起きて半畳ゲーム一畳……『ロビンソン漂流記』

ボードゲームと言えば「みんなでわいわい」ってな第一印象の方が多いのではないでしょうか。


世の中には一人用アナログゲームも結構存在します。

行きつけの喫茶店のテーブルでトランプを広げ、少し物憂げにクロンダイク(Windowsのソリティアですね)やモンテカルロを遊ぶ……

面子が帰って、散らかり放題の部屋の中で雀マット上の牌を片附ける気にもなれず、そのままぼんやりとリアル『四川省』を始めてみる……

どちらにも風情がありますが、これでは弱いです。

トランプや麻雀の本道からのおこぼれ感が拭いされない。


今回ご紹介するのは1人プレイ専用のゲームセット。

『ロビンソン漂流記』です。

デザイナーは有名ゲームデザイナーのフリードマン・フリーゼ。


ボードゲームはメンバーが揃わないと言うあなたも、一人で遊ぶならスマホゲーで充分などと言わずに、

ものの試しにAmazonのカートに入れちゃいましょう。

お値段も2000円以下ですので、とってもお手頃かつ面白さは以下で説明しますが保証付き。


タイトルから分かるようにロビンソンクルーソーです。

「フライデイが美少女だったら嬉しかったのに……」とか、

「新鮮な清水にオレンジを絞って飲むのを真似したら不味かったよ……」とか

「文明と宗教を拠り所として、無人島やフライデイの中に自分の王国を作り出していく西洋人的ビルドゥングス」とか

「ロビンソンってブラック企業経営者だよね」とか段々個人的偏見の書きたい放題になってきましたが、

みんな子供の頃一度は読んだアレですよ。


さてさて、『ロビンソン漂流記』はそのロビンソンクルーソーになって、無人島での日々を過ごすわけですが、このゲーム、ただ無人島で生き延びるのではありません。

ラスボスである海賊たち、それも海賊船2隻分を次々と倒し船を乗っ取って帰還するのです。

原作のロビンソンと言うよりは全盛期のスティーブン・セガールの様なノリですね。

『沈黙の海賊船』とか呼んでみましょうか。


千里の道も一歩から、海賊どもをぶち殺す前にまずは難破船から積み荷を探す地道な作業から始めましょう。


ゲームの内容物は縦長のちょっと変わったものを含むカードの山(ラスボスの海賊を決定するもの、島での災難を表すもの、ロビンソンの状態を表すものの3種類です)と謎の緑色した体力を表すコマ、カード置き場となってる小さなゲーム板くらい。全部広げても座布団一枚の省スペースゲームです。


ゲーム開始と共に、何種類かある海賊船カードの中から2枚をめくってボスを決定します。

ボスの大半には特殊能力がありますので、最終戦闘の前にボスの弱点を突けるようにロビンソンを鍛えておくのがコツ。

と言いたいところですが、初プレイのロビンソンは海賊とご対面する前に無人島で死体になるので適当でいいです。


後はルールの小冊子にあるように、残りのカードをロビンソンデッキと災難デッキに分けて、謎の緑色した体力コマを積み上げればプレイの準備は完了です。

大きな流れは下の通り。


①災難カードから2枚めくる(カードには、何枚のロビンソンカードで何点のスコアを出せればクリアか書いてある)

②どちらの災難に挑戦するか決める

③ロビンソンカードを指定された枚数めくって、災難カードで指定された以上のスコアを出せればクリア。

④スコアが不足していれば体力コマと引き換えに追加でロビンソンカードをめくってもよい

⑤災難をクリアできたら、災難カードををロビンソンカードの捨て札に入れる。

⑥クリアできなければ災難カードを捨て、クリアに不足した分だけ体力を減らして、ロビンソンカードを「整理」できる。

⑦ ①に戻って繰り返す。体力コマが無くなればゲームオーバー。


災難/ロビンソンどちらのカードもデッキがなくなったら捨て札を切り直してデッキにします。


災難を解決するためには良いスコアの書かれたロビンソンカードを引かなければならないのですが、

このロビンソンデッキの初期の編成が酷い…めくってスコア0ならまだましな方で、中にはマイナスのカードまで相当数混じっています。

ロビンソンのカード名にしても「バカ」「大バカ」「自殺願望」等と書かれていて、そこに描かれたロビンソンの顔と来たらカード名そのまんまでで思わず「アウト!」と言いたくもなります。


クリアした災難カードは先に書いたように、ロビンソンカードとなり、強いスコアになったり、体力回復、カードを追加引き等の特殊能力を与えてくれます。

こうしてロビンソンデッキが強化されていく事でロビンソンが島に適応していく様をシステムで表現している訳ですね。もう貧弱な坊やとは言わせません。


強い災難カードをクリアして手元に入れたいけど、現在のロビンソンカードが弱すぎる……ここで大事なのが⑥の「カード整理」です。

災難クリアに失敗したら、その際めくったロビンソンカードを何枚か体力と引き換えにゲームから除去できます。

除去されたカードはもうゲームに出てきません。

勘の良い方はもう気付かれたと思いますが、弱いカードを早めに除去しておけば後半で楽が出来ます。

一つの真理ですね。「手痛い失敗からしか人間学ばない」


じゃあ、災難にわざと失敗しまくってロビンソンデッキを強いカードだけにしてしまう……

あなたはどっかの体罰教師ですか?

カードの整理は謎の緑色した体力コマと引き換えです。

失敗から学ぶどころか、ロビンソンはたちまち死体に変わってしまいます。


強い災難カードを多少無理をしても取りに行く?

この場合、余分にカードを引くための体力コマの消費が激しくなりますし、

入手した強い災難カードはロビンソンカードの捨て札に入る…つまり今のデッキが終わり、次のカード切り直し以降から役立ってくれるのです。

それまでロビンソンの体力は残っているでしょうか。


更に悩ましいのは、このゲームが3ラウンド制の構造になっている点。

災難のデッキが尽きると捨て札を切り直して、第2ラウンドの開始となります。ラウンドが進むにつれ災難クリアへのハードル(必要スコア)が上がっていくのです。

おまけに達成困難な災難カードを選ばず捨て札にしていくと、第2、3ラウンドにまとめて出てきます。

体力の残り、現在のロビンソンデッキの中身、次のラウンドでの行動、全てを考えて決断しなくてはなりません。


決断を魅力的にするのは、このゲームのどこにもズルが無い事です。

スマホゲーのガチャに始まる「明らかに裏でズルが行われているけど自分で立証できず、モヤモヤしたまま取り敢えず遊んでゲームした気になる」なんて事とは全く無縁。

カードをシャッフルして積み上げたのも、2枚の災難のどちらかを選んだのも、追加で何枚引くか判断したのも、すべて自分です。


まさに孤島のロビンソンが自分の「王国」を築き上げたのをゲームで追体験できる訳です。

原作のロビンソンは運任せの冒険野郎ではなく、用心深い几帳面な男でしたが、このゲームでも己のツキを信じて突き進むより、カードの引きは悪いものと考えてリスクを織り込んだ方が生還率は高い筈です。


しかしロビンソンに代わりは幾らでもいますので、気合を入れてカードを引きまくり、ダメなら死ぬ覚悟の無謀なプレイも楽しいものです。

きっと次のロビンソンはうまくやってくれることでしょう。


一人で遊べて、初めてのプレイでも1時間も掛からず、場所も座布団一枚のスペースでOK、お値段も手ごろとあれば、非電源ゲーム入門にぴったりです。

難易度の調整やハイスコアを競ったりと、かゆい所に手が届く仕組みもちゃんと搭載してありますよ。

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