mission 3-7

「響ちゃん!」

「あれっ……蓮華、どうしたの?みんなと一緒じゃなくて良かったの?」

「うん、いいの。響ちゃんとお話したかったから」

「……私も、やっぱりもう一回聞きたいことがあるの」

「聞きたいこと?」

「蓮華、本当に良かったの?大地のこと、好きなんでしょ?」

「………………」

「……城木くんには、告白したんだ」

「えっ……」

「だけどね、受けてもらえなかったの」

「大地の奴……蓮華のどこが不満なんだろ……」

「ち、違うよ?振られたわけじゃなくてね、さっき支野さんたちの企画に参加した理由を、城木くん言ってたでしょ?」

「……『恋愛を知らない』ってやつ?」

「そう。それが理由で、私のことを傷つけるようなことはしたくないから、って……」

「………………」

「もちろん、本当かどうかは城木くんしか知らないことだけど……それなら私は、城木くんのこと、振り向かせる努力をしてみようかなって……」

「そう……だったんだ……」

「……響ちゃん、私もお話したいことがあるって、言ったよね。いいかな?」

「いいけど……どうしたの?」

「……響ちゃんこそ、本当に良かったの?」

「………………」

「『良かったの?』って、何がかな?」

「支野さんの企画……せっかく勧誘してもらえたのに、断っちゃって」

「チャンスだったのに……本当に、良かったの?」

「………………」

「や、やだなあ蓮華!面白そうな企画かもしれないけどさ、やっぱり真似でも恋愛は簡単にはできないって!」

「あ……でも、蓮華が本気なのも、他のみんながそうなのももちろん分かってるから、茶化したりするつもりは―――」

「……そうじゃないよ、響ちゃん」

「………………」

「本当に、"ヒロインにならなくて"良かったの?」

「……何のことか、分からないな」

「……そう、なんだ……」

「………………」

「私ね、城木くんのことが好きになったのって、響ちゃんと城木くんとで、ショッピングモールに行った日からなんだ」

「あの日って、確か、大地が蓮華のことを助けてあげた日?」

「うん……でもね、それだけじゃないの」

「あの後、私が『大丈夫』って言って、お買い物を続けようとした時、城木くんがストップをかけたよね?」

………………。


「いや、やっぱり今日は帰ろう」

「えっ……ほ、本当に大丈夫だよ?気を遣ってくれるのは嬉しいけど……」

「私も、蓮華がいいって言うなら、このまま楽しんだ方が気分転換にもなると思うけど……」

「……それでも、やっぱりこんなことがあった日だし、ね」

「大丈夫だよ。今日の代わりに別な日にまた荷物持ちくらいやるからさ。な?」

「う、うん……」

「………………」

………………。


「……うん、そうだったね」

「……あれって、私を気遣ってくれたのもそうだけど、心労で体調が悪くなってた響ちゃんのためでもあったんだよ?」

「……そう、なのかな……?」

「少なくとも、次の日城木くんはそう言ってたよ?」

「そう、だったんだ……」

………………。


「行宮、おはよう」

「あ……お、おはよう……」

「昨日は大丈夫だったか?あの後体調崩したりは……」

「うん、してないよ。この通り……心配かけちゃったね?」

「いや。行宮が気に病む必要はないよ……元気そうで安心したよ」

「?何かあったの?」

「……言うか言うまいか悩んだけど、まあ行宮は仲良さそうだし大丈夫か……」

「あの後、響が体調崩しちゃってな……今日は休んでるよ」

「昨日の時点で怪しいなとは思ってたけど、案の定って感じだよ……あ、もちろん行宮のことも考えてたけどな」

「響ちゃんが……えっ……ひょ、ひょっとして、私のせい?」

「いやいや、だから行宮が気に病むことはないんだ。全部あいつらが悪いんだから。行宮も響も悪くない」

「で、でも私のせいで……」

「……行宮、多分、その考え方を響は望んでいないよ」

「………………」

「むしろ、風邪じゃないし、見舞いにでも行ってあげてくれ。ひょっとしたら元気が有り余ってるかもしれないし」

「……うん、そうする」

「……あ、それと、これ……」

「……?これ、どうしたの?」

「昨日のお詫びみたいなものだよ。途中で切り上げさせちゃったし、まあ軽い気持ちで受け取ってくれ」

「あ、ありがとう」

「それじゃあまたな」

………………。

「……このお菓子……昨日私が『今度買ってみようかなあ』って言ったやつだ……」

「話題にもしなかったのに……覚えてくれてたのかな……」

「………………」

………………。


「あの日からずっと、私は城木くんが好きなの」

「だけど、それ以上に、"敵わないなあ"って、思っちゃったんだ……」

「城木くんは周りの人のことを、想像してるよりずっと気にかけてくれる人……だけど、『その中でも響ちゃんだけは"特別"なんだな』、って……」

「………………」

「響ちゃん。私、響ちゃんの親友のつもり。それは、間違ってないよね?」

「う、うん……当たり前だよ。私だって、蓮華のことはすごく大事に思ってるよ?」

「……だから、私なりに、響ちゃんのことは良く分かってるつもり」

「響ちゃんが気づかないふりをしてるのか、それとも城木くんと同じで自覚がないだけなのか―――そこまでは、分からないけど」

「………………」

「私は……本気だから」

「……分かってるよ」

「別に、牽制をしたいわけじゃないよ。私なりに、覚悟を示したかっただけだから……」

「でもね響ちゃん……気づかないふりをしてるだけなら―――逃げないでね?」

「………………」

「"今から企画に参加して欲しい"、っていうわけじゃないけど……気持ちに嘘だけはつかないで、ね?」

「……分かってる、よ」

「……うん、ごめんね、変な話しちゃって……」

「それじゃ、また今度ね」

「………………」

………………。


『響、お前体調悪いだろ。』

『隠し通せると思ってたのか……まあちょうどいい。あんなこともあったし、今日はゆっくり休めよ』

『ああ後、ないと思うけど、行宮のこと、責任を感じる必要とかないからな』


「分かってるよ……自分が逃げてるだけってことくらい……」

「ずっと前から―――自分は大地のことが好き、ってことくらい……気がついてたよ……」

「でもさ、蓮華……」

「親友だから……やっぱり、応援もしたいんだよ……」

「だって、私の"好き"は、ふわっとしたもので……だけど、蓮華の"好き"は、本気だったから……」

「………………」

「私だって……どうすれば良かったかなんて、分からないよ……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る