第45話 歩兵第五連隊第二大隊

 コーリがエルトルの戦車大隊と交戦をしている時

 その戦場へ近づく者達があった。

 青森歩兵第五連隊の第二大隊である。

 戦艦「信濃」の砲撃支援を受けて再開された第十三軍の攻勢再開で動いている部隊の一つだ。

 歩兵達は行く先に聞こえる銃砲が射撃する音に、発砲の閃光を見た。

 どうやらムンバイを攻めている敵とインド軍が交戦しているようだ。と考えていた。

 日本軍はムンバイのインド軍が市民と共に脱出戦をしているのを知らない。

 「このまま前進し、友軍である印度軍と交戦する敵軍を攻撃する」

 大隊長の渕上少佐は方針を定める。

 上手く行けばインド軍との挟撃が望めると渕上は考える。

 「海軍の支援砲撃があるとはいえ、拙速感が拭えんがな」

 第五連隊は第八師団司令部から、海軍の支援砲撃が続く間に前進を再開せよと急かされこうして夜の前進をしている。

 戦は好機を捉えたとはいえ、ドイツ軍第18装甲軍団が前線に現れた事で停滞した   第十三軍が動き出すにあたり、慌ただしさがあった。

 それは渕上から見ても拙速で急なものだった。

 「海軍の支援は事前に決めた事では無い」

 「いつまで支援砲撃が続くか分からない」

 「海軍の支援とは言え、天祐だ。これを利用しない手は無い」

 師団長や連隊長などから聞く今の状況はなんとも行き当たりばったりに渕上は感じた。だが、このような事は今までもあった。驚く事ではないが。

 幸いにして、渕上の大隊は敵と遭遇する事無く今は前進を続けている。

 しかし、第一大隊が進む左翼に、第三大隊が進んでいるであろう右翼から銃撃や爆発の音が聞こえる。

 我が大隊は運よく敵前線の奥へ浸透できているに過ぎないと渕上は思う。

 だが連隊より突出し過ぎて孤立しないかの不安がある。

 孤立してドイツ軍の戦車隊に囲まれやしないかと。

 その時に頼りとなるのは五式七糎対戦車噴進砲だ。

 1.5mの筒であるこの武器は筒から噴進弾を発射して戦車を攻撃する。歩兵一人が扱える小さな大砲と言える。

 だが戦車を多く持つドイツ軍に対して噴進弾が足りるとは思えず、日本陸軍は今まで使っていた九九式破甲爆雷を装備し続けているし、火炎瓶を現地で作る事がまだ続けられていた。

 「出来れば戦車とやり合いたく無いがな」

 新兵器の噴進弾があるとはいえ、敵戦車に近づいて戦う事に変わりない。

 渕上は戦車と出会わずインド軍と合流できればと願うばかりだ。

 しかし、それは叶わない。

 「敵戦車が居ます、おそらく二十両以上」

 斥候がエルトルの大隊を発見した。

 「戦車が居たか」

 渕上はそう軽く答えた。

 このまま前進するか、防御に転じるか。連隊長は「前進を続行するか否かは、別命あるまで前進すべし」と渕上ら大隊長へ命令した。

 「行こう!各中隊は対戦車班を前衛へ出せ」

 連隊の命令が前進であれば、戦闘での消耗など状況の変化が無い限りは進まなければならない。

 渕上は敵戦車との戦いに備えて、対戦車噴進弾や破甲爆雷を装備する対戦車班を前へ出す様に指示した。

 この対戦車班は歩兵中隊の下にある小隊ごとに編成されている。

 どの班も噴進弾がある訳ではなく、爆雷や火炎瓶での戦いを余儀なくされている班もある。

 だが、敵戦車と出会えば進んで攻めねばならない。

 敵の前線を浸透出来た分、ここで苦労をせねばか。と渕上は煙草の煙を吐く様に息を吐き出す。

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