mission 5-17
「それじゃあ、今日はこの辺で解散にしますね。次回は本格的に文化祭準備が始まる直前くらいになると思いますが、その時はまたよろしくお願いします」
説明が終わると、雅幸のその言葉で、初回の役員会は解散になったのだった。
教室への帰り道。
「……つまり、だ」
説明された内容をまとめると、
・準備が始まってからは、役員会での運営会議や、企画受付の手伝いなどをする
・当日一週間前から当日にかけて、各企画の査察や運営サイドの手伝いなどをこなすことになる
・役員は当日はクラス企画の運営には基本的に携われない
・役員はクラス企画の準備に参加しないわけではないが、割く時間の大半は執行部の方にあてられることになる
というのが主な内容だった。
「えーっと、クラス企画の方に関われないわけではないんだね」
「でもまあ、ほとんどいないってことには変わりないんだな。でもまあ、聞いた話だと、その辺りも考慮はされるみたいだな」
クラス側にはこの仕様はおおよそ伝わっているようで、役員になった人はサポート的な立ち位置を任されるようだ。
「とは言っても、役員の仕事だって毎日あるわけじゃないし、それなりに自由さはあるわよ?まあ、私だって去年しかやっていないけれど……」
彩瀬川が補足情報をくれる。思ったほど拘束はキツくないのだろうか。
「……まあ、直前はかかりっきりになっちゃうけど」
「だろうなあ……」
恐らく、この執行役員が敬遠される最たる理由はそこだろう。
去年の様子を見ていても、運営側の仕事量は半端ではなかったことは覚えている。
……だけど、
「……活動にとっては、都合がいいってことになるのかな」
「「………………」」
行宮の言葉に、俺と彩瀬川は無言になる。
しかし、それはただ返す言葉がなかったからにすぎない。
まさしく行宮の言うとおりで、"ヒロイン"が全員揃っている運営側でずっと活動ができる上、直前になるまでは一定の放課後の自由時間が確保されるわけである。
まさにこの活動のために用意されたような状況というほかないのだった。
「……仮に、このことまで含めて支野が想定してたとしたら、あいつは本当にとんでもない奴だな……」
「そうね……だけど、本当にそうだっていう可能性の方が高い気がするわ……」
支野真夏という人間と関わり始めてからそれほど時間が経っているわけではないが、それくらいのことは分かる。
「……支野に流されちゃってるのが何となく癪だけれど、ここまで来たら、乗りかかった船よね」
「……どのみち、船から下りるつもりなんかなかったけどな」
「例えよ例え」
そう笑う彩瀬川だったが、俺は素直に笑い返せない。
仮に支野がどう考えていようといまいと、それは結局本質には何も関係がないのだ。
"俺自身が"どう考えて、どう動くのか……そして、どうなりたいのか。何を得たいのか。それが、この活動に参加する上での本質なのだから。
「私は」
そして、それは行宮も同じことで、
「あくまでも『自分で選んだんだ』って、信じたい、かな……」
「………………」
行宮は、俺以上にこの活動に関しては自分本位であろうとしているはずだ。
当たり前だ。そうでなければ、行宮はここにいる必然性がない。
ならば、行宮は誰よりも―――それこそ、支野よりも―――自分で先を選ぶことを望むはずだ。
「……でも、まずはなったからには、頑張らなきゃだよね?」
少し重くなった場の雰囲気を払拭しようとしたのか、行宮が話題を元に戻してきた。
「……そうね。やっぱり、学校全体に関わることだし、しっかりやらなきゃいけないとは思うわ。気負いすぎてもダメだと思うけれど、ね?」
彩瀬川もそれに同調する。何度も行宮と確認したとおり、"活動のための場"ではあっても、"活動のためだけの場"ではないということだろう。
「でもまあ、当分は直接動員されるような仕事はないんだよな?その間は何もないのか?」
「そうね……去年は仕事はないけれど、連絡事項の伝達役になったりはしてたはずよ。それでも数回くらいだったけれど……」
となると、本当に準備が始まるまでは普通の生徒と変わらないことになる。
……つまり、
「まあ、当分は活動に全力投球ってことかな……」
「うっ……」
「うう……」
「?どうしたんだ……?」
さすがに行宮の方は分かるし、理由(というか原因)は9割5分自分にあるので、敢えて触れることはしない。
しかし彩瀬川の方はどうだろうか。正直、活動の話題を意図的に避けていたわけでもない。ここに来て何か気になることでもできたのだろうか?
「いや、だって……順番的には、今日は城木くんは私と放課後一緒になるのよね……?」
「ああ……男を切っては捨ててたんじゃないのかよ……」
どうやら今日の放課後のことを考えて緊張?していたようだった。自称プレイガールが聞いて呆れる。
「もうその話はいいじゃない……男の子と2人で帰るなんて、今までしたことないんだから……」
「それくらい支野相手にも素直に言ってしまえば楽になれると思うんだが……」
「それは絶対に嫌」
「そうですか……」
相変わらずプライドと虚勢の釣り合いを取るのが大変そうだった。
一方の俺はというと、初っ端―――つまり行宮の時だが―――ほどは緊張していないのだった。
それは、もちろんたった1回の放課後デートで慣れてしまったという理由なはずがなく……、
(まあ、行宮の時と比較したら、そうなるよな……)
別に行宮と彩瀬川が恋愛対象としてどう、というのではない。
当たり前だが、俺にとって行宮蓮華という存在は"普通じゃない"のだ。意識の仕方は、当然変わってくるというものだ。
……いや、正確には。「行宮にとっての俺」がそうなのだろう。そして、それを俺が意識せざるを得ないからこそ、緊張をしてしまうのだ。
(……そういうもの、なんだろうな)
自分の相手への心の持ちようというものは、自分が相手をどう思っているかだけでは決まらない、ということなのだろう。
むしろ、「相手が自分をどう思っているか」ということの方が、ずっと大きなウェイトを占めているようにも思えてくる。
……しかしきっと、その「相手が自分をどう思っているか」を知ることが、きっとものすごく難しいことで……、
(だから、俺は響との関係を悩んでいるんだろう)
そして、知ってしまえば、自分の気持ちは揺らいでしまうわけで……、
(……けれど、何も分からないよりは、いいかもしれない)
分かってしまえば悩むことになるけれど、分からなければ不安に押しつぶされてしまうかもしれない。
行宮はいったい、どんなものを抱えているんだろうか?
俺はまだ、それを推し量れるところにまで至れていない。
(……なったからには、か)
俺は、何度となく口にした言葉を思い出す。
その言葉の意味が、今は少し違って聞こえるような気がしたのだった。
………………。
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