mission 2 企画始動

mission 2-1

ピピピピ、ピピピピ

「………………」

目覚ましの音に、俺は即座に反応した。

普段なら、もっとのんびりと朝の短く貴重な微睡みの時間を過ごそうといったところなのだろうが、今日はそんな気分ではない。

……実際は、あまり眠れていないだけなのだけれども。


『君たちの恋愛模様を見ることができるのを非常に楽しみにしているよ』


……昨日は色々なことがありすぎたし、色々な考えなければいけないことが増えすぎた。

そして、昨日の今日だが、その企画が今日始まる。

……つまりは、また行宮と必然的に顔を合わせなければならないということになる。

でも、それを選んだのは他ならぬ自分だ。

そして、行宮や他のヒロイン役の子と向き合うことで何かを掴むと、そう誓ったのも自分なのだ。

……前向きに行こう、この企画にネガティブなイメージのまま参加したら、自分のことも、行宮のことも裏切ることになってしまう。

そう気持ちを切り替えて、俺は登校の準備を始めた。

と、ちょうどその時、

コンコン

ドアをノックする音がする。

ここで昨日話の合間に支野からチラッと聞いたことについて思い出したい。

どうやらギャルゲーの世界では、幼馴染が朝起こしに来てくれるのがセオリーらしい。

そして朝ごはんを作ってくれたり、弁当を渡してくれたりもするらしい。

もっとも、それはギャルゲーにおける主人公は両親と同居していないことが多いということに起因するようだ。

まあ多分、両親が一緒にいると動かし辛かったりするのだろう。

ちなみにこの件に関して支野に、「君はちゃんと両親が海外に出かけてたりするか?」とか言われたが、彼女にとっては残念なことに父母ともに健在だ。

話を戻そう。

どうやら幼馴染が朝起こしに来てくれるのが、ギャルゲーでは当たり前らしい。しかし、当たり前だが俺はギャルゲーの真似事をしようとしているだけだ。

だから俺の幼馴染は朝起こしに来たりはしない。

では、この起こしに来た人物が誰なのかというと……、

「大地くん……?あれ、珍しく起きてるんだ、どうしたの?」

薄い水色の髪と、小柄ながら芯の強さを覗かせる顔が見えた。

城木天、俺の妹だ。

兄が大地で妹が天(そら)とは、親もなかなかに洒落たネーミングだとは思う。

実は昨日、支野がギャルゲーの王道ヒロインについて熱く語っていた時に、「幼馴染だけじゃなく妹もいる」と話そうか迷ったが、やめておいたのだ。

幼馴染がいると知った時の反応すら少し面倒だったのに、おまけに妹がいると知られたらどうなるか分からない。

……天には企画のことは知られないようにしなきゃな。

「まあたまには早起きもいいだろ。毎朝お前に起こしてもらうのもいい加減申し訳ないしな」

実際には多分天が起こしに来てくれなくても、ちゃんと間に合うくらいの時間には再び目を覚ませるとは思うのだが、そこはそれ、妹の思いやりを大事にしたいということだ。

とは言え、今日に限っては適当な言い訳をしてボロが出ると怖いので、考えていることとは真逆のことを口にする。

「べ、別にわざわざ起こしに来てあげてるわけじゃないもん……ついでに様子を見に来てるだけだから」

しかし我が妹は最近年頃のためか素直じゃないので、こんなことを言う。

……冷静に考えると、天って彩瀬川とかよりよっぽどツンデレなのではないか……?

「……大地くん、今変なこと考えてるでしょ」

そんなことを考えていたら天に見透かされた。危ない危ない。

「なんてことない、寝起きで頭がボーッとしてるだけだ。やっぱりもう少し寝とけばよかったな」

「ふーん……ちょっと怪しいけど、まあいいや。せっかくちゃんと起きたんだから、二度寝とかしないで準備してよね!」

そう言って天は部屋から出ていく。別に兄妹仲は悪くないとは思うが、昔みたいにはいかないもんだなあ。まあ当然か。

ちなみに天が俺のことを名前で呼ぶのは、親が天と俺を並べた時に俺のことを「お兄ちゃん」と呼ばずに名前で呼んでいたため、それが定着したからとのことだった。

……支野の話では、妹ヒロインは「お兄ちゃん」とか「兄さん」みたいな呼び方をしてくるものだと言っていたので、そこは彼女の期待と離れていることになる。

まあ、そもそも会わせるつもりもないんだけどな。

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