第2話嵐が町を襲う

 自然の力がすごいことは知っているわ。3年前の嵐の時は町中が大変だったもの。電気や水道が使えなくなるしお父さんの畑も被害を受けた。でもそれは自然のことだからしょうがないなってその時は思えたし、みんな頑張って町も元通りになってきたわ。

 でも今町をおおっている空気はそんなものじゃないの。大人たちが難しい顔をして町のあちこちで話しているわ。この間も「このままじゃこの国も俺たちも危ないぞ。あいつらの言いなりになっていたら俺たちは生きていけなくなるに決っている。今こそ武器を持ってみんなで戦うべきだ。平和を守るには戦うしかないんだよ」なんてひげを生やした男の人が演説をしていたわ。大人は子供に「みんななかよくしなさい」とか言うくせに自分たちは出来ないみたい。平和を守るために戦うって何か変。戦うって平和の反対側にあるような気がするけど。平和って敵を創らないことじゃないのかな。

 それからしばらくして周りの様子が突然変わってしまったの。何が何だかわからないうちに戦争が始まってお父さんも兵士として戦争に行ったの。私は寂しかったけどガマンしなきゃいけないのかなってその時は思ったわ。でもその時私不思議に感じたことがあったの。普段は人を殺したら犯罪者なのに、戦争ではたくさん殺した人が英雄だって。どう考えればそんな風に思えるのかしら。

 それにしても人生って本当につらいことがあるのね。しばらくして悲しい知らせが届いたの。お父さんが死んだって。一瞬何のことか全然わからなかった。でも。でも。もうお父さんと会えないんだって思ったら悲しみがあふれてきてお母さんに抱きついて泣いたわ。涙が止まらなかった。そうしてるうちに悲しさと一緒に怒りがわいてきたの。お父さんは何のために死んだの。それって平和のためになったの。命を投げ出してまで奪い合うものって一体何なのか教えて欲しい。

 現実ってこんな風に突然変わるんだってこの時知ったわ。だって大好きなお父さんともう二度と会うことが出来ないのよ。愛するものを失うってこんなにつらいものだとは思わなかったわ。

 そして私の町にも爆撃機がやって来て私達いつ死んでもおかしくないみたいなの。でもここはまだいいみたい。隣の町には軍隊が入って来て銃撃戦になっているんですって。女性や子供まで殺されているらしいの。何故そんなことが出来るの。相手の命をとってまで欲しいものって何だろう。

 お父さんが死んでからお母さんは寝る間も惜しんでお父さんの分まで頑張っているの。私に悲しい顔を見せまいとしているみたい。でも私知っているわ。夜遅くお父さんの写真を抱いて泣いているの。お母さんがかわいそう。

 お母さんが笑顔をなくしたのは戦争のせいよ。戦争がなければお父さんは死ぬこともなかった。戦争がなくなればきっとお母さんにも笑顔が戻るに違いないわ。ありふれていたかもしれないけど幸福な毎日だったのに。それをつらい日々に変えたのは誰なの。大人はなぜ苦しい思いや悲しい思いをしてまで戦争をするの。大人はそのことを解って戦争をしているのかな。それでね、お母さんに聞いてみたの。

「大人はなぜ戦争をするの。なぜ戦争を止めないの。殺し合いまでして何か欲しいものが有るの。教えてお母さん」それを聞いたお母さんは困ったみたいだったけど一生懸命答えてくれたの。

「そうね私にもよくわからないけどそれは家族を守るためなの。お父さんもお前や家族の幸福のためには戦うしかないと思ったのよ。でもそのために死んだら何にもならないのにね。戦争が始まる時って嵐が来るみたいに止めることが出来ないの。自分たちを守るためには争うことは仕方がないと思ってしまうのね。そして争わないで済む方法を考えられなくなってしまうの。お前にはつらい思いをさせてごめんね」そう答えると泣きながら私を抱いてくれたの。

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