mission 4-6

帰宅して、夕御飯の時間になろうかというタイミングになったのだが……、

「天のやつ……朝あんなことを言ってたのに、どうしたんだ?」

天がリビングに姿を現さない。運動部なだけあって基礎代謝が高いのか、普段なら食事時になると真っ先にすっ飛んでくるようなやつだというのに。

ふとここで、朝方の会話を思い出す。

「……まさか、な」


コンコン

「は、ははははい!?」

天の部屋をノックすると、予想とは違ってすぐに返事が返ってきた。が、その様子から察するに、予想は間違っていないようだ。

慌てて扉を開けた天は、見た目こそ普段と変わらない様子だが、髪型に少しだけ乱れがある。あと顔がやや赤い……?

「……ってなんだ大地くんか……もう、びっくりさせないでよね!」

元々赤かった顔を更に赤くして怒る天。普通だったら理不尽な怒りだが、まず小さくて迫力に欠けることに加え、今回は事情が分かっているので何とも思わない。

「まあ落ち着け。確かにそのゲームが面白くてやめ時に迷うのはまあ分かる。でも時間見ろ時間」

「時間?……って、あ……」

そこまで来て、天はようやく自分が時間を忘れてゲームに没頭していた事実に気がついたようだった。

「……って、大地くん、どうして今の今まで私がこれやってたって分かったの?」

「そりゃあ、そんだけヘッドホンでボサボサになった髪を見れば分かるし、それに、自分も経験したことだしな」

それだけ夢中になって物語に没入させるような何かが、このゲームにはあったことは間違いない。

この想いは、おそらく別なゲームをやった彩瀬川や先輩、そして行宮も経験していることだと思う。

「しかし本当にあれからずっとやってたのか?大体いつもの休みならジッとしてられなくて走りにいったりしてるお前が?」

「何かその言い方だと、私が運動馬鹿みたいに聞こえるんだけど……でも、そうだよ。今日はずっとこれやってた」

正味6時間くらいはぶっ続けでやっていたということになる。見上げた集中力だ。

……と、ここで、天が件のゲームをプレイしていた画面が目に入ってきた。

「ああ、エンディングまで行ったんだな。そりゃあぶっ続けでやればそうなるか」

他のゲームにもあるようなスタッフロールが流れている最中だったので、どうやら誰かしらのルートをクリアしたということなのだろう。

……ん?クリアした?

「……ちなみに、ちゃんと全部読んだのか?」

俺がしれっとそんなことを問うと、

「そりゃ読んだよ!特に物語が佳境に入ってからはしっかりとね!」

「アレなシーンも?」

「だから全部読ん、だ、って……」

俺のした質問の意図に気づき、次第に尻すぼみになってしまう天。

話を最後まで読むということは、そりゃあ回避できないよなあ……。

「ああ、だからさっき顔が赤かったのか……そんなにしっかりと読んだなら尚更だよな」

「そんなに冷静に分析しなくていいの!デリカシーがないんだから!」

まあ天もそんなお年頃ということで、これ以上はこの話題はしないことにして、

「それで、やっぱり面白かっただろ?」

俺が一番聞きたかったことを聞くことにした。

「うん……大地くんが言ってた通りだったね。すごい素敵な恋愛だったし、それ以外の部分も面白かった」

「エロいところも良かったの?」と聞いてみたら面白そうな気もしたが、今度こそ殴られそうな気がするのでやめておく。

「……でも、うーん、引っかかったところもあるかなあ」

「……それは少し興味深いかも」

とにかく感じたことのサンプル数を欲している俺は、どんな意見でも聞きたい気分なのだった。

「……このゲームに出てくる女の子って、結構みんな、主人公の男の子のこと好きだよね?」

「まあ、そうだな」

恋愛をテーマにしたゲームなのだし、大前提としてある程度は主人公に好意的でないと成立しないだろう。そこに、誰のルートに入るかという事実は関係ない。

一見すると反目しているようなツンデレヒロインも、気をある程度許せないとああいう関係にはならないだろう。

「それが違和感か?まあ確かに、現実にはそうそうない状況っちゃ状況かもな」

言われるまで気がつかなかったが、確かに引っかかるポイントではある。

「うーんとね、そこもまあ気にはなったんだけど、そんなのは漫画とかもそうだからそこまでだったんだよね。そうじゃなくてね、」

どうやら他にあるようだった。今の流れから気になる部分って何だろうか?

「……こういう時に、選ばれなかった女の子って、どう思ってるのかなって」

「――――――」

恋に破れた、とまではいかないのかもしれないが、淡い好意を抱いていた相手が身近な同性と結ばれるという心境は、いくら俺でも想像には難くない。

そしてその状況は、今まさに俺が考えなければいけないことに繋がってくるのだと思う。

「例えば、幼馴染の子って、最初から好き好きーって感じなんだけど、他の子と結ばれた時ってどう思っちゃうのかなって思って」

言われて、幼馴染キャラの他のルートでの様子を思い出す。

あれだけ主人公に想いを寄せていたはずだったが、案外他のルートではあっさりと主人公たちのことを祝福していた気がする。

……それは、果たして現実的なことなんだろうか?

好きだった相手が、自分の傍を離れていってしまうことに対して、何とも思わないものなのだろうか?

……少なくとも、その反応を期待して行動することは間違いなのだろうと、思ってしまう。

これから先、答えを出すのだとしたら、必ず切り捨てなければいけない選択肢が出てくるはずだ。

それが仮に、自分に好意を寄せてくれている相手ならば……、

「ある意味では参考になる、ってことなのかな……」

「えっ、何か言った?」

「……いいや、主人公の立場だったら、そういうことも含めて、考えるべきことを考えなきゃいけなんだろうなって」

そんな事実を天の指摘で気づかされているようでは、やっぱりまだまだ自分は甘いのだろうけど、

でも、気づくことはできた。だから、それは活かさなければならない。

「そうだ、夕飯だからってことで呼びに来たのを忘れてた。そろそろだからな」

「そういえばそういう時間なんだよね……本当に珍しいなあ……」

話題を切り上げるべく、俺は天と一緒にリビングへと戻っていった。

………………。




夕食後、天は再び攻略に勤しんでいるようだった。

戻っていく前にわざわざ、

「幼馴染の子がどういう感じになるのかを確認しなきゃだもん」

と言っていたし、最初は幼馴染のルートをクリアしたのだろう。

ゲームなら、そんな風に結末の選択をやり直すことができる。

でも、俺には最初しかないのだ。

そんな俺の最初を決めるための、いわば予行演習のようなものが、明日からいよいよ始まろうとしている。

「結局、支野にどんなことをする予定なのかを聞く前に当日を迎えてしまうわけか……」

正直、相手が相手だけに不安でしかない。

しかしまあ、あれだけ良識はあると豪語するだけあって、一応ある程度まともな活動をするであろうと期待しておく。

あとは「キャラクター」になる人物だけど……、

「期せずして、休日中に今まで関わりの無かった2人と話せたのは良かったな」

それでも、全然足りない。俺は、2人どころか、行宮のことだって知らなさ過ぎる。

でも、0じゃないところまでは辿り着けた。今はプラスに考えよう。

明日からの活動で、どんな風に親交を深めていくのか、そして、その先に誰を選ぶことになるのか。

そこから得られた結果で、俺が恋愛に対してどんな結論を下して、どういう選択をするのか。

先輩が言っていた通り、予定調和なんてない。

支野から渡されたゲームの主人公みたいにできなくたっていい。

俺は、分からないなりに、自分ができる限りの最善を尽くして、明日からの活動に取り組もう。それこそが、求められていることだろうから。

俺はそう決意し、忙しくなるであろう明日に備えて、早めに寝ることにした。

願わくば、明日からが平和でありますように。

………………。




しかし、

そんな俺の願いを裏切るどころの騒ぎではないくらいの波乱が、この後待ち受けていようとは、この時の俺は知る由もなかったのだった。

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