mission 2-6
と、いうわけで帰宅後―――、
俺は夕食を食べ終えると、普段ならリビングでダラダラとしているところだったが、すぐに自室に戻っていた。
自分のパソコンにROMを入れ、早速ゲームをインストールする。
「しかし、こういうゲームは全く経験がないんだよな」
クラスの奴が話しているのを聞いたことがないわけではないが、元々そこまで表に出てくるようなものではない。
事実、今日支野がみんなに配っていたものは、どれも聞いたことのないタイトルなのだった。
ネットで調べたところ、こういうゲームは意中のヒロインが喜びそうな選択肢を選んでいけばいいものらしい。
「……そんなの分かるわけないだろ……」
それが分かるのなら、今こんなに苦労していない。
なので、俺は攻略サイトを使うことにした。そういうサイトは普通のゲームと同じくあるらしい。
……別に、これくらいなら許されるよな?
………………。
「……んーっ……」
一区切りと思い、体を伸ばしながら時計を見ると、始めてから軽く1時間くらい経過している。
なるほど、確かに支野がわざわざ数ある中から選んで渡してくるだけあって、このゲームは面白い。気が付けば時間が経っているタイプのゲームだ。
登場人物はなかなかに魅力的に描かれているし、軽妙な掛け合いも読んでいて飽きさせない。
ところでその登場人物だが、そこも支野はしっかりと考えていたようで、メインの登場人物には今回の企画に対応するようなキャラクターが割り振られていた。
すなわち、幼馴染・ツンデレクラスメート・生徒会長の先輩、である。
……実は、登場人物に関しては、プレイ中ずっと気になっていたことが他にもあった。
「……この妹キャラ、天にそっくりなんだけど……」
いや、支野には天のことは話していないし、企画のメンバーに天のことをちゃんと知っている奴はいないので、誰かが話した可能性もない。
なのに、この妹キャラの"葵"というヒロインは、天にそっくりだった。
見た目だけでなく、若干強気な性格もかなり天に似ているのだった。
……これ、全部クリアしなきゃいけないんだっけ?
「……一体何の罰ゲームなんだ……」
支野に事情を話してこのルートだけ免除してもらおうか……どうせ企画には関係のないキャラクターだし……。
……いや、そうすると支野に妹がいることを説明しなくてはならないのか……どうしたものか……。
と、そんなことを考えていると、
コンコン
ドアをノックする音がした。まさか、このタイミングで、ってことはないと思うが……、
「どうぞ」
俺が返事をすると、
ガチャッ
「大地くん、響ちゃんとこのお母さんがシュークリームくれたよ。私は今日響ちゃんと一緒に色々食べちゃったからまた今度食べるけど……大地くんはどうする?」
本当にタイミング良く(悪く?)、天がやってきた。
「ああ、俺もいいよ。さすがに1日くらいは保つだろうし。何なら母さんたちが食べちゃっても別に文句は言わないよ」
今は集中しなくてはならないことがあるというのもそうだし、元々俺は甘いモノにはそんなの執着しないタイプなので、ちょうどいいのだった。
「そっか……じゃあお母さんたちに言っておくね」
よし、これで上手く乗り切ったな……。
「あ、そうだ大地くん、ちょっと辞書貸してくれない?」
乗り切れていなかった!
天は返事を聞かずに部屋に入ってきた。そりゃまあ勝手知ったる兄の部屋だし、別におかしなことはないのだが……、
そして当然、パソコンに目がいくわけで……、
「……大地くん、いかがわしいゲームやってる……」
天がジトっとした目でこちらを見てくる。俺はここ数日で何回この視線を向けられているんだ……。
まあ、見た目だけで判断すればそうなっちまうよな……。
仕方がないので、事情を説明することにする。
「別に俺の趣味ってわけじゃないんだ、これはだな……」
そう言って、俺は支野に押し付けられたことだけを話した。
さすがに企画全体について話すことはややこしすぎるし、天の心象をこれより悪化させることになりかねない。
何よりも、天経由で響に伝わる可能性を考えると、絶対にできないことだった。
話を聞き終えると、天は怪訝そうな顔をした。
「……大地くんの苦しい言い訳に聞こえなくもないけど……もし本当だとしたら、支野さんってどういう人なの……」
「話をする限りはただのギャルゲー狂いだな、あれは」
端的にひどい評価だが、間違っているとは思わない。
「ちなみに……まあないとは思うけど、天はこういうゲームやったことあるか?」
「あ……あるわけないでしょ!?」
天はぷんすかと怒ってしまった。ちっこいので迫力があまりない。
「まあ……クラスの男子が話をしているのを聞いたことくらいなら……あるけど」
「まあそのくらいだよな……」
もう1人くらい経験者の視点から見て欲しかったが、そう都合良くはいかないみたいだった。
「ところで、こういうゲームって、その……え、えっちな奴なんじゃないの?」
言われて、そういえばそのことはまるで気にしていなかったことに気がつく。しかし、ふと思った。
「支野はそういうのもやる、って言ってたが、今回は俺以外の奴……しかも女の子にも渡してたし、さすがに違うんじゃないか?」
「そ、そう……というか、女の子に渡してたんだ支野さん……」
そこまで言ってから、天の目つきが険しくなる。
「大地くん……支野さん以外の女の子とも一緒にいたんだね……」
……なんでこんなに責められるような格好になってるんだ?
「……支野が来い、って言うから行っただけだ。そこでたまたま会ったんだよ」
……天の視線に気圧されて、そんなつもりもないのに言い訳がましくなってしまう。
「ふーん……べ、別に私は大地くんがどんな人と一緒にいたって構わないんだけどさ……あんまり節操のないことは止めなよね!」
ゴニョゴニョと口ごもりながらもそんなことを言う天。若干顔が赤い。
「なんだなんだ、色々と反抗的なことを言っておきながら、実は兄ちゃんが離れていっちゃうのが寂しいのか」
「ち、ちち違うもん!そんなことないもん!」
もはや子供が怒っているようにしか聞こえない。可愛いやつめ。
天で遊ぶことに満足したので、俺はパソコンに向き直ることにした。
「……そういうのって、面白いの?」
ちょっと落ち着いたのか、天がこっちを覗き込んでくる。なんだかんだで興味はあるみたいだ。
「今日が初めてだから何とも言えないけど……まあ面白いと思うよ。声と地の文のあるラブコメ漫画を読んでるみたいだ」
「ふーん……」
返事はそっけないが、画面からは目を離さない天。
……と、その時、件の妹キャラが出てきた。
『お、お兄ちゃん!何してるの!?』
……しかも丁度、主人公がその葵ちゃんの着替え現場に出くわしたところでありやがった。
「………………」
「………………」
さすがに沈黙してしまう。
「……大地くん、こういう趣味だったんだ……」
「だから違うんだって!支野が渡してきたんだって言ってたろ!?」
さっきから誤解しかされてない気がしてきた。
「というか……この子、私にそっくりだね……え、ってことは大地くん、ま、まさか……」
妙な勘ぐりをしたのか、天はさっきより顔を赤くしてしまっている。
「そ、そうじゃないっ!い、いや、『そうじゃない』って言い切るのも天に対しては失礼な話なのか……?」
「い、いいよ!別にそんなところまで気にしないよ!」
天はもう熱でもあるのかと疑ってしまうくらいに顔が赤くなっている。
俺は、俺のこういうところを何とかしていかなければならないのに……先が思いやられる。
……それはそうと、やっぱりこのキャラは攻略しなくてもいいことにしてもらえないだろうか……。
そんなことを思いながら、俺の挑戦1日目の夜は更けていくのだった。
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