mission 5-15

ピピピピ、ピピピピ

「………………」

普段と同じように、目覚ましが鳴る音に否応なしに起こされた……と、思ったのだが、

「昨日のことがあるから、何だかいつも以上に静かに感じるな」

昨日はこの目覚ましが鳴るよりも早く起きていたくせに、いつもより騒がしいという状況だったわけだ。

……そういえば、今日も来るんだよな、きっと。

(まあ、昨日話はしたし、もう少し後になるだろうな)

それでも、もはや何が起こるか分からない状況になっているわけだし、準備をしておくに越したことはないだろう。

コンコン

「大地くーん?起きてる?早くしないとまた行宮先輩来ちゃうよ?」

ちょうど天も起こしにきたことだし、とっとと支度をしてしまうことにしよう。


……そして、いつもより若干早い朝食を済ませた朝のリビングにて、

「……来ないな」

「えーっと……本当に毎日来てくれることになってるの?」

「まあそんなことはないけど……そもそも、毎日朝来るってこと自体無理があるしな」

家で何かしらあれば来れないだろうし、朝少し寝坊してしまえば当然不可能だ。

それ以外にも来れない理由くらいいくらでも思いつくわけで……だからまあ、そこまで気にすることではないだろう。

だからキッチンの方で「1日保たずに振られたのかい?」とか言っている母さんは少し黙ってて欲しい。

そうこうしているうちに、普段家を出る時間になってしまった。

「うーん……まあ、これ以上待つのもなんだし、出るか」

「そ、そうだね……」

天も何とも言えない表情で俺についてきた。

まあ、仮に今日も来てくれているのだとしたら、家の前にいてくれているかもしれないし、そうでなくても道中で合流できるだろう。

そう思いながらも、俺は"今日は何となく来ないんじゃないだろうか"と思っていた。

何だろう……またしても、と言うべきか、嫌な予感がする……。

もちろん、行宮の身に何かが起きるだとか、そういう不吉なことではなく、主に俺が窮地に陥りそうな……。

(……まあ、気にしていても仕方ないな)

頭に浮かんだそんな予感を振り払うように、俺はカバンを掴んで玄関へと向かった。




「あれ?蓮華もいるんじゃなかったの?」

そして、響との合流場所に着くと、やはり真っ先にそんなことを聞かれるのだった。

「いや、今日は来てないよ。まあ、毎日続けるのも大変だろうし、これが普通なんじゃないかな」

昨日の今日で拍子抜けしてしまったことは事実としてあるが、気にしていないことについては本当なのだった。

「そっかー……折角一緒に登校できると思ったんだけどなー」

「響ちゃんって、行宮先輩とそんなに仲良いんだね?」

天が自然とそんな質問をする。

「うん、入学してすぐの時からずっと仲良いよ。他にも友達はいっぱいいるけど、蓮華と一緒にいる時間は長い方かなあ」

響は何でもないことのように言うが、交友関係の広い響にとっての一番の親友というのは、かなりすごい存在だと思う。

「まあ、これから毎日じゃないかもしれないけど、一緒に登校はできるんじゃないかな。活動に則るなら、今日がたまたまってだけだと、思う、し……」

「?どうしたの大地くん?」

……言いながら、今朝行宮が来なかったことについて、一つの答えに行き着いてしまった。というか、すぐに思い至るべきだった。

「そうだ……二者択一じゃないか……"朝起こしに来る"か、"弁当を作ってきてくれる"か……」

「……じゃあ、つまり今日蓮華はお昼にお弁当を作ってきてる可能性が高いってこと?」

「……そうなるな」

どうして最近の俺はこう色々と察しが悪いというか、一番思い出さなければならないことを忘れてしまうんだ!

「さっきからどうしたの大地くん……なんだか焦ってるみたい」

「え、何。蓮華にお弁当作ってもらっておいて何か不満があるの?」

「いや、不満なんてあるわけないし、料理も普段から作ってるみたいだったし、その辺は心配してないが……」

「『心配してないが』?」

「……実は」

俺は、昨日の教室での様々な騒動を説明した。

「ああ……確かにそれは避けたいかもね」

「でも、今日は大地はあらかじめ予測できてるじゃん?だから、機を見て蓮華に先に言っておくとかすればいいんじゃないの?」

そうだ、俺は少なくとも「先に気づいている」という点で昨日より一歩先を行っているじゃないか、だったら手のうちようはいくらでもある。

とりあえず、本当に今日行宮が弁当を作ってきてくれているかの判断ができないうちは動くべきじゃなさそうだ。

かといって自分から聞きにいくのも、やっぱり催促をしているようで好ましくない。

……まあ、妥当なところで、昼休みに入ってすぐくらいがベストだな。

「……そっちの心配も重要かもしれないけど、神経を使いすぎて、お弁当のことに疎かになるのはダメだからね!」

「うっ……」

俺が考えていることがバレていたのか、響に釘を刺されてしまう。

そりゃあそうだ。折角弁当を作ってきても、相手がこんな状態のままだったら、俺が行宮なら絶対に嫌だ。

「まあ、まさかゆっくりお弁当も食べられない、なんてことにはならないんじゃない?」

「それもそっか」

天と響は二人でそう結論づけているが、昨日のことを考えるとそうも言っていられない気がする。

とりあえず教室で食べるのだけは避けよう……まあ、それはそれで後で色々と大変そうな気もするけれど、その時はその時だ。

………………。

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