mission 4-2
「城木くんも、ここによく来るわけ?」
「そんなに来る方ではないけど、まあやることが思いつかなかったら来るかな……そういう彩瀬川は?」
「私は結構来るわよ。服とかは本は、やっぱり他とは品揃えが違うものね」
結局俺は彩瀬川と行動を共にすることになった。
ヒロイン役の中では唯一気兼ねせず話せる立ち位置だし、施設の全容を把握したいという今回の目的からすれば、よく知っている人物が一緒なのは都合が良いと言える。
言えるのだが……、
(よくよく考えれば、これってデートとも言えるわけだよな)
別に「急にそういう状況であることを意識してしまって慌ててしまう」ということではない。
まあ支野や越智はそういう展開を望んでいるのかもしれないが、そういう感情を覚えるにはあまりにも交流が少なすぎると言えるだろう。
俺が気にしているのはそういうことではなく、「本格的な始動を前にして、先にヒロイン役と独自に交流をしてもいいのか」ということだった。
……まあ、言い出してしまえば既に行宮とはあんなことになっているので、今更と言えば今更なのだが……。
それに考えてみれば、俺が支野にそこまで義理立てすることもないか。
「俺は今日はリサーチがてら、ってところだな」
「リサーチ……?」
そう言うと、最初は訝しそうにこちらを見つめていた彩瀬川だったが、徐々に目つきが険しくなる。
「ふうん……やっぱり何だかんだ言って、あなたも支野の計画にノリノリってわけね……」
そこまで言われて、どうやら大変な誤解をされているらしいということに気づいた。
「違うって、そういうリサーチじゃない。前に響と来たときに、もう一回来るって約束しちまったからな」
「そ、そういうこと……」
俺の弁解を聞いて納得してくれたようだ。早とちりした自分が恥ずかしいのか、少し顔が赤くなっている。
「君も君で、どうしても俺を八方美人野郎に仕立てあげたいようだな……」
「わ、悪かったわよ!
軽い皮肉を言ってやると、あっさりと謝ってきた。ここ数日で大体彩瀬川の性格は掴めてきた。
それほど観察していた……というよりは、それくらい彩瀬川自身が分かりやすい性格の持ち主だったということになる。
「それにしても、池垣さんと仲が良いのね。幼馴染とはいえ、休日に2人きりで買い物に行くことなんて普通はあんまりないんじゃない?」
「……そんなことないさ」
仲は良いのだろう。長い付き合いとはいえ、異性の幼馴染と頻繁に出かけることが珍しいことであるのも理解している。
けれど、ここで彩瀬川が言うところの"仲が良い"に当てはまるのかは、微妙なところだった。
思えば昔は、男女の違いなど気にせずに近すぎるくらいの距離感で遊んでいたものだった。
いつからだろうか。互いに意識をしだしてしまったのは。
……もっとも、意識をしているのは俺の方だけかもしれないし、その意識が明確に"異性としての意識"と言えるのかは分からないままなわけだが。
何のことはない、俺は響に"距離"を感じているのだ。
それは、物理的な距離ではない、もっともっと―――遠いもの。
「天……妹も一緒のことの方が回数で言えば圧倒的に多いし、その時は天はいなかったけど、代わりと言うのもなんだが、行宮がいたからな」
俺は心の中を悟られまいと、誤魔化すように言葉を続ける。
しかしその発言が、彩瀬川に別な疑問を与えてしまったようだった。
「結局、一緒に行っている女の子の数が増えているだけに聞こえるのだけれど……?」
今度は呆れたような目でこちらを見てくる彩瀬川。
「天は妹だしノーカウントだろうに……それに、行宮は事前に何も言わずに響が連れてきたんだ。俺に意図するところはないよ」
「天さんがノーカウントだと思っている辺りはさすがの鈍さね……」
「?何か言ったか?」
俺の質問に頭を振る彩瀬川。しかし、俺が相手の言ったことを聞き返すだけでどうにも妙な感覚になるな……これも全て支野が悪い。
「そういえば行宮さんが一緒だったって言ったわよね……それって、この前行宮さんが言っていた時のこと?」
俺の発言から状況を察されてしまった。
「行宮さんがあの時の城木くんの行動を褒めていたけれど、具体的にどういうことが起きたの?」
自分がやったことを説明するのは若干気恥ずかしい感じがするのだが、今更隠しておくようなものでもないだろう。
俺は、軽くショッピングモールで起きた事件の詳細について話した。
………………。
「……なるほどね、あの頃警備員の数が増えた時期があったけれど、それはそういうことがあったからだったのね」
彩瀬川は頻繁にショッピングモールを訪れているだけあって変化には敏感なようで、その時の違和感を思い出しているようだった。
……しかし、俺の目に映る彩瀬川は、口にすることとは別なことについて考えを巡らせているように見えた。
「……何かおかしなところでもあったか?」
俺の問いに対し、
「……いえ、別にいいの。気のせい、っていうよりは勘違いかしら?の可能性が高いもの。気にしなくていいわ」
そう"誤魔化した"。
……誤魔化したように見えてしまうのは、俺の心がねじ曲がっているだけかもしれないけれど。
「でもはっきりしたことは、やっぱりあなたは天然のジゴロ体質ってことかしらね」
「そんな意図はないし、そこまで色々とやっているつもりもないけどな……」
俺でそうなのだったら、世のモテる男性はきっととんでもなく気が回る人物ばかりなのだろう。
そこまで考えて、話題になりそうな事柄を1つ思いついた。
「そういう彩瀬川も、この前の支野の発言に噛み付いたりしない辺りは、やっぱり恋愛に興味があるんだろ?プレイしたっていうエ……ギャルゲーはどうだったんだよ」
うっかりエロゲーと言いかけたがすんでの所で踏みとどまった。
この話題は逃げではなく実際に興味があることなのだった。支野は俺たち全員に違うゲームを渡していたので、単純に面白かったのかどうかは気になるところだった。
俺の急な質問に対して、彩瀬川は、
「支野を認めるみたいで癪だけれど……面白かったわよ。すごく」
そう答えた。確かにシンプルながら、支野が最も調子に乗りそうな回答だ。
「正直、馬鹿にしてたわ。だからその分、驚かされたっていう方が大きいわね」
「もちろん、『現実じゃないから~』っていう意味じゃないわ。『お話の恋愛みたいな、都合の良いことなんて』って、どこかで思ってたの」
「だけど……普通は起こらないような出来事も、特別なことができる人物もない……全部、ありふれたことで完結してたのよね」
なるほど、だからこそ身近に感じることができたというわけか。実は、それは大きいと思う。
ただ物語を楽しむだけなら、そんな現実味はいらないだろう。そんなことを考えていたらSF映画なんて一生見れない。
けれど俺たちは恋愛モノをシミュレートする資料としてゲームをプレイしているのだ。それならば、自己を投影できる方がいいに決まっている。
「あと……これも、支野を認めるみたいで嫌なんだけど……確かに、あのヒロインは私に似ていたわね」
「似ていた?見た目が?」
この手のゲームは当然詳しくないのでよく分からないが、彩瀬川のように目を引く金髪のヒロインが、こういう世界では珍しくないということは容易に想像できる。
というか、俺のやったゲームにいたツンデレキャラもそうなのだった。支野の言うとおり、そういうテンプレートでもあるのかと疑いたくなるくらいだ。
「そうじゃないわよ。確かに金髪の子だったけど……自分で言うのは若干悔しいけれど、私よりは全然可愛らしい見た目だったわ」
そうは言うが、彩瀬川は彩瀬川で高い水準の容姿をしていることは既に説明した通りなのだった。
目鼻立ちははっきりとしていて、顔は全体的に整いすぎるほどに整っているし、モデル並みに身長が高いながらも出るところは出ているのだった。
まして今日は、ライトグリーンの私服にその長めの金髪がよく映えている。
全体的に見て上品さ、というかある種気品のようなものを感じさせるその佇まいから、改めて俺は彩瀬川が普通の立ち位置の人間でないことを認識する。
「性格の方よ。性格がそっくりだったから、余計に感情移入しちゃったのかもしれないわね」
「性格ね……」
となると、支野が彩瀬川に渡したゲームの金髪ヒロインは、見た目とは裏腹に結構キンキンと噛み付くタイプのキャラだったのだろうか?
あるいは余計な見栄を張って自滅したりするタイプか?それとも相手の口車にあっさり乗せられるちょろいタイプの可能性も……。
「……城木くん、あなた今とっても失礼なこと考えてるでしょう?」
「滅相もない」
余計なことを考えていたのがバレてしまったようで、彩瀬川から睨まれてしまう。
「……まあいいけど。何だか、気を張りすぎているっていうか、自分を出すのが下手っていうか……そういう子だったのよね」
「……それが、君の本来なのか?」
俺の言葉に、あからさまに"しまった"という顔をする彩瀬川。
しかし観念したのか、
「……支野もいないし、話してもいいのかもしれないわね……」
どうやら、色々と話をしてくれる気になったらしい。
本当ならばこの施設をもう少し回ってからの方が良かったかもしれないが、時刻を見るとちょうどいい時間帯だった。
「飯でも食いながら聞こうじゃないか。ずっと歩きっぱなしなのもどうかと思うし」
「……そうね」
その彩瀬川の言葉を聞いて、俺たちはフードコートの方へと足を進めることとなった。
いい機会だろう。色々と彩瀬川には聞きたいこともある。
せっかく話をしてくれるのだから、彩瀬川の考える恋愛のビジョンについても知っておきたい。経験がないなりに色々と思うところもあるだろう。
それに、一番気になるのはやはり……、
(支野にあれほど突っかかる理由、だな)
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