第3話 河童には美少女しかいない。男は死んだ

 俺はこの先を話す前にちょっと河童というものを説明しておかなければならない。いちいち話の最中に注釈をつけるなんて億劫でたまらないし、話のペースも悪くなって最悪だ。聞き手の君たちもきっと謎が残っていると気になって読みづらいだろう。

 河童はいまだに実在するかどうかも疑問になっている動物である。が、それは俺自身が彼らの間に住んでいた以上、少しも疑う余地はないはずだ。ではまたどういう動物かといえば、頭に毛のあるのはもちろん、手足に水かきのついていることも「水虎考略」などに出ているのと著しい違いなどないなんてはずはなかった。彼女らはもっと人間らしい存在だったのだ。

 頭に楕円形の皿が帽子のように生えてはあるものの人間との外見的違いは他には全くないといってよい。いやむしろ彼女らが言うには古くに人間との生活を別れて、長い年月の独自の進化をしたものの人間に近い種族であると述べていた。そのため人語を返すのにも十分な声帯を持っているばかりか、人間の文化を学ぶために日本語、独逸語、英国語を喋れるため人間とのコミュニケーションは一切困らなかった。

 ただ外見的違いはないが人間との違いがまったくないというわけではない。河童には一切の男が存在しないのだ。すべての河童は女である。それも若い河童は基本的にはみな美少女だ。これには医者のチャックはまったく賛成しなかったが、俺から見たら少なくともすべての河童が美少女であったのは間違いなかった。

 かつて戦争に駆り出された際に多くの男が戦死をしすぎてしまったために、男の河童の遺伝子は絶滅をしてしまったと聞いた。新たな男の血を入れるためにも外の世界の人間との繁殖ができないかということが期待されているそうだ。俺はこの話を聞いて心を熱くした。

 では女しかいないとなると現在の河童の生殖はどうなるのかと気になるのが普通である。これまたおもしろいもので、河童というのは雌同士の性行為で妊娠ができるらしい。そのため繁殖の際には困らないという話だ。しかし女のみで家庭を構成すると、男は働き、女は家を守るという社会システムが狂ってしまって少子化社会の引き金になるという社会理論が提唱されたために、便宜的に雄河童と雌河童というのを決めているというからさらに驚きである。チャックとバッグは雌の河童であるそうだ。


 彼らの着ているものもまた特徴的である。河童の衣服は我々人間の服のように一定の色を持っていない。何でもその周囲の色と同じ色に変わってしまう。例えば草の中にいる時には草のように緑色に変わり、岩の上にいるときには岩のように灰色に変わるのだ。俺はこの事実を発見したとき、西国の河童は緑色であり、東北の河童は赤いという民俗学上の記録を思い出した。のみならずバッグを追いかける時、突然どこへ行ったのか、見えなくなったことを思い出した。

 また河童は皮膚の下によほど熱い脂肪を持っているとみえ、この地下の国の温度は比較的低いのにもかかわらず、(平均華氏50度前後だ)常に薄着でいることが多い。医者のチャックも医者という肩書きとパンツが見えるのを恥ずかしがる気質にも関わらず常にミニスカートを履いている上に、上着は素肌の上にYシャツを着てその上に白衣というスタイルだった。普段ブラジャーすらつけていないそうだ。目のやり場に困る上に、やたらとあちらこちらが立ってしまうことが気になったものだ。バッグもまたミニスカート意外の姿を見たことがなかった。

 さらに奇特な事に、雄の河童に分類される物たちはみなスカートやズボンなどの類を一切履いておらずパンツが丸見えの状態で歩いていることには俺は殊更にうれし恥ずかしくも驚いた。雄の河童といえども俺から見れば美少女そのもの。常にパンツ丸出しで歩いているその姿は恥ずかしがる様子がないという意味ではマイナス点だが、それでも目福には違いがなかった。俺はある時この習慣をなぜかとバッグに尋ねてみた。するとバッグは仰け反ったまま、いつまでもゲラゲラ笑って止まらなくなってしまった。おまけに「私は旦那が隠しているのが可笑しい」と返事をしてきたのだ。


 彼女が余りにも笑いすぎてうずくまった拍子に、彼女のパンツが私の目に飛び込んできた。その日はちょっと大人っぽいレースのパンツを履いていた。


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