第43話 第十三軍再進撃
「あれは戦闘だな。何かと戦っている」
小野田は地上戦が自分達の前線より遠くに起きているのを確認した。
「信濃」の砲撃とは違う、規模の小さな爆発音や銃撃音が響く。
ムンバイへ進撃する第十三軍のどれかの部隊が前に進んでいるのか?
そうだとすると、連携してこちらも打って出たい。
「師団司令部へ問い合わせろ。我が軍で前進中の部隊ありや?」
小野田の問いに戦車第三師団司令部は「突破を果たした部隊を聞いていない」と答えた。
ではアレは何処の部隊なのか?
戦車第三師団から、第十三軍司令部と十三軍に属する第八師団と第十二師団に問い合わせるも答えは同じだ。
突破を図ろうにもドイツ軍の第18装甲軍団によって前進が阻まれていたのだ。
逆に軍司令部から「海軍の砲撃が続いている間に夜襲をかける」と命令が来る。またとない戦艦の支援砲撃、撃つ地域の座標を送っているがしっかり調整や管理が出来ている訳では無い。
「信濃」の砲撃を受けてしまう可能性は大いにある。
だが、陸軍の重砲よりも強力な戦艦の主砲による援護を見守るだけではいけない。味方の戦艦に撃たれても良いから突破口を開けると第十三軍司令官である宮崎中将は決心した。
「小野田支隊ハ師団ノ前衛ト成リ前進セヨ」
戦車第三師団は小野田支隊へ引き続き先頭に立てと命じる。
先のパンター大隊との戦いで日野中隊をうしなったばかりだが配置を入れ替える時間は無い。
「戦艦はいつまで撃ってくれるのだ?」
小野田は加藤へ尋ねる。
「それは分かりません。尋ねてみますか?」
「信濃」との連絡を第十三軍司令部へ繋いだ加藤は問い返す。
「いや、いい」
小野田は振り切る様に「前進せよ!」と支隊へ命じた。。
「市民は付いて来ているか?」
コーリは部隊の先頭に立って指揮をしていた。
歩兵のみの部隊
目の前に現れる敵兵を銃撃や手榴弾に銃剣、更には拳や蹴りで打倒しながら進む。
まさに兵士それぞれが身体をぶつけての突破になりつつあった。
「信濃」がコーリが前進する周辺に砲撃を続けてくれれば良いが、そうはならない。
砲撃が来ない時に立ち直ったアラブ義勇兵はインド兵を押し留めようと立ち塞がる。これを血肉を散らしてこじ開ける。
「市民は付いて来ています。ですが、敵は市民にも撃ち込んでいるので脱落者が出ています」
副官が報告する。
コーリに続いて市民たちは懸命に付いて来ていた。
だが、アラブ義勇軍は突破するインド軍に市民が大勢同行しているなんて知らない。
大軍で押し寄せているように見えて銃撃も砲撃もして来る。
次々に倒れる市民、それに臆して立ち止まる者もあるが多くはコーリと離れまいと足を動かし前へと進む。
「それなら良し」
犠牲は減らせない。コーリは突破部隊と市民が分断されていないだけで良しとした。
「前進再開、ダワン隊援護しろ」
コーリは自ら率いる隊に前進を再開させる。
ダワン隊から機関銃による支援射撃が始まる。日本が支給した九九式軽機関銃に先の戦争で鹵獲したイギリスのブレン軽機関銃での支援射撃だ。
「突撃だ!行け!」
コーリはエンフィールドリボルバーを右手に持ちながら先頭に立って突撃する。
アラブ義勇軍の陣地から銃撃でコーリ達の突撃を止めようとするが、ダワン隊の援護射撃のせいでまばらなものだ。
「うおおおおお!」
コーリ達は陣地へ踏み入れる。
銃剣で刺し、銃床で殴り倒し、蹴りを見舞う。
まさに邪魔な壁を打ち破るようだ。
「敵が逃げるぞ」
兵が逃げる敵兵の背中を狙おうとする。
「構うな、放っておけ!」
コーリはその兵を止める。
逃げる敵兵を追わない。そんな余裕は無い。
前線を破り、付いて来る市民を守りながら進む。逃げる敵に手を出す余力はない。
「周囲を警戒しろ、副官は後続と連絡だ。ダワン隊は斥候」
陣地からアラブ義勇兵を追い払うやコーリは指示を出す。
一時部隊を止め、突破口を確保する。ダワン隊を動かしてこれより先の様子を探らせる。
(今のところ、なんとかやれている)
コーリは水筒の水を一口飲んでそう思う。
(このまま行けば良いのだが)
犠牲を出しつつも前進は続けられている。市民を半数でも連れて行ければ成功だ。
だが、その微かなる願いを打ち消す報告が飛んで来る。
「戦車が来ます!」
斥候に出ているダワン隊が発見した。
「戦車か」とコーリは短く答えた。そこから続く「これは、いかんな」と言いそうになるのを喉の中に押し留めた。
歩兵だけの集団、重装備は持って来ていない。
戦車と戦えるものではない。
(シヴァ神よ、どうか後に続く市民達の為に力をお貸しください)
夜空を見上げ、コーリは再度シヴァ神に願った。
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