mission 3-6

「……さて、さすがにそろそろいい時間だろう」

支野がテーブル席の方にやってきたと思ったら、そんなことを言い出した。

言われて時計を見ると、もう夕方の5時を回っている。

想定していなかった2人を交えての歓談だったが、想像以上に気まずくなることもなく、かといって会話が弾むというほどでもなかったのだった。

「支野が考えていた目的を達成できてるかは分からないけど……まあ、これから慣れていけばいいよな」

支野の言葉を借りるわけではないが、「そのうち嫌と言うほど親しくなる」のだ。

「それもそうね……それに、連休を挟むことだし、色々と考えるちょうどいい機会かもしれないわね」

そこまで言われて、俺は支野の方を向く。

俺は攻略を進めなければいけないのだが、それを抜きにして支野が何かしらを企んでいる可能性はある。

特に企画が始まって最初の休日で、しかもそれが連休なのだから、何かイベントを考えていてもおかしくはない。

しかし、俺の考えを見透かしてかどうかは分からないが、支野は、

「城木の攻略も残っていることだし、最初の連休は何事もなく過ごしてくれ。まだまだ日常の積み重ねも足りないことだしな」

そう言った。そういえばそんなことも言っていたな。

「それじゃあ今日は解散なのかな?」

響がそう尋ねると、支野は軽く頷いた。

「それじゃあ、私はちょっと用事があるから先に失礼するねっ。みんな頑張ってね!」

響はそう言うと、一足先に店を出て行ってしまった。

……なかなかどうして忙しい奴だな、というか天は置いていっても大丈夫なのか?とかそんなことを考えていると、

「あ……わ、私も先に行くね?」

行宮が後を追うように店を出て行った。

響が払い忘れていった分のお金も置いていっている辺りは律儀だなとは思う。

「あの2人って、仲良いのね」

彩瀬川がそう聞いてくる。

「そうか、君は行宮とあまり関わりがなかったから知らないのか。あの2人は割と前から親友だったと思うよ」

あのショッピングモールの一件が今年の春の出来事で、その時既にあれだけ仲が良さそうにしていたのだから、その関係の長さは推して知るべし、というものだった。

「……ということは、行宮さんは、池垣さんを追いかけていったのかな……?」

先輩が言う通りかもしれない。追うように店を出たのではなく、本当に後を追っていったわけだ。

「響とは長い付き合いだけれど、それでも話せないようなことはあるだろうし、な」

天がいると言えばいるのだが、俺の妹である以上話辛いことには違いなかった。

関係性が長く深いものだからこそ、話せないことはあるのだ。

(ちょうど、俺が響に自分の悩みを打ち明けられないようにな―――)

「………………」

支野が、2人が出て行った後の店のドアを黙って見つめている。

「……どうした?」

「いや……あの2人は、似ている気がしてな……」

似ているって……どこをどう見たらそうなるんだ?

「どう見ても正反対の2人に見えるんだが……」

「そりゃあ性格的にはな。しかし、本質的なところはそっくりだと感じるんだ」

「『本質的なところ』?」

「……端的に言ってしまえば、"お節介"というやつだな」

「あー……」

少なくとも響についてはそうだと言い切ることができる。

自分に素直なようで、実は一番気にかけているのは周囲のことなのだ。

行宮については、響と比べればその付き合いの長さがまるで違うので判断に困るところではあるが、ここ数日を見る限りではその言葉が当てはまると言える気がする。

こちらは普段の印象通り、自分より周囲を立てようとする性格の持ち主なのだろう。

「正反対の性格のはずなのに、本質が似ているからこそ、親友足り得るのかもしれないな」

俺はそう思った。一般的にも、性格が違う奴ほど仲良くなりやすいと言うし。

「……親友であることが、後に大きな齟齬を生む原因にならなければいいがな……」

「……ん?何か言ったか?」

「また君はナチュラルに難聴を……いや、多分杞憂だろう。気にすることはないさ」

また支野は、寂しそうな表情をしていたが、やはり俺は踏み込むことをしなかったのだった。

………………。

「……私の時のように、失敗することはないだろう」

「強い想いが、歪みを生むことなど珍しくはないが……彼女たちならば、心配はいらないだろうしな」

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