第48話 日印軍合流す
小野田支隊の戦車はとにかくパンターへしがみつくように突撃する。
日本軍の戦車に暗視装置は無い。
車長が外を見て目でパンターの位置を確認する。
「戦車が来てくれたぞ、前へ!前へ!」
歩兵第五連隊の第二大隊は小野田支隊の来援を受けて、立ち上がり前進を再開する。
意気の上がる日本軍
対してエルトル大隊は押される。
小野田支隊と最初にぶつかったのが、エルトルが直に率いる小隊だったのも形勢がすぐに不利になる悪条件になった。
「ブリッツ1より、全車へ。一時後退する、戦車の回収作業は中断せよ」
エルトルは分かれている戦車を一同に集める事にした。
敵歩兵2個部隊に加えて新たに敵戦車部隊が現れた。エルトルは大隊を一丸にして当たるしかない。
(だが、これでインド軍を阻止はできないぞ)
エルトルは戦況に対応する為ではあるが、インド軍部隊に手が出なくなる。当初の目的であった突破を図るインド軍部隊の阻止はできないとエルトルは悟った。
「押し込め、敵戦車を俺たちだけで抑える」
小野田は自分の支隊でエルトル大隊を相手すると決めた。
自分達がエルトル大隊を抑えている間に、歩兵第五連隊第二大隊とインド軍の合流を果たさせる。
日本軍はコーリらインド軍の突破を知らない。
小野田はムンバイへの突破口を開き、インド軍と合流できれば成功だと考えていた。
打ち合わせた訳ではないが、歩兵第五連隊第二大隊はそうした動きをしている。
「戦車が退いた」
コーリはエルトル大隊が撤収したのを見た。
機銃を撃ちながら去るパンター、一方で戦場騒音が向こうから聞こえる。
「日本軍が来たのかもしれん」
コーリはそう判断する。
状況を知る手段は無い。勘で判断するしかない。
その勘が部下と後ろに続く避難民の生命を左右する。
重大な判断であるが、コーリは迷い無く決める。
ここで迷えば道が閉ざされる。犠牲が増えるだけだと。
「後ろの皆にも伝えろ、前進する」
コーリは避難民を含めた全員の前進を命じた。
戦艦「信濃」の砲撃に、ドイツ軍の砲撃がムンバイより南の地に降り注ぐ。
日独をはじめインド軍・アラブ義勇軍の将兵が砲撃が吹き飛びながらも、戦車は撃ち合い、歩兵は銃撃のみならず銃剣での白兵戦に及んでいた。
戦艦「信濃」による砲撃とインド軍の突破に触発されて起きたムンバイ近郊の戦闘
これは次第に大きな戦闘へと発展して行く。
引きずられるように規模を拡大する戦闘は突破するインド軍以外は、何処までやるかの目的が定まらないまま戦い続けている。
それでも戦いの流れは出来ていた。
日本軍第十三軍が進むのを、ドイツ軍第18装甲軍団が食い止めている。
小野田支隊と歩兵第五連隊によって、エルトル大隊を退けたのは例外な展開だった。
多くの戦線では崩れそうなアラブ義勇軍の戦線を第18装甲軍団が支えていた。
戦車第三師団はアラブ義勇軍2個大隊の陣地を切り崩したが、駆けつけた第21装甲師団とぶつかり前進が阻まれていた。
日独戦車の性能差もあるが、暗視装置の有無が大きな差となった。
正面から進む戦車第三師団の三式中戦車や四式中戦車は、パンターやⅣ号戦車に備え付けられた暗視装置で位置を特定されて撃破された。
他では、歩兵による浸透で敵陣を抜こうとする第十四師団が第19装甲師団に見つかり、戦車によって打ち据えられていた。
第八師団の主力は第7装甲擲弾兵師団と互角の戦いをしていた。
師団砲兵のみならず、軍砲兵の重砲1個大隊も投入できた事で第八師団は火力で戦線を支えた。
また、捜索第八連隊に所属する七式対戦車自走砲が第7装甲擲弾兵師団の戦車を撃破する。
第7装甲擲弾兵師団は第八師団の善戦に優位を掴み損ねていた。
こうした地上戦の中へ戦艦「信濃」の砲弾が撃ち込まれ、ドイツ軍は一時態勢を崩される。そこを狙い日本軍は突き進む。
こうした押し合いが続く中で小野田支隊はエルトル大隊と撃ち合いになっていた。
「くそ、距離が詰められんか」
集結させたエルトル大隊は小野田支隊の前進を拒む様に近づけさせない。
逆に小野田支隊は七両の三式中戦車が撃破されていた。
エルトル大隊は装甲偵察隊と装甲擲弾兵が1個中隊づつの増援を受けていた。
「攻撃に出よ!」
増援を受けたエルトルは二度攻撃に出たが、小野田支隊の歩兵と捜索中隊の二式軽戦車改も出て支隊総出でエルトル大隊を迎え撃った。
パンター戦車を先頭に押し出すエルトル大隊もとい、エルトル戦闘団
小野田支隊は一時退き、エルトル大隊を引き入れる。
そこへ側面展開した日本軍の歩兵と軽戦車がドイツ軍の歩兵と偵察車輌を攻撃する。
側面と背後を脅かされた事でエルトル戦闘団は引き返す。
二度目はパンターの1個中隊を後衛に置いた。
背後に回り込んだ二式軽戦車改は動きながら撃ちまくる。当てては無いがドイツ軍戦車兵を逆なでするには十分なものだった。
「チビ戦車をのさばらせるな!」
と言ってみたものの、なかなか撃破はできない。
二式軽戦車改が1両撃破されたところで、今度は携帯式対戦車噴進砲を持った捜索中隊の歩兵がパンターを撃ち足回りを破壊する。
エルトルは後衛への救援に擲弾兵中隊と装甲偵察中隊を送らざる得ず、戦艦「信濃」の砲撃も受けて二度目の攻撃も頓挫した。
「くそ、こんなに手こずるとは」
エルトルは小野田支隊と撃ち合いを続けながら、自らの不運を呪う。
小野田とエルトルが一進一退を続ける脇で、コーリのインド軍部隊から送られた斥候が歩兵第五連隊第二大隊と接触する。
「大隊長、インド軍の斥候を連れて来ました」
渕上のところにインド軍の斥候であるヴィハーン軍曹が連れて来られた。
これはヴィハーンが接触した日本軍将兵にインド語を理解できる者がおらず、大隊本部へ送られたのだ。
「そちらの状況を知りたい」
渕上はよく事情を呑み込めないヴィハーンへ質問する。
ヴィハーンは大隊本部付の通訳である少尉を介して答えた。
コーリが率いるインド軍がムンバイ市民と共に敵中突破を図っていると。
「よし、我が大隊がまず合流しよう。連隊長へ伝達、インド軍が市民と共に敵中突破せりだ」
渕上の報告は第八師団の司令部へも届けられた。
師団長はすぐに歩兵第五連隊の全力でインド軍と民間人を収容すべしと命じた。
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