『Infarkt』生き抜くための不健康生活
ボクサーの様な身体になりたくないですか。
あの割れた腹筋が、幅の広い背中が、丸く盛り上がった肩が、
筋の浮かび上がったふくらはぎが、あの全てが欲しい
いや、初っ端から少し飛ばし過ぎました。
ご承知の様にボクサーの身体の美しさと言うのは、
厳しい階級制の中で戦うために、
増量と減量を繰り返しながら作り上げてきた機能美です。
文字通りの意味でのボディメイク。
さあ、あなたも非電源ゲームで命を懸けた過酷なボディメイクに挑んで見ませんか。
今回のタイトルは『Infarkt』心筋梗塞…でしょうか?
日本語版は『心臓発作にならないための10の方法』として発売中です。
原題よりは政治的に正しそうなタイトルですね。
*ちょっと毒の強いボードゲームです*
以降ご注意ください。
まずプレイヤー全員に渡されるのが、一人一人の健康状態の描かれたゲームボード。
ここに書いてある項目と言ったら……
コレステロール、血圧、肥満、鬱、糖尿病、癌。
どれもこれも健康診断で見覚えのある項目ばかりで、ここでプレイヤー全員が乾いた笑いを浮かべる事でしょう。
異常、いや以上6つのバロメーターは0から10の値で管理され、
10の部分には墓標のアイコンが書いてある(正確には肥満以外)ので、
「ヤバい、どれも増やしちゃなんねーだよ」と直感で分かります。
テーブルの中央に置かれた全員共有のゲームボードには、オフィスやらジムやらスーパーマーケットやらが描かれています。
ゲームの目的はとっても簡単「健康を維持して長生きしよう、……誰よりも!」
実際のゲームプレイは下記の流れで行われます。
① 人生イベントの解決
② そのラウンドの自分のアクションの予約
③ 実際のアクション
以下繰り返しです。
1ラウンドに取れるアクションは3つですが、
1つの場所(職場やらスーパーやら)に置けるコマ(アクションの予約に使います)の数がそれぞれ限られています。
つまり、どうしても行いたいアクションは早めに予約しておかないと、他のプレイヤーにふさがれていってしまう…いわゆるワーカープレイスメントと呼ばれるタイプのデザインですね。
では、さっそく職場にコマを置きましょう。
職場の効用は…「お金+3 鬱+2」
だあっ!!そのまんま過ぎるっ!
幸いな事にこのゲームでは1ラウンドに取る3アクションは全部別々でなくてはなりません。
3アクション全て職場なんて事は、この世界の労働基準監督署が許さないのです。
ヨーロッパ万歳!
残ったアクションでジムにでも通いますか。
「お金−1 鬱−1 肥満−1」
後は家でゴロゴロ「鬱−1」して、録り貯めたドラマでも見るか、
スーパーマーケットに買い物にでも行くとしましょう。
ちゃんと定職について、規則的な運動を続ければ長生きできそうな気がしてきましたか?
いえいえ、その考えはデニーズのチョコレートファッジサンデー並みに激甘です。
①の人生イベントカードの中身を少し覗いてみましょう。
あなたはクリスマス好きですか?
私は大好きですよ、あのシーズンしかカーネル・サンダースには会いませんしね。
では『Infarkt』におけるクリスマスとは…
「コレステロール+2 血圧+1 肥満+2 欝−3 糖尿+2」
あははははっ。
職場で管理職候補に抜擢のイベントですか?おめでとうございます。
「欝+2 血圧+1」
次から次へと人生の荒波が悪意を込めて襲い掛かってきます。
でも、この人生の荒波も楽しい仲間たちと一緒なら、乗り切れるはずです。
隣のプレイヤーはわざわざ自分の手番を使って、ホームパーティーに招待してくれるみたいですよ。
カードに描かれたメニューはシュニッツェル?良く分かりませんが豚カツっぽいですね。おいしそう。
後はクラッシックコークですか。楽しい揚げ物パーティーへGo!
……「コレステロール+2 肥満+3 癌+2 糖尿+1」
死ぬ!死んじゃうっ!
しかもよく見ると、パーティーの主催者は出されたメニューを自分では食べていないっ!あの野郎っ!
このゲームにおけるパーティーの意味と言うものが理解できたでしょうか。
美少女にバレンタインのダンスパーティーに招待されたら、会場にはアル・カポネと発狂した炭鉱夫が待っていた位に命に関わります。
パーティーが終わったら主催者にお礼を言い「俺のターンでは我が家でパーティーしましょうね」と微笑んでスーパーマーケットに走りましょう。
スーパーで売られている食材は2種類、豆腐やらアロエドリンクやらの「不味くて自分で食べるもの」とさっきの豚カツやら煙草やらの「美味そうな外見のパーティー用武器」です。
この文字通りの「パーティーアタック」はボディブローのように効いてきます。
何故か?
「コレステロールが一定以上に上がると血圧も上がる、鬱や癌は閾値を超えると自然に悪化していくetc」
イヤなリアリティを持って健康のステータスが悪化していくからです。
もう、どのステータスも限界まで追い詰められた?
近代医学の出番です。
このゲームなぜか病院がない!
その代わりになっているのが薬局なんですが、ここで買えるおクスリの効果は絶大。
末期癌だろうがなんだろうが、速攻で直して見せます。
おまけに副作用はゼロ!
思わずゲームの外箱をひっくり返して、製薬会社のロゴが入っていないか探してしまうレベルの強さです。
毎日ジムに通って有酸素運動、食事は野菜中心の質素なもの、仕事も頑張りすぎずそこそこに。
お金はいざという時の高額医療の為に貯めておく。
ここまでストイックに徹底しないと長生きはできないのですね。
もちろん、これらはフルラウンドを戦い抜くための戦闘法です。
先日プレイした際には序盤からホームパーティーラッシュを仕掛けたプレイヤーと
カウンターブロウのパーティー返しが短期決戦を生みました。
連夜パーティー会場とナイトクラブで飛び交う酒と煙草に脂っこいご馳走…
何度目かのパーティーで最初の犠牲者が倒れます。
それを目の当たりにしたパーティーの主催者自身がショック死、
相次ぐ葬儀に香典が払えなくなった他プレイヤーも巻き添えで世をはかなむという
連鎖する悲劇でゲームは終了…プレイヤー一同は大爆笑です。
はあはあ、
この不謹慎でブラックな『Infarkt』を楽しむにあたって
大事な事が2つあります。
一つ目は「カードは秘匿した方が面白い」
ルールでは医薬品や食料は全員オープンでプレイする事となっていますが、
手札として隠し持って、いつ誰がパーティーを始めるか分からなくさせた方がこのゲームは盛り上がります。
二つ目は「飲み物はコーラで」
こんなゲームをプレイする時にお茶やら豆乳やら飲んでいたら、
微妙な空気になる事、間違いなし。
カフェイン強めのコーラやケミカルな色合いの炭酸飲料で苦みを残しつつ笑い飛ばしちゃいましょう。
ちよっと遊ぶ人は選ぶゲームですが「たのしいゲームパーティー」いかがでしょうか。
(外箱にもでかでかとPartyGameと入っているんですよ)
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