mission 6-2
天との会話を終えた俺はすぐに自分の部屋へと戻り、自分の携帯電話を手にとった。
プルルルルル……
『もしもし、支野だ』
電話口の応対とは思えない横柄な物言いが聞こえてくる。
「お前さあ……もうちょっとマシな受け方はないのかよ……」
『ディスプレイに名前が表示されているのだから構わないじゃないか。それに、私に電話をかけてくるやつはだいたいああいう話し方でも問題ない人間ばかりだ』
活動絡みで先輩とやり取りする時ですらこんな調子いくつもりなのだろうか。
『それよりどうした城木。せっかくの休日だというのに、君がやることは適当に目を瞑って決めた相手に電話をかけることしかないのか』
「勝手に人を寂しいやつみたいに言うな!」
というか、そんな理由くらいしか自分に電話がかかってくる要件が見当たらないのかこいつは。
「ちゃんとした用事があって電話したんだよ」
『なんだそれは。なら尚更おかしな話だ。行宮や彩瀬川、会長に用事があるのならまだしも、私に用事とはどういうことだ?』
「いや、そこまでのことじゃないだろ……普通に活動絡みで聞きたいことかもしれないじゃないか」
そもそもの話として、別に何も関係なく電話することくらいザラにあるだろうに。
『それならばメールでもいいはずじゃないか。わざわざ私が「出ない可能性が高い」と釘を刺した電話を使う理由がないな』
「そのことは素で忘れてたな……」
もっとも、事実として今支野は電話に出ているのだから結果オーライだろう。
「メールで話すのは面倒な話だったからな……というより、お前今から出てこれるか?」
『………………』
俺の言葉に、案の定支野は黙り込んだ。
今までの支野のスタンスに真っ向から反対することをしろと言っているわけだから当然だ。
あれだけ「自分は傍観者」だと言っていた支野が、素直に自分から"主人公"である俺と関わりに来るとは思えなかった。
むしろ……、
『……君はさっき私が言った言葉を聞いていなかったのか?何故わざわざ"ヒロイン"より私との時間を作ろうとするんだ?』
……まあ、こういう返しが来るのが必然的な流れだろう。
『君が何を企んでいるのか知らない。もしかしたら本当に単純に活動に関して聞きたいことがあるだけかもしれない』
『それでも、君のさっきの問いかけに、私は簡単に首を縦に振るわけにはいかないな。何故ならそれは「君が今するべきこと」ではないし、「私が今していはいけないこと」だからだ』
今までの支野のことを考えれば、こういう風に話が簡単にはまとまらないことは目に見えていた。
だからこそさっき、俺は天に対して「出かけるかもしれない」と、少し濁した物の言い方をしたのだ。
……だけどまあ、そう簡単に引くのかというと、そういうわけでもない。
活動開始前からまとわりついていた違和感に決着をつけられるかもしれないのだ。
せっかく腰を据えて話をする決意をしたのだから、すごすごと引き下がるつもりはないのだった。
「ことはそこまで簡単な話じゃない。もちろん聞きたいことがあるのもそうだし、お前と話がしてみたいことをあえて隠すつもりはない」
「だけどそれ以上に、"今までの活動の根本のところに関わる話をしたいと思っている"っていうことを理解した上で、考えてほしいところだな」
『………………』
俺はあえて脅しをかけるような物言いをした。
支野が活動に本気だということは分かりきっているし、それを遂行する上で必要だと彼女が思っていることは異常なまでに徹底していることはもはや言うまでもない。
しかし何となくだが、彼女がギャルゲーに対して持っているような自信ほど、今の行動に対して自信を持っているとは思えないのだった。
思えば、支野はギャルゲーのテンプレートについては断定的な口調で話すことが多いが、それを活動中に現実に落とし込もうとする際にはいやに慎重だった気がする。
もちろん無茶苦茶なことをやっていることに変わりはないのだが……。
だからこそ、不安を煽るような言葉で活動への関係性をチラつかせれば、乗ってきてくれるのではないかと考えた。
大した内容ではないが、一種の賭けみたいなものだった。
(……これでダメなら、仕方ない。素直にメールで話をすることにしよう)
そんな俺のダメ元のような考えが良かったのか、
『……そこまで言うのなら、仕方ない。1時間後に駅の南口に来い』
「……来てくれるのか」
『おいおい、何だその言い方は。話がしたかったのではないのか?』
支野は、渋々ながら俺の呼び出しに応じてくれた。
時間と場所を勝手に決めてきたのは、せめてもの抵抗なのかもしれないが、それでも俺は心の中でほんの少しだけ支野に感謝をした。
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