、行くあてはあるの??」


「あ、行くあては…ははっ、もちろんない…よね(汗」


「そ。そうだよね! ごめん。何言ってんだろわたし。」


「あの、じゃあこれから一緒にご飯でもどうかな??」


「近くにみんなと合流予定の酒場までなんだケド…?」


「も、もちろん行っていいならぜひ!」


 そうして合流地点の酒場へ移動する。

 途中変な空気を醸し出しながら――移動する。


 酒場周辺は歓楽街にあたるらしく、冒険者たちが日ごろの労をねぎらうべく

繰り出し、大変な喧噪のなか人々が入り乱れていた。


 いろんな大小の酒場や、布面積の非常に小さい服をきた色っぽいおねーさんが立って手招きしてたりと(手招きをみてたらリーナの鋭い目線が…)様々な誘惑にかられつつ、酒場の前に到着。


<酒場:シロレッツの泉>

 そう書いてある酒場には店内に多くの先客がおり、たいそうにぎやかであった。そういえば…自分この言葉読めるんだな。


 何者なんだろうか。もしかして記憶失う前は学者とかだったりして。

 くだらないことを考えつつ、店内へ入る。


 入るとすぐに店員と思われるきれいなおねーさん…に声をかけられる。

あれ、この人耳が頭の上にある…??


「こんばんわなり! リーナ!!」


なり…? おまえは公家か……ん公家??


 いつもの葛藤をしつつも、店員の耳とよくみたら尻尾がある。

 失礼とは思いつつもジロジロみていると


「もうお仲間たちは上で始めているなりよ! そして…この私をジロジロと嘗め回すようにみている男はだれナリか??」


 はっとした顔ですぐ視線を外に逸らす。


「あ、あぁこの人はちょっとゲート絡みで知り合った人で。」


「あ、ダイコといいます。はじめまして。」


「そうナリか。まぁいいナリ。はやく上へ上がるナリよ」


 2F奥のテーブルに陣取る集団が蒼眼クランとすぐに分かった。

 上がるとすぐ見つかり手招きされ、集団に加わる。


 椅子に座るとすぐにお酒っぽいものがグラスと共にリーナにも届けられる。


「お酒…」


「ダイコはお酒飲めるの?」


「うーん。多分…」


「飲んだことあると思う。多分」


 匂いを嗅ぐと甘い匂いが。果実酒のようだ。度数は控えめらしい。

 一般的にまず最初の一杯はこの果実酒【チョーヤー】らしい。

 なんか聞いたことあるような無いような。


「では本日の遠征を無事に終えられたという事で」


「みんなの無事を喜びつつ」


「乾杯!!」


 乾杯の音頭を取ったのは副団長のマルヤ・スカーナ。


 みんなには副団長というよりマルちゃんってよばれているマスコット的な位置な人らしい。


 マルちゃんは身長が140㎝ほどしかない小人族で、職業は魔呪師。簡単に言うと魔法で敵をやっつける役らしい。

 

 髪は瑠璃色のショートカットでとても活発なやんゃな子っていう感じ。実際にゲート帰り際で戦いをみたけど、本来後衛なのに前線に出て魔物を魔法で葬る姿から別名:肉弾魔 と周りから言われてるらしい。


 すごい魔呪師らしいけど…こうやって見てる分にはまるで自分の娘みたいな感じだな。何歳なんだろう。15くらい??


「だーーかーーらーーあたしあいきおくれているのですーーーー!」


「は、はぁ」


「げーとにこもってもう10年くらいだけどーー」


「いっーーーーーーこうにあいてがみつからないのですーーー」


 やばいこのマスコット。絡み酒だ。しかも性質悪いやつだ。

 飲み始めてからまだ30分しかたってない。そんなに言うほど飲んでない。


「いやでも10年も無事に帰ってこれるだけで凄い事じゃないですか。あはは…ん10年……??」


「そうよ。この身捧げて10年近く…あああああああ」


 あれ…? 自分このマスコット15才位と思ってたけど。

 それだと5歳くらいから所属してる事になる。


「あ、、あの、、つかぬ事聞きますが…いくつの時からゲートへ??」


「あぁん? 15のころからだ。なんかもんくありそうだなこのやろーーーー!」


「え? じゃ、じゃあ10年ということは今25歳??」


「らいねん30だコノヤローーー!!!!」


 ええぇぇぇぇ!! どうみてもこれ未成年だろ。。三十路前とかありえん。。。

 おれより年上…?いや。その前に自分何歳なんだ??


「マルとても30にはみえないでしょ?」


「らいねん30だコノヤローー! まだだ!」


「ふふっごめんごめん。」


 そういってほかのクラン員にも絡み始める。


「お酒弱いのに好きなのは悪い癖よね」


「あ、いえ」


 自分の隣に来たのは治療師(ヒーラー)のヤン・ゴールドバーグ。

 複数いる治療士の中で筆頭格のヒーラーさんらしい。ていうかこのクラン総勢何人いるんだろ。


 自然なカーブがかかった肩より少し長い黒髪に整った目口鼻。

 美女だ。うん。美女。このあふれ出る色気は酒場に映える。


 握りこぶし一つ分の距離は急に距離を縮め、顔がまじかに接近する。


「細い目…」


「あ、一応見えるくらいは開いてます…」


「うふふ、おもしろいコ。」


 酒場にはいろんな匂いが充満している。お酒の匂い。煙の臭い。油のにおい。

 だけどこの空間には嗅いだことのない、いい匂いが充満している。


「あなた…登録紋ないんだってね。」


 急に胸がドキッとする。登録紋がない事の重大さではなく。


「あ、はい。ないみたいで…(汗」


「うち、くる?」


「うち? このクランですか??」


 急な話で目が泳ぐ。泳いだ先にヤンと目が合う。


 しばらく見つめあっていた二人のわずかな隙間から、鬼のような顔をした団長様が割って入る。


「なにしてるのかしら おふたりさん(怒」


 ひきつる鬼がそこにある。


「あらリーナ。ちょっと勧誘をね。」


「この子登録紋ないっていうじゃない。だったら…ねぇ?」


 どういう顔をしていいかわからない自分に、鬼は睨みつける。


「ダイコはどうするの? 今後。」


割り込みながら二人の間に座り、不機嫌そうに言い放つ。


「いやどうもこうも。今の自分は今日から新しく生まれたようなもんだし。そもそも冒険者とかの前にこの世界すらわからないわけで。」


 何を言ってるのか自分でもわからない。焦りながら言葉を探し唾を飲む。


「言うなれば赤ちゃんみたいなもんで。」


 冷や汗をかきながら言い終わる前に、リーナと自分を割り込むようにヤンが腕を寄せる。


「じゃあこの赤ちゃんは保護者が必要ね。わたしお母さん役よりはもっと別の役が得意だけど…」


 再び胸が高鳴る。

 その時横からもたれかかる誰かが。天の助け? いや…

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