mission 5 活動開始 "ヒロイン"と、そうでない彼女たちとの日常

mission 5-1

ピピピピ、ピピピピ

「………………」

目覚ましの音に反応して、俺は緩慢に起き上がった。

しかし、かと言って寝ぼけているというわけではないのだった。

「……結局まともに寝れてないな……」

どうやら、俺は遠足の前日に寝付けなくて寝坊してしまうタイプだということが今判明した。

「まあ、楽しみで楽しみで仕方がない、っていうのとは全然違うんだけどな」

むしろ、先行きが見えないことに対する不安と、これからやらなければならないことに対する緊張感の方が大きい。

そういう意味では、試験を明日に控えた受験生という方が近いのだろうか。

「……下らないこと考えてないで起きるか」

そう思ったところで、いつもなら起こしにくるはずの天がやってこないことに気がつく。しかも今日はその気配もない。

「……まさか、あのまま熱中しすぎて珍しくグッスリ、なのか?」

本当にまさかだが、昨日の様子からするとその可能性も捨てきれない。

とは言え、別に俺は天に起こしてもらわなければいけないわけでもないので、とりあえずは普通にリビングに向かうことにした。

「あんまり起きてこないようなら起こしてやればいいだろうしな」

………………。


ところが、リビングに入るとそんな考えが無駄なことであったことに気づかされた。

「なんだ天、起きてたのか。おはよう。普段だったら絶対に俺の部屋に寄ってから来るはずなのに」

天は既にリビングに座っていた。こんなことは今まで数えるくらいしかなかったはずだ。

「あ、おはよう大地くん……ごめんね、なんかボーッとしたままこっち来ちゃった」

「ああいや、そんな素直に謝られてもな……そもそも普段はこっちがお礼を言わなきゃいけないくらいだし」

どうやら天は本調子じゃないように見える。これがもし普段の通りだったらさっきの挨拶の返しには、


『何?起こしてもらいたかったの?この前ちゃんと起きたと思ったのに、やっぱり大地くんはしょうがないんだから!』


くらいのことは言ってもよさそうなものだ。いや、さすがに穿って見すぎかもしれないが。

それにしたって今の天は少しだけ様子が変だ。

昨日の天もおかしいといえばおかしかったのだが、それとはちょっと違う気がする。

まあ、原因はなんとなく察しがつくので……、

「そういえば、あれから攻略進んだのか?」

それとなく、探りを入れてみることにした。すると、

「……うん、あれからもう一人の子のお話は終わらせたよ」

やはり、あの後も集中力は持続したという訳か。そして、恐らくはそれが原因でこんなことになっているのだろう。

面白くなかった?あるいは単に寝不足なだけ?

いや、昨晩の会話の時の天の疑問と、俺がプレイした時の記憶から考えると、今天が抱いている感情はきっと……、

「……幼馴染の様子に、納得がいかなかったか」

「………………」

無言で、しかしはっきりと天は頷いた。

天が早い段階から、「選ばれなかったヒロイン達がどう思うのか」を考えていたのなら、幼馴染ヒロインのあっさりとした様子には違和感を覚えるだろう。

「……あの子は、もっと寂しそうな顔になったり、もしかしたら泣いちゃったりするくらいが普通の、それくらいの立ち位置にいたはずなのに」

「それでも、あの子はそんな素振りはちっとも見せなかったよね……そんなことって、あるのかな」

その言葉は、問いかけのようではあったが、本質は「そうであって欲しくない」と告げているように感じられた。

それだけ、今の天は気落ちしているように感じられる。

(……まさか、ここまで物語に入りこむとはな……まあ、俺も似たようなところはあったかもだけど)

ここで綺麗事を言っても仕方がないので、俺は思ったことを素直に伝えることにした。

「……分からないぞ」

「えっ?」

「俺たちは"表"のところしか見ることを許されていないからな。主人公だってヒロインだって、もっと言えば友人キャラだって、見えないところで何をして、何を考えているかなんて俺たちには分からない」

「だから、あの幼馴染だって、ひょっとしたら影では泣いたりしてたかもしれない。本当は寂しかったり悔しかったりしてたかもだけど、主人公たちのためを思って笑顔でいようとしたのかもしれない」

「………………」

「そういう意味では、現実と同じなのかもしれないな」

見える関係が、全てじゃない。"裏"では、どんなことが起きているのか分からない。それを全て把握しようだなんて不可能だ。

「だけどまあ、分からなくても、考えなくちゃいけないんだろうな」

「分からない」から「考えなくていい」なんて、そんなはずがない。

そんな考えのままでは、主人公は分かるはずのことだって分からないままだっただろう。

現に主人公は、気持ちがすれ違いそうになっても必死に行動し続けていた。

「分からない」という現状に甘えてはいけない。

……それは、きっと俺にも言えることだから、よく分かる。

「まあ、結局は何が起こるか、起きているかなんていうのは、完全には分かり様がないってことだな」

「……もう、さっきからそればっかりじゃん」

ようやく、天の顔も少し晴れてきたようだ。

……しかし、「分からないことが当たり前」というのは先輩の言っていたことそのままで、確かに頷けるのだが……、

その後に続く、「分からない」という状況でも行動をすることが重要、というところまで来ると、半分くらい支野の主人公に対する考え方が混ざってきている気がする。

あいつには主人公にはヒロインを明確に上回る積極性を求めている節があったしな……。

……と、ここまで考えて、支野の基本的なスタンスを思い出す。


『自分を三人称視点に置いて、他人の恋愛している様を眺めたいんだよ』


それこそ、支野はプレイヤー視点に立ちたいということになる。

そのために、あいつは活動に関わるところでは極力"登場人物"に当たる人物との関わりを避ける方針のようだった。

しかし、だ。

(そんなやつが、ただでさえ全てを把握しきることが難しい恋愛模様を、十分に観察できるのか?)

連鎖的に、俺は生徒会室での雅幸との会話を思い出す。


『彼女はそれに裏から"干渉"し、自らの企画で、自らの選んだ登場人物の恋愛模様を見たい、こう望んでいる』

『でも、それは最早"傍観者"じゃない、だから根本から間違ってるのさ』


……じゃあなんだ?支野は本当に自分自身で色々と破綻してしまっているということなのか?

それにしては、企画全体への熱の入れ様が尋常じゃない気はするが……。

俺たちが知らないような、よりリアルに恋愛模様を見るための秘策でもあるとかか?

それかもしくは……、

(実は、そんな些細ながら明らかな矛盾に気がつかないくらい、焦っている、とか)

……なんて、そんなことはないか。

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