第47話 エルトル大隊窮地に立つ

 「ブリッツ2被弾!負傷者2名!」

 「くそ!」

 エルトルはすぐ隣のパンターが被弾して悪態をつく。

 ブリッツ2は車体下部に噴進弾が命中した。この噴進弾の弾頭は、モンロー効果による火薬の爆発を一点に集約し、装甲を貫く構造になっている。

 こうして貫通された車内で操縦手と無線主が背中と肩を負傷した。

 「ブリッツ2は後退、ブリッツ22と合流しろ」

 「了解」

 エルトルはブリッツ2を下がらせる。

 ブリッツ2は装填手に操縦させ、砲手に砲塔の同軸機銃を撃たせながら後退する。

 「ブリッツ1より要請する、砲兵の支援をこっちへ回せ!」

 エルトルは連隊本部に要請する。

 いくら戦車の火力が協力とは言え、戦車小隊で大隊の歩兵を制圧するには足りない。

 だから面制圧が可能な砲兵の支援を望むのだ。

 「師団司令部へ要請する」

 一応は応じてくれたが要請が通るか分からない。

 「とにかく周囲へ撃ちまくれ!」

 残る3両で砲と同軸機銃に、無線手が撃つ車載機銃を撃ちまくる。

 歩兵第五連隊第二大隊はそれでも前進する。

 パンターの砲火に撃たれて、倒れながらも対戦車班を先頭に前進する。

 時折、噴進弾を撃ち伏せる。地雷を持つ兵士は黙々と前進する。

 エルトルは第3中隊から1個小隊を呼び寄せ、迫る日本軍歩兵に備える。

 「ブリッツ1へ、これより砲兵支援を行う」

 ようやく砲兵の支援が来た。

 砲弾の炸裂が歩兵第五連隊第二大隊を襲う。

 「いいぞ、いいぞ」

 エルトルはこれで敵の半数を倒せると勘定した。

 その時だった。

 「ブリッツ24、被弾!」

 「敵戦車だ!」

 無線に第3中隊の小隊から急報が入る。

 「敵戦車だと!?何処から?」

 エルトルは砲塔から僅かに頭を出して周囲を見る。

 日本軍歩兵を叩いている砲撃の爆炎が間近に見える。それと違う砲炎らしき煌めきが少し離れた所で見えた。

 「あれか?あんな所に敵が」

 エルトルは暗視装置を起動して再確認する。そこには台形の砲塔でパンターより砲身が短い戦車があった。

 「間違いない、日本の三式だ」


 「突撃せよ、敵戦車にくっつけ!」

 エルトルの戦車大隊へ挑むのは小野田支隊だった。

 三式中戦車がパンターとの距離を一気に詰めようと突撃する。

 砲の火力に、装甲もパンターよりも弱い。こうなれば至近での砲撃でパンターを撃破するしかない。

 数時間前の戦闘で、パンターと交戦したばかりの小野田支隊の戦車兵はパンターの強さを痛感している。

 「奇襲できたようだぞ。行け!行け!」

 エルトル大隊第3中隊の小隊は、突然現れた小野田支隊に、側面を突かれる形となった。

 小野田支隊の大隊規模の戦車が夜とは言え、パンターの小隊を崩した。

 小野田が命じた通りに、三式中戦車はパンターと100mや50mの距離で75ミリ砲を放った。

 さすがのパンターも車体側面を貫通されて撃破されるか、砲塔が動かなくなったり、車体の走行装置が故障する傷を負った。

 「ブリッツ1より全車へ、敵歩兵との戦闘を中断せよ!全力で敵戦車に向かえ!」

 エルトルは日印両軍の歩兵を捨て置き、小野田支隊と全力で戦うと即座に方針を変えた。

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