mission 2-2
なんてことのない朝食をとり、普通に着替えて準備をして、天と一緒に家を出る。
「あ、大地、天ちゃん、おはよ!」
――――――、
一瞬だけ、息が詰まりそうになるのを何とかこらえた。
さっぱりと短く切りそろえた明るめの茶髪に、均整のとれた身体、そして声と同じようにその体から溢れ出る快活さがうかがえる。
池垣響―――俺の本物の幼馴染が、そこに立っていた。
支野と企画の話をしていく中で、何度となく思い浮かべた顔、
そしてそれ以上に、行宮の気持ちを分からないなりに受け止めようとする中で、自然と思い浮かんだ顔だった。
俺は恋愛が分からない―――その中でも一番分からないのが、こいつへの気持ちだった。
期間で言えば、天と同じくらい長い期間を過ごしているのに、俺はこいつへの気持ちを図りかねていた。
「おはよう、響。今日もやたらめったら元気だな」
「おはよう響ちゃん。大地くんにも見習って欲しいくらいだよ……」
うだうだと考えていてもしょうがないので、俺は響に挨拶を返した。付随して天も挨拶をしたので、俺の不自然さは流されただろう。
「……んー?」
……と、思っていたのだが、
「……大地、何かあった?」
……簡単には流してくれないようだ。
「響ちゃんもそう思う?朝からボーッとしてるんだよね」
「変に早起きするもんじゃないってことさ」
「普段からちゃんとした生活をしてればいいのに……」
天が家でした話と同じ流れに持っていってくれた。これで追及を免れることができるだろうか。
「うーん……いや、そういうんじゃないなあ……大地、やっぱり何かあったんでしょ?」
「……一体なんでそう思うんだ?」
「勘」
……長年付き合ってきた勘とでも言うのだろうか、しかし当たっているので何とも言えないところだ。
「まあ、その勘は外れてたってことだ。別に何もないさ」
「うー、ちょっと釈然としないけど……まあいいや、あんまり気にしても仕方ないしね」
内心、俺は胸を撫で下ろした。それと同時に、俺は天同様、響にも企画のことは知らせないようにしなければならないと思った。
「あ、そうそう二人とも、今日の放課後空いてるかな?ちょっと行ってみようかなーって喫茶店があるんだけど。しかもちょうどフェアーやってるんだって!」
もう前の話題のことは完全に頭にないようで、響がそんなことを言い出す。
もっとも、この場合響が予定を確認したいのは、陸上部に所属している天の方だけだろう。俺は生粋の帰宅部だったのだから。
……そう、昨日までは。
「私は空いてるよ。今日は自由練習の日だからね。大地くんも当然空いてるよね?」
俺は最後の望みを天の方にかけたのだが、空振りに終わってしまった。
こうなったらできるだけぼかして、しかし本当のことを織り交ぜながら話すしかない。
「実は支野に頼まれごとをしちまって……丁度空いてないんだよな」
言ってから、もっと長期的に拘束されそうな用事だということにしとけば良かったと思ったが、もう後の祭りである。
「支野さん?へー、大地があの支野さんと交流があったなんて、驚きだね」
「支野さんって、あの有名な"支野さん"のこと?」
「どの"支野"かは知らないが、多分そいつのことだぞ」
内容のことより、支野の悪い意味での知名度の方で話が膨らんでくれたのは幸いだった。この時ばかりは支野に感謝したい。
「そっかー……じゃあ仕方ないね、天ちゃん、私と2人でも別にいいよね?」
「もちろん!」
どうやらこの場は回避できたようだ。
……しかし今後、似たような状況になったらどうするかは、事前に考えておく必要がありそうだな……。
俺はそんなことを考えながら、今日行く喫茶店で頼むスイーツのことを楽しそうに話し合う2人を眺めていた。
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