mission 5-8
行宮と別れた後、さすがにもういいだろうと思って、しっかりとマイクのスイッチをOFFにしたのだった。
さすがにこのままONのままでずっといる、だなんてことはないだろうが……万が一そうなってしまった時のことは考えたくない。
そんな今は、いつもと同じ道だけれど、いつもよりだいぶ遅くて、そしていつもよりかなり違った意味を持つ帰り道。
「……あれ?そういえば……」
支野が活動について話をしていた時、こんなことを言っていたのを今更思い出した。
………………。
「これからは基本的に学校にいる間はずっと活動をしてもらうことになるわけだが……まあ、そうも言っていられないだろう」
「え?意外ね?もっと『寝ても覚めても活動のことを考えていろ』とでも言うのかと思っていたわ」
「そりゃあ、できる限りはそうしてもらいたいし、そうさせるが……物理的に不可能、ということもある」
「『物理的に』?」
「ああ。会長はあくまで現実でも会長なのだから、生徒会の例会があるだろう。確か……」
「……うん……毎週、水曜日……」
「そうだったな。まあそういうわけで、さすがにそっちを放り出して来てくれとまで言うつもりはない」
「だから、水曜は定休ということにしよう。その方が、君たちもちょうどいいくらいじゃないか?」
「……ごめんね?」
「……いや、何故会長が謝るんだ?むしろ、一人だけ休息を配慮できなくて申し訳ないくらいなのだが……」
「お前って、基本的に天然な人と相性悪いよな……」
………………。
……と、こんなやり取りがあった。なので、水曜日は今日のような放課後の活動はない、ということになる。
そして、今日は火曜日である。
「……始まって、意気込んだところにすぐ一日空いちゃうのかよ……」
なんだか出鼻をくじかれた気分だった。
そもそも、明日活動がないということは、支野以外の他のメンバーに会うタイミングもない、ということになる。
……マイクの記録の件だけでも、伝えたほうがいいかな?
そう思って、俺は携帯を取り出した。
……と、そこで改めて気がついた。
「俺って、支野の連絡先知らないじゃんか」
支野どころか、彩瀬川に先輩、そして今後友人としての立ち位置になるはずの越智の連絡先も知らないのだった。
唯一知っているのは、響との一件から縁があった行宮だけ、ということになる。
行宮なら、もしかしたら支野の連絡先くらい持っているかもしれない。
……かと言って、行宮にわざわざ今連絡するか?別れたばかりなのに?
「どうせ明日会うんだし、その時でいいだろ」
そもそも、行宮が支野の連絡先を知っているという保証などどこにもないわけだし。
本当なら明日のことについても確認しようかなどと思ったりもしたが、急がなくてもいいことには変わりないだろう。
一方で、俺は別なことを考え始めた。
「……じゃあ、なんだ?明日って俺は暇なのか?」
活動がない、ということは、あの中の誰かと一緒に過ごすということはないだろう。
いや、もちろん活動外で仲良くしてはいけないわけではないのだから、遊びに出かけるくらいはいいんだろうけれど……。
「まあ、やり辛いよな」
行宮は言うまでもないが、彩瀬川も似たようなものだろう。
この前はたまたま遭遇して、偶然に話したいことがあったからそれなりにいい時間を過ごせただけのことだ。
いざ企画が始まった今となっては、ああはいかないだろうことは想像に難くない。
そして先輩はそもそも定休になる理由であるわけだから無理、となると……、
「いっそ越智と遊ぶのもありなのかもしれないな……」
これから友人役となるのだから、こういうところでそれらしいことをしておくのもいいかもしれない。
まあ、あいつは最近知り合ったとは思えないくらい気軽に話せるやつなので、心配いらないのかもしれないけれど。
……でも、せっかく一日空くことになるわけだしなあ。
ちなみに、今の候補から意図的に支野を外したのにはもちろん理由がある。
今までの支野の様子からすると、あいつは俺たちと意図的に距離を取ろうとしているのが見て取れる。
つまり、こういうタイミングで誘いをかけてみたところで、当然断られるに決まっているのだった。
……ひょっとして、連絡先を知らせてないのもそういうところから来てたりするのかもな。
「……そういう話じゃなかっただろ」
明日をどうするか、という話なのだ。
まあ、別に明日になってから考えればいいといえばそれまでだ。
別に、深く考えずにこれまでの放課後みたいに遊んでしまえば……、
「―――そうだ」
俺が今やらなければならないことをもう一度思い出せば、自ずと明日の行動の選択肢は絞られてくる。
俺が向き合わなければいけない相手は、何も行宮だけじゃないじゃないか。
「……響と出かけるのも、ありかな」
さすがに件のショッピングモールのやり直し、とまではいかないだろうけれど、活動が始まってからこれまでの短い期間での話くらいはできるだろう。
それに、考えてもみれば、これから響と一対一で過ごすことのできる時間というのは、俺が選択しない限りはこれからどんどん少なくなっていくのだ。
あるいは、選択した上で少なくなってしまうのか―――そこまでは分からないけれど、
(だからこそ、今が一番重要だってことだな)
ここ数日で何度も確認した事実を噛み締める。
これから明日のような日が何度あるかは分からないが、極力活動と並行して、大元の問題のことに向き合っていかなければならないと思うのだった。
活動をしていく過程で、答えに近づいていくことはいいことだが、問題自体を忘れてしまっては元も子もないのだから。
「まあ……結局は、明日になってからだな」
さすがに、今日は色々と疲れた。普段使わない神経を酷使したせいか、言い様のない疲労が溜まっているのを感じる。
……俺でこうなのだから、きっと、行宮の方はもっとずっと疲弊しているのだろう。
どれだけ俺が考えを巡らせても、今日行宮がどんな気持ちで俺と行動を共にしていたのかは分からないのだけれど、それくらいは想像できる。
そして、だからこそ、俺は嫌でも再認識せざるを得ないのだ。
行宮のこの活動への真剣さの度合い?違う。それは間接的なものに過ぎない。
行宮が俺のことを好きだという気持ち―――疑ったことなどなかったけれど、その"ホンモノ"を見せつけられてしまった。
だけど、今は前よりもそれに向き合えている。
その度合いを、もっと前に進めるためにも……、
「……やっぱり、明日になってから、だな」
俺は、自分に言い聞かせるように再びそう呟いて、家への道を歩いていった。
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