mission 2-3
「お前が城木大地だな」
昼休み。
昨日と違い、今回はちゃんと起きていた。
別に昼は支野に呼び出されていたわけではなかったので、普通に飯を食おうと弁当を取り出したら、見知らぬ男がやってきた。クラスに1人はいそうなお調子者っぽい印象の男だ。
……何か、昨日の支野の時と状況が若干似てないか?
「確かに俺は城木大地だが、お前は誰なんだ。そもそもクラスは違うよな?見ない顔だぞ」
言ってから、学年が上の可能性もあると気づいたが、既に遅い。
しかし、どうやら杞憂だったようで、
「やはりお前がそうか。ああ、お前の言う通りだ、俺は隣のクラスの越智晃輝だ」
そういうとその越智という奴は、おもむろに俺のことをジロジロと見始めた。第一印象に違わず失礼な奴だな。
しばらく観察して満足したのか、あるいは何かに合点がいったのかは知らないが、越智はブツブツと何かを言い出した。
「うーん、平均的な顔に平均的な身長、体格も普通、会話の主導権を握りそうで握らない絶妙な返し……」
「お前、さすがにやるな!真夏が認めただけのことはある男だな!」
何だか良く分からないけど突然認められた。マジで何なんだこいつ……。
……ん?今聞いたことのある名前が出なかったか?
「お前、支野の関係者か」
その言葉を聞くと、越智は何故か得意気な顔になった。
「あれの関係者っていうのも、まあ悪くない響きだな……まあ実際そうなんだけどな」
「というか、今の言い方は若干間違ってるぞ。俺は確かに真夏の関係者だが、"お前の関係者"でもあるんだよ、城木」
「"俺の関係者"でもある」?どういうことだ?
そう一瞬思いはしたが、今の俺にはそう言われてもすぐに納得してしまえるだけの状況があるのだった。
「お前が、支野の言っていた"友人キャラ役"か」
「ああ、その通りだ。察しがいいのは主人公に取っては若干マイナスだが、これくらいは許容範囲か」
……こいつもどうやら、支野同様ギャルゲーに照らし合わせて物事を語る節があるようだ。ものすごく面倒な匂いがする……。
ちなみに、当の支野は昼休みが始まるや否や教室を出て行った。恐らくは部室に行ったのだろう。
「昨日は真夏の口車に乗せられてしまったが、本当は俺も主人公がやりたかった……これは誰しもが思うことだ。言わなくても分かる」
「でも、俺のような性質の人間が主人公になるなら、やっぱり突き抜けている必要がある。それを考えたら、確かに俺よりは城木、お前の方が向いているんだろうな」
「別に俺も主人公になりたくてなったわけじゃない、成り行きでなっただけだ。あと、俺のどの部分を見て向いているって言っているんだ……」
支野は俺を誘う上で色々な観点から俺を見てきているだろうから、恋愛ができるできないの話に繋がるのは分かる。
しかし、越智とは正真正銘今日が初対面だ。恐らく印象の問題だけで言っているんだろう。
「主人公には数パターンある。お前のように普通を絵に描いたような人物像はその内の主流の1つだ」
「昨日から気になってたんだけど、それって本当に主人公に相応しいのか?冷静に考えて、スポーツ万能とか、絵がめっちゃ巧いとか、そういう奴の方が合ってそうなんだが」
クラスに埋没している人間よりは目立つ人間の方がいいだろうとは思う。間違ってはいないと思うのだが。
「それは確かにそうだ。俺が言いたいのは、中途半端に器用なくらいならその方がいいってことだ」
「特徴さえあればそれを取っかかりとして話が展開していきやすい。だけど見てる側が自己投影し辛くなる。普通の人間ならそれがしやすいんだ」
「しかも普通の人間なら、クラスにいる同じ立ち位置の子とかと話が広がりやすい。高い位置の人間はどうしても高い位置で閉塞しがちだしな」
そう言われると、一理あるような気がしてくる。
しかし、俺ってそこまで"普通"な人間だったか……いや、普通に生きてきたことに関しては自信があったが……そこまでとはな。
「ああ、俺が言ったのはあくまで"ポジション"の話だ。その上で本人にエッセンスが足されてれば言うこと無しって感じだな」
「何だその"エッセンス"って」
「生き方に影響を与えるトラウマの1つや2つとか、あとは好きな奴が既にいるとか……まあ後者だったら、そもそもこの企画に乗ってこないんだけどな」
『大地!』
……好意かどうかを判断しかねている状況ならば、企画に乗る場合もある、そう言えたらどれだけ楽だっただろうか。
「まあ、残念なことにトラウマらしいものはない。トラウマがなくて残念、っていうのもおかしな話だがな」
「結局、どれくらい俺が"主人公"に適正があるのかは分からないままだな……支野が本当はどういうつもりで俺を選んだのかは知らないが、俺は俺にできる範囲でしか頑張らないぞ?」
そんな軽い返事に対して、越智は、
「んー、まあそれでいいんじゃないか?そもそも城木って、ギャルゲーとかやったことないだろ?こればっかりは実際にそういう状況にならないと感覚が掴めないだろう」
「結局はこれから考えていくしかないってことだ」
案外真面目に答えてくれた。支野もそうだが、話そうと思えば真面目に話ができるという事実には安心感を覚えた。
「まあ、お前があんまりにもやる気がなくて、俺が友人キャラから格上げで主人公、っていうのもあり得るし、ぶっちゃけ頑張らなくてもいいぞ!」
そういう狙いかよ。
……もっとも、俺は主人公というポジションには固執はしていない。"自分から降りる"という状況にさえならなければ問題はない。
俺は恋愛について学べればいい―――何なら、支野と同じポジションでもいいくらいだ。
「ところでお前、何しに来たの?」
声をかけられてから、用事らしい用事など何一つ言われてない俺は、ここでようやくそのことを越智に聞いた。
「ああ、大したことじゃない。放課後はできるだけ早く部室に来いって、真夏から伝言だ」
部室とは名ばかりの、あのパソコンが置いてあるだけの部屋を思い出した。それくらいは言われなくても分かっていた。
つまりはその伝言ついでに、俺の顔を見に来た、ということなのだろう。というか、むしろメインとサブが逆なのか?
……ついでに、俺も気になったことを聞いてみた。
「そういえば、お前って支野のことを名前で呼んでるけど、昔からの知り合いなのか?」
俺が辛うじて支野の名前を覚えていたから気づけたが、そうじゃなかったら会話が始まった段階で頭の上が疑問符で埋まるところだった。
「ああ、それは話してなかったのか。真夏は俺の中学からの付き合いだ。と言っても趣味仲間ってだけだな」
なんとなくどういう繋がりか、ということは察することはできていたので、別に驚かない。
ふと思い浮かんだので、もう一つだけ聞いてみる。
「支野があれだけ自分のことを『恋愛ができない』って言う理由みたいなのは知らないか?」
「………………」
それを聞くと、越智は一瞬だけ険しい顔をしたが、すぐに元の顔に戻って、
「ダメだな城木。主人公なんだから、そういう情報収集はまずヒロインからだろ」
昨日支野が言っていたようなことと似たようなことを言い出した。
「それじゃあ、また放課後にな」
何か続けて言おうとしたのだが、その前に越智は教室から出ていってしまった。
さっきの越智の台詞が、単に思考回路が支野と似ていることから来るものなのか、
あるいは、支野から言われて情報統制が敷かれているのか……、
そのどちらからくるものなのかは、今の俺には判断ができなかった。
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