mission 5-12

時間は少し進んで、ホームルーム。

あの後戻ってきた行宮と支野は、何故かどちらも少し様子が変だったが、してきたであろう内容が内容なだけに立ち入り辛かったのだった。

(何より、支野も変だったのが引っかかるところだけど……まあ、仕方ないかな)

さて、ホームルームというと、普段なら部活やら委員会やらをしっかりと頑張っているやつら絡みのお知らせが多く、行事が近くもない限りは気にする必要のない時間なのだった。

そして、仮に行事絡みの話があるにせよ、今までそういった事柄に積極的に関わりにいったことなど一度もなかったので、どちらにせよ関係のない時間ということには変わりはないのだった。

「―――というわけで、今年度もクラスから文化祭執行役員を出すぞー。男女1人ずつの合わせて2人になるな」

……そう、思っていた。

今までだったら、この文化祭執行役員決めも、他人事のように静観して終わっていただろう。運悪く自分になったらやだなー程度の考えだ。

しかし、このままいつもどおり見ているだけなのが果たして正解なのだろうか?

そう思った理由としては、この学校の文化祭の運営体系のことが大きい。

この学校の文化祭は、普通のよくある学校の文化祭と特段大きな差はないだろうと思う。

クラスはクラス単位で、それに加えて部活や同好会、一部の有志などで企画が立ち上がるという格好だ。

それを取り仕切るのが文化祭執行部であり、各団体の代表者と運営との間で連絡を取り合う形になる。

なので、基本的に準備期間や当日にクラスで働くのが代表ならば、運営との間を行ったり来たりするのが執行役員ということになる。

普通のやつらなら、自分たちの企画に集中していたいし、面倒ごとを押し付けられる形となる役員への立候補などしないだろう。

だが、支野はこう言っていた。


『そうだな。この部で何か出し物をしようというのも考えたが、それよりは学生らしく2人で好きなように周る方が発展性があるだろう?』


つまり、部としての活動はしないということになる。

ここでじっとしていることで、当日クラス内にいる時間を増やすよりかは、役員になって制約付きながらも色々な場所を動けるようにした方がいいのではないだろうか?

「というわけで、誰か立候補はいないか?」

そう考えた俺は、

「じゃあ、俺やります」

あっさりと、思ったことを実行に移すことにした。

それを見た担任は、面倒臭そうな顔から一転して、ギョッとしたような顔をしている。

そりゃあそうだろう。執行役員なんていうのは楽しい文化祭の期間を雑用に追われて過ごすことになるという、かなり損な役回りだ。

大体毎年、長いこと決まらなくてどうしようもない停滞感が場を支配するというのがお決まりのパターンだったのだから、立候補が1人いるだけでもその驚きようは理解できる。

―――しかし、どうやらそれだけではないらしかった。

「えーっと……それじゃあ、執行役員は決まりだな」

「えっ?」

俺は慌てて教室全体に目をやる。

すると、

「………………」

「――――――」

なんと、行宮が俺と同様に手を挙げていた。

………………。

一瞬の沈黙の後、

「やっぱりあの2人何かあったんだって」

「だって全く同時だったもんな。打ち合わせとかしてたとしか言えねえ」

「城木が羨ましすぎる……」

「蓮華ちゃん結構勇気ある~」

「今までそんな気配全然無かったのにな」

「行宮さん顔真っ赤で、何というか……すげえいい」

「だな」

「やっぱお前らストーカーだろ」

朝の名前の一件の時を上回る爆発が起こってしまった……朝から思ってたけど、一部関係ないこと言ってるやついない?

周りが騒がしい中で、俺は逆に冷静になっていた。

行宮も恐らく同じことを考えて立候補をしたのだろう。タイミングがほぼ同時だという声がさっき聞こえてきたくらいだし、後追いというわけでもない。

これはかなり好都合だ。行宮と行動を共にしながら、活動の方のことを考えることもできるのだから。

……とはいえ、行宮と過剰に接する機会が増えすぎてしまうという懸念材料もある。その辺は大丈夫なのだろうか?

そう思いながら支野の方に目をやると、こちらを見ながら含み笑いをしていた。

……あれだけ見ても、俺の行動が正しかったと思っているのか、単に現状を面白がっているだけなのか区別がつかねえな……。

そうこうしている内に、いい加減に我慢の限界に達したのか、担任が大声で諌めることによって騒ぎは沈静化した。

あとで支野に聞くしかないか……あの状態だと若干話し辛いけど、一応行宮も一緒に、だな……。

………………。

「君たちは本当に私が期待しているより上を動いてくれるな」

休み時間になって、俺を出迎えたのは支野の満面の笑みだった。俺ってこれから何かする度に毎回これを見なきゃいけないの?

「嬉しそうなのはけっこうなんだが……それより、あれで本当に良かったのか?」

「『良かったのか』とは?」

「いや、さっき俺と行宮が一緒に執行役員になったことだよ」

"一緒に"というところに行宮が若干反応した気がするが、ここは気にせず話を続ける。

……ちなみに行宮は未だに顔を赤くしたままだった。役員になった事実より、さっきの騒ぎの方が響いているようだった。

こうしてみると、行宮って決断力とか行動力とかは意外とあるけれど、こういうことに対する免疫は思ったとおりくらいってことなんだろうな。

……なんて、冷静に考えている俺も、恥ずかしいという点だけ見れば一緒なのだけれども。

「良かったどころの騒ぎではない。むしろ最良の選択肢を選んだと言っても過言ではないくらいだ」

俺の質問に、支野は「何を当たり前のことを」とでも言わんばかりの表情で答えた。

「行宮だけに接する時間が増えてしまうかもなって思ったんだが……それは問題ないのか?」

「なんだ、そんなことを考えていたのか。君も案外心配性なのだな」

さらっと言われてしまう。ひょっとして考えすぎだったのか?

「そもそも、例えギャルゲーの共通部分だとしても、ヒロイン全員に平等に出番があるわけではない」

「もちろん長い目で見ればなるべく偏りが出ないようにはなっているだろうが、それでも場面場面を切り取れば、やはり差は生まれてしまうものだ」

「そ、そういうものなのかな……」

行宮が何となく不安を拭いきれていないような表情で言う。自分に関係のあることだけに仕方がない。

「だから、今回のケースで考えれば、"行宮の露出が増える"という場面が増えること自体は何らおかしくないわけだ……露出と言っても、そういう意味ではないぞ?」

「言うと思ってたけどな」

いい加減に支野のパターンは読めてきた。

「ああ、もちろんそういう意味での露出を増やす機会もそのうちあるだろう。プールイベントも仕込むわけだし。そうでないと城木も張り合いがな」

「さも俺が望んでいるような口ぶりで語るなよ!」

そりゃああるのとないのとでは、ある方がいいとは言え……いや、これ以上考えるとロクなことがないしやめておこう。

「まあ、私が『最良の選択肢』と評したのは別に理由があるのだ」

「そうなのか?」

「そう。それは、むしろ君の懸念と真逆のことが起こるだろうことを予期しているからなのだが……まあ、それは実際にことが起きてからのお楽しみだろう」

「「……?」」

そう言うと支野は自分の席に戻っていってしまったが、俺と行宮の頭には疑問符が浮かんだままだった。

俺の懸念と真逆のこと?

(俺の懸念は、"行宮と接する時間だけが増える"ということだったから……他の2人と接する時間が増えるってことか?)

いや、それだと最良にはならなくないか?

しかし、逆の結果を生むということなら、少なくとも彩瀬川と先輩と接する時間が増えないとおかしな話だし……。

「……行宮は、今支野が言っていたことの意味って分かるか?」

「……うーん、分からないかな。私も勢いと思いつきで手を挙げちゃったところはあったし……」

「思いつきって、やっぱり活動のためにってこと?」

「うん、それもそうだし、色々な意味で積極的になった方がいいのかも、って思って……」

……本当に、こういうところについては頭が下がる思いだ。

「……何にせよ、なったからには全力でやらないと、だな」

「うん。文化祭のことだもん。クラスの他のみんなだって楽しみにしてることだしね」

俺たちは確かに別に理由があって動いたかもしれないけれど、その行動が影響してくる範囲は、それこそ学校全体にまで及ぶのだ。

自分たちの活動のためと、自分勝手な理由だけのために動くようなことだけはあってはならないと、まずは心に誓った。

(まあ、最初は何をすればいいかも分からないけどな)

クラスでの企画も立ち上がっていなければ、執行部自体の顔合わせすらしていない段階なのだから、とりあえず心構えだけしておくことにしよう。

今の俺は、何か一つのことだけを考えていればいい段階ではないのだから。

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