浅田正平のくだらない日常

江土木浪漫

別に俺は異常ではない

 俺はどうも変態らしい。我が心の友、同級生同学年の幼馴染である月田智明曰く『歴史上稀に見るレベルの変態』だと云う。しかし俺自身はその自覚は無い。何故ならば、俺は変態といっても精々が、女子の入った後の便所で飯を食べたいというレベルなのだから、まだ変態ではないのだと主張したい。

 何故、女子の入った後の便所で飯を食べたいかというと、便所というのはジャイロ的アレがなんやかんや働いて水を下水道へ流しているというのは誰もが知っている事だ。しかしそのジャイロ効果で中空に便所水が、さながら霧吹きめいて巻き上げられるというのは、有名な話。

 さて、つまり……そんな中で飯を食うというのがどういう事かというと、女の子の聖水や聖遺物を躰に纏い乍ら飯を喰らうという、途轍もなく興奮する状況が出来上がる訳だ。

 聖水プレイというのは途轍もなく興奮する。そりゃあもう、途轍もなく。勿論、ブサイクは御免だ。こう云えば女共は俺を批判するだろうが、逆の立場で考えたら女もブサメンは無理と云うだろう。云うに決まっている。中身を見るにもまずは外見で判断するのが人間というものだ。まあ、中身は中身でも財布の中身をちらつかせれば女は来るかもしれないが……。

 まあそれはともかく、俺の性癖は決して異常ではない。糞に塗れたいとか、そういう願望を持っている訳じゃないのだから。

 その旨を、放課後の教室で律儀に雑談に付き合ってくれている唯一無二の友人に云いたい。

「つまり俺は変態ではない、解ってくれたかな月田」

「いやその理屈はおかしい」

 俺の目の前にいる、どこぞのアイドル事務所に入ってドラマを二~三本程撮ってそうな甘いマスクのイケメン野郎、月田智明は呆れ顔で俺の理論を否定した。おかしいかな、と若干黄昏ながら、窓を見る。窓にはさながら、生気を吸い取られた死体のような顔と、枯木のように細い躰が映っていた。空は鉛色で、しんしんと雪が降っている。もう十五年も見た光景だ。

「お前と幼馴染だと、劣等感で押し潰されそうだ……」

「何言ってんだ、ゲームとアニメに関する知識はお前の勝ちじゃないか」

 はぁ、と溜息を付く俺に、何処かずれた感じの慰めをしてくる智明。

 成績に関して言えば、俺とこいつの差はさながら、ザクとゲルググ、そのくらいの埋めようのない差が付いている。とはいえ確かに、アニメやゲームに関する知識と性知識においては、俺は確実にこの学校の頂点に立ってると言えるだろう。

 だが、それが何の役に立つかと問われれば、何の役にも立たないと返す他ない。いや、ワンチャン会社のアニオタ上司に気に入られる可能性が無きにしも非ずではあるか。とはいえそんなのを期待するより、まだ競輪に期待する方が期待値は上であろう。

 何でイケメンで頭もよくて成績も優秀なのだろうか。神は天に二物を与えずというが、二物どころかかなり与えているではないか。そう愚痴らずにはいられない。しかも智明の家は金持ち、まあそれに関しては俺の方もかなりのものだが、とはいえ所詮は子供、所持金にそれほどの差は無い。

「なんで俺には彼女が出来ないのかねぇ……」

「何でって……そりゃお前」

「ああ言わなくていい言わなくていい。自覚しているから」

 俺の顔は死んでいるように細い。頭蓋骨に皮と毛と目玉を入れただけのような、黒いパーカー被って顔を白く塗れば簡単に死神の完成だ。

 ひび割れた唇も、かさかさの肌も。ぶっちゃけて云うと俺の躰は若者のそれではなく、中年くらいのそれだ。

「彼女……欲しいなぁ」

 しんしんと降る雪を眺めながら、俺は心底呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

浅田正平のくだらない日常 江土木浪漫 @Morinphen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ