第44話 戦車への突撃
「敵陣突破か、インド軍もやるものだ」
コーリに迫る敵戦車はエルトルが率いるパンターの戦車大隊だった。
「アラブ義勇軍の戦線が内側から破られた。火消しに行ってくれ」
そうした連隊からの命令でエルトルは大隊を率いて出動した。
戦線がこじ開けられての火消し、ソ連軍と戦った東部戦線ではよくある展開だった。
飛び出したソ連軍を戦車部隊で殴り掛かり、その勢いを止めるのが火消しの役目だ。
情報では戦線突破はインド軍単独らしい。しかも十万人以上の兵で突破を図っているらしい。
「インド軍に戦車はあったか?あっても日本製の弱い戦車だろうが」
前線からの情報は少ない。どうやってインド軍が戦線を破ったのかまでは報せが無い。
エルトルは歩兵を付けての火消しを求めたが、日本軍第十三軍が攻勢を再開するのに備える為に兵力が必要として却下された。
「まあ良い。戦車だけでやれるさ」
エルトルはそう開き直り、火消しに出動した。
戦車砲の火力で飛び出したインド軍を叩けば良いと。
「陣地内を探れ!武器を探すんだ!」
敵戦車襲来と言う報せを受けてコーリは兵達にアラブ義勇軍の陣地内を探らせた。
身軽に動く為に銃火器と手榴弾ぐらいしか持って来ていない。
だから敵陣の中に何か戦車と戦える武器が無いかを探らせる。
「戦車に使えそうなのは地雷ぐらいか」
兵達が見つけたのはドイツ製の銃火器に加えて、手榴弾と地雷に対戦車砲だった。
(パンツァーファウストぐらいはあるかと思ったが、ドイツ人はアラブ人にあげなかったんだな)
コーリは出来れば対戦車擲弾を放てるパンツァーファウストが欲しかった。
だが、アラブ義勇軍の陣地には一つも無かった。ドイツがくれなかったのだろう。
対戦車砲は50ミリ対戦車があるものの、砲を扱える兵士がコーリの周りには居なかった。
そうなると地雷をぶつける接近戦しかない。
「地雷を持て、地雷で敵戦車をやるぞ!」
コーリが命じると兵士達は地雷を持ち、戦車との戦いに備える。
「敵兵らしい熱源を発見」
赤外線暗視装置を使いうエルトル大隊の戦車兵がはコーリ達、インド軍部隊を発見する。
「敵戦車は無いな。砲撃で蹴散らしてくれる」
エルトルは楽観していた。戦車がなければこちらが撃破される事はないだろうと。
インド軍にパンツァーファウストやパンツァーシュレックのような携帯できる対戦車兵器は無いと聞いている。
日本軍にはパンツァーシュレックのような筒形の発射機で砲弾を撃ち出す対戦車兵器の配備が始まったばかりと聞くが、インド軍にまで広めているとは聞いていない。
そうなれば砲撃で圧倒できる筈だ。
東部戦線では対戦車手榴弾なる物を持ったソ連軍歩兵が戦車に挑んで来たが、距離を開けられれば問題無いだろう。
「ブリッツ5から戦闘開始、各中隊ごとに敵を攻撃」
エルトルは先頭を進むブリッツ5こと第1中隊の攻撃から戦闘を始める。
パンターの75ミリ砲がコーリ達に砲弾を浴びせる。
「まだだ!まだ、引き付けろ!」
撃たれるままのコーリ達、コーリは兵達を抑える。
「敵は砲撃を浴びて動けなくなっているぞ。機銃も撃ち込め」
エルトル大隊第1中隊の隊長は一気に追い込もうとしていた。
パンターを前進させ、機銃も撃ち敵陣へ近づき敵兵をプレッシャーを与えようと考えた。
距離が五〇〇mまで第1中隊は近づき、コーリの前から去ろうと左へ方向を変える。
第1中隊のパンターはコーリ達の前で側面を晒す形になる。
「今だ!行くぞ!」
コーリは地雷を提げて立ち上がる。兵達も同じように地雷を提げて立ち上がる。
「敵兵が出て来たぞ、まさか待ち伏せか?」
エルトルは赤外線暗視装置で見えるコーリ達の突撃に驚く。
「おおお!行けえ!」
コーリは先頭に立ち、パンターの進行方向へ地雷を放り投げる。
その投げられた地雷を踏んだパンターは右側のキャタピラを切られてしまう。こうなると右側のキャタピラが外れて動けなくなる。
「やったぞ!」
「行くぞ!」
コーリが模範を示した事で兵達の士気が上がる。自分達も続こうと熱くなる。
ある者は同じようにコーリと同じように踏ませる位置に地雷を放り投げ、または信管を抜いてパンターの後部に投げパンターのエンジンを壊そうと試みる。
この瞬間で合わせて3両のパンターがキャタピラを切られて行動不能になり、2両が地雷をぶつけられたものの、損傷らしい損傷はなく機銃で反撃をした。
「くそ、機銃で追い散らせ!」
エルトルは第2中隊と大隊本部小隊を率いて第1中隊の救援に向かう。
砲弾ではなく、機銃でコーリを追い払おうとする。
「退け!退け!」
コーリはエルトルらのパンターから放たれる機銃の雨を受けて、兵達を下がらせる。
「ブリッツ12は敵を攻撃、ブリッツ22はブリッツ1を掩護しろ」
エルトルは第2中隊でコーリを攻撃させ、第3中隊で第1中隊の撤収を掩護する命令を出した。
「くそ、これではまた出るのは無理だな」
コーリはエルトル大隊第2中隊の砲撃を受けてまた動けずに居た。
(ここで日本軍か誰かが攻撃すれば、この敵戦車部隊の背後を襲えるのだがな)
コーリの着眼は良かった。
エルトルの大隊はコーリに注視して攻撃するか味方の援護に気を取られている。ここに新たな攻撃が出来れば奇襲ができると。
しかし、それは無い物ねだりに等しい。
何処に日本軍のどの部隊があるのかコーリには分からない。
分かったとしても連携する術が無い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます