mission 5-13
そのまま何事も起きないまま放課後になった。
予想していたとはいえ、あれから活動に関して本当に何もなかったため、少し落ち着かないというのが正直なところだった。
一応、昼休みに支野に声をかけてみたのだが、
「説明したとおり、水曜は活動定休日だ。始まってから昨日の今日でタイミングは悪いかもしれないが、今日は休みであることに変わりはないぞ」
「あらかた説明らしい説明も昨日してしまったし、連絡のために集まってもらう必要もないな」
……と、あっさりと言われてしまったため、今日は朝の一件以来活動とは無縁の一日を過ごしたことになる。
付け加えるなら、あれ以降昼以外に支野とも行宮ともまともに話をしていない。
まあ、行宮の場合は、俺と話している状況を作ってしまうと朝みたいにややこしいことになるだろうと察してのことだったと思う。
……というか、行宮があからさまにそれを避けようとしているのが感じ取れたので、嫌でも分かる。
支野の場合は……まあいつものことだろう。
経緯はともあれ、今日の放課後が空いたことは間違いない。
なので、俺は昨日から考えていた計画を実行することにした。
「……いたいた、響!」
隣のクラスにはまだまだ人が沢山残っていた。
だけど、響の姿だけは自然に目に入ってくるのだった。
俺の声に気がついたのか、響が入口のところまで歩いてくる。
「どうしたの大地?何か頼みごと?」
「俺を見て真っ先に思いつくのがそれかよ……そういうんじゃなくて、一緒に帰らないかって」
それを聞くと、響は何故か驚いたような顔をして、
「……何か企んでる?」
そんなことを抜かしてきやがった。
「別に何もないよ……そんなに珍しいかな?」
「いや、珍しいよ。大地と放課後帰るなんて……中学校入ってすぐの時が最後じゃないかな?」
言われてみればそんな気がしてきた。いつも朝一緒だったから錯覚していただけで、放課後を共にすることはレアなのだった。
……というか、中学以来だとかよく覚えてたな……。
「それでどうだ?ひょっとして何か用事でもある?」
「別に暇だけど……大地の方は大丈夫なの?」
「大丈夫って何が……って、ああ……」
一瞬何のことか分からなかったが、すぐに思い至った。響も何だかんだで活動のことは気にしていたらしい。
「今日は休みなんだよ。先輩が生徒会だからってことで水曜は定休らしくて」
「そういうのあるんだ……何もないならいいんだけど、他のみんなと話したりしないでいいの?」
「まあそう思ったのも事実っちゃあ事実なんだけど……活動から離れとくのもいいだろ、って思って」
「ふーん……まあいいや!色々聞いてみたいし、続きは帰りながらでいいよね?」
あっけらかんと言う響。何となくそうなるだろうと思ってはいたが、やはりあっさりと一緒に帰る流れにすることができた。
……しかしなんだろうか。嫌な感じとか、そういうわけではないのだが、言いようのない違和感を感じてしまう。
(……まあ、それも含めて、考えながら帰るかな)
そんなことを思いながら、俺は先に歩き出した響の後ろ姿を追いかけた。
………………。
(……結局、今日城木くんとあんまりお話できなかったな……)
(でもでも、朝お家に行って、一緒に登校までして、おまけに一緒に役員にもなれて……十分すぎるくらいだよね)
(それに昨日は放課後ずっと一緒だったし……)
(……名前も、呼べた。それに、プレゼント、貰っちゃった……)
「……嬉しかったな。それに……楽しかったよ……」
(でも、ああいうことがこれからまだ、何回もあるんだよね……)
(……その度に、こんな気持ちになるのかな)
………………。
「……あれ?あれって、城木くん?誰かと一緒……なのかな」
「あれは……あ、響ちゃんだ」
(そっか……今日は活動日じゃないもんね。昨日みたいなことは起きないよね)
(……分かってる。私は、"本物"じゃない。"幼馴染"でいられるのは、活動の間だけ)
(これから私がどれだけ努力しても、あの席は響ちゃんのもの、なんだよね……)
………………。
(でも……)
「……でも、私も、隣にいたいよ」
「……響ちゃん。響ちゃんは、どう思ってるの……?」
「本当に、何もないって……そのままで、いいの……?」
………………。
「……暇だな。真夏ー、何かやるゲームねえの?」
「越智……お前は本当に寝ても覚めてもギャルゲーのことばかりだな」
「お前にだけは言われたくない……それに、まだ何のゲームかなんて言ってないじゃねえか」
「じゃあ違うとでも?」
「いや、まあそうなんだけどさ……というかさ、活動始まってから俺の出番が少ない気がするんだよな」
「お前が城木と別クラスというのが致命的だな。まあ、悪友ポジションはヒロインとの日常描写に必須ではないし、今はまだいいだろう」
「今の時点でしておかなければならないことは、お前がヒロインと関与する理由作りくらいだが……その辺りまで作りこもうとすると際限がなくなってしまうしな」
「だから、今は城木と適度に話しておけばいいだろう。もっとも、それすらまだまともには行われていないけどな」
「まあ、言われてみればそうなんだけど、それでもやってる感が全然ないというか……ちゃんとデカいイベントには呼んでくれよ?」
「それはもちろんだ。むしろ、そういう時に三枚目としてうまく立ち回ってこそだからな。だからもしそういう重要な場面でヘマをすれば……」
「すれば?」
「………………」
「黙りこむなよ!三枚目になりそこねたら口にも出せない目に遭うってどんな境遇なんだよ俺は!」
ガチャッ
「相変わらず楽しそうだね」
「ん?……ああ、なんだ。君は城木の友人の……ええっと、秋島だったかな」
「ああ、覚えてもらえてたんだね。勧誘された時に断っちゃったし、忘れられてたかと思ったよ」
「私はそこまで薄情ではないよ。それに、君とは気が合いそうだしな」
「えーっと……真夏、こいつは誰?」
「そういえば越智には紹介してなかったな。彼は秋島。城木のリアルの友人だよ」
「俺とキャラが被ってる!」
「被ってるのはお前だ……彼は生徒会役員でな、会長を勧誘した流れで彼も友人キャラとして呼び込もうとして断られたのだ……ん?」
「あれ、どうしたの?」
「君、今日は生徒会の定例会ではなかったのか?」
「ああ、もちろんそうだけど、今は小休憩ってところかな。その前に扱ってた資料を見てたら面白いことになってたからここに来たのさ」
「……なるほど、君は瞬時に理解したのか」
「会長が最近活動の話をポツポツとしてくれるから、関わってる人の名前は覚えちゃってるんだよね。支野さんが仕組んだの?」
「まさか。さすがに全てをどうにかすることはできないさ」
「ただ、もちろん動向については把握していた……というより、よくよく考えれば誰でも分かる話なのだがな」
「なるほどね……それじゃあ、大地と行宮さんは?」
「あれこそ偶然の産物さ。たまたま最善の結果が生まれたというだけの話だ」
「まあ、仮に城木と行宮のどちらかが、あるいはどちらも立候補しなかったとしたら、という想定はしていたよ」
「というと?」
「簡単な話だ。私が立候補をして、準備の時になったらクラス代表として引っ張り込めばいいわけだよ」
「要は執行部に関わりができさえすればそれでいいわけだからな。形式は役員になるのが最善だが、そうじゃなくても構わない、というわけだ」
「へえ……さすがに考えてるんだなあ。素直に感心しちゃうよ」
「……なあ、話がまるで理解できてないんだけど、どういうことだ?」
「なんだ?分かっていなかったのか。お前のクラスでも話が……って、聞いているわけないか」
「文化祭の執行役員決めで、大地と行宮さんが同時に決まったんだよ」
「へえ……なるほど。つまり、文化祭準備の場すら、目が離せないタイミングになるわけだな」
「そう……そして、恐らくその事実を今の段階で知っている"メインキャラクター"は会長のみだ」
「いやあ……会長も気づいているかは怪しかったけど……」
「そ、そうか……いくらなんでも、気づいていると信じたいものだが……」
「ああ、それともう一つ。これはあんまり関係ないかもなあと思ったんだけど、見かけたから一応と思って」
「?まだ何かあるのか?」
「いや、大地と池垣さんが一緒に帰っているみたいなんだけど、いいの?」
「『いいの?』と言われてもだな……何が問題なんだ?」
「いや、池垣さんは確か活動の参加者じゃないだろう?」
「ああ、今日は休みにしてあるから問題ないのだよ」
「でも確か、池垣さんって大地の幼馴染だよね?活動関係ないところで接近しちゃってもいいものなの?」
「構わん」
「………………」
「活動に関係ないところでの行動なのだから、私が関与する権利も理由もない」
「私は活動の中での恋愛に興味があるのであって、活動外で何が起きようと私には関係ない。それが活動に影響してくるならその時に釘を刺す」
「真夏……お前、まだそんなこと言ってんのか」
「………………」
「まあ、支野さんが気にしないならいいんだ。そもそも俺は活動にどうこう言う立場じゃないし……それじゃ、俺は戻るよ」
「ああ。君も楽しんで見てくれたまえ。会長によろしくな」
バタン
「……いい加減、その癖治せよな」
「……何をだ」
「『関係ない』ってやつだよ」
「無理な相談だな」
「少なくとも活動が終わるまでは―――いや、私にとっては、そんな区切りなどないのかもしれないな……」
「真夏……」
………………。
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