第26話 インド洋第1艦隊
発:海軍総司令部
宛:インド洋艦隊司令部
セイロン島より敵艦隊出撃の報告あり
インド洋艦隊司令部は敵艦隊への出撃可能なりや
海軍総司令官カール・デーニッツ元帥
この内容の電文がチクリアスの所に届いた。
直接的な出撃命令ではないが、「敵が来たのだから出撃するように」と促されている。
発:海軍総司令部
宛:ホレス・マテウス大佐
インド洋艦隊司令部での任務は終了
インド洋第Ⅰ艦隊司令部にて総司令部派遣参謀として着任せよ
今時出撃における状況を観察するように
海軍総司令部参謀長
マテウスも同じ時間にベルリンからの電文を受け取っていた。
「前線にか」
同じ艦隊司令部でもインド洋第1艦隊は戦艦「フリードリヒ」に将旗を掲げる前線の部隊だ。
後方の司令部勤務がフネの上より少し長いマテウスにとっては久しぶりの海上勤務となる。
「前線勤務か。しかも出撃する部隊じゃないか」
チクリアスはマテウスの異動に驚く。思わず左遷ではないかと心配にもなった。
「これは前線を見て来いと言う意味でしょう。敵味方の実力を見る良い機会です」
マテウスの前向きな答えにチクリアスは安堵する。
「だが、貴官の望むようにはならなかったな」
チクリアスはマテウスが望むドイツ艦隊は動かさず、日本艦隊を動かせて勝手に燃料消費をさせる案が実現しなかった事に触れた。
「そこは残念に思います。前線で叶うならば私の望む方向に進めたいです」
「そうれば良いな」
こうしてマテウスはインド洋艦隊司令部を去り、その足でディエゴ・ガルシア港内にある戦艦「フリードリヒ」に向かった。
「海軍総司令部から来ましたホレス・マテウス大佐です。本日より着任します」
「フリードリヒ」の艦橋でマテウスが挨拶をするのはインド洋第1艦隊司令官であるヴィルヘルム・マルシャル大将だった。
「ベルリンからのお目付役と聞いている。じっくり我らの様子を見るがいい」
マルシャルはマテウスにあまり好意的ではないようだ。
「はい。そうさせていただきます」
マテウスは「フリードリヒ」乗艦中は慎重にせねばならないと悟った。
どうやら自分はインド洋第1艦隊に落ち度がないか監視に来たのだと思われたようだ。
そのせいか幕僚達からの視線もどこか冷たい。
「これは大人しくせねばならんな」
マテウスが己の振る舞い方をどうすれば良いか理解できたところで「フリードリヒ」にチクリアスからの出撃命令が届いた。
「参謀長、出撃命令が出た。準備はできているか?」
エウリッドは部下に状況を尋ねる。
「戦艦と空母の出撃準備はできています。巡洋艦と駆逐艦は本日1500時には燃料補給が完了し出撃できます」
参謀長のダウド大佐が報告する。
「よし、1600時に出港するとインド洋艦隊司令部へ伝えろ」
エウリッドは指示を下す。
このマルシャルのインド第1艦隊の陣容は以下の通り
戦艦「フリードリヒ」・「バルバロッサ」・「ヴィルヘルム」・「カール」・「ティルピッツ」・「グナイゼナウ」
軽空母「ザイドリッツ」・「ヤーデ」・「エルベ」
重巡洋艦「アドミラル・ヒッパー」・「エウロパ」・「リュッツオ」・「マインハイム」・「エアフルト」・「ヘルネ」・「ダルムシュタット」
軽巡洋艦「ライプツィヒ」・「ニュルンベルク」・「トーリア」・「レムシャイト」
駆逐艦16隻
この第1艦隊の援護に空母「グラーフ・ツェッペリン」・「ぺーター・シュトラーサー」・「プルート」からなる機動部隊も出撃する。
まさにインド洋艦隊の主戦力が総出で出撃する事となった。
艦隊の中核となるのは「フリードリヒ」と「バルバロッサ」・「ヴィルヘルム」・「カール」の「フリードリヒ」級戦艦だ。
「フリードリヒ」級は基準排水量5万5000トンの船体に40センチ砲三連装の砲塔が3基で最大速力27ノットの戦艦だ。
ドイツ海軍は日米と並ぶ40センチ主砲の戦艦として、イギリスが配備をしつつある40センチ主砲の戦艦「ライオン」級に対抗すべく建造されたのが「フリードリヒ」級だ。
「フリードリヒ」級はその前の「アーダーベルト」級で得た40センチ砲戦艦としての経験を生かして作られた。
「アーダーベルト」級と違い足の速さを我慢して、船体の防御を高めた40センチ主砲の戦艦が「フリードリヒ」級である。
インド洋第1艦隊は予定通り16時に出撃した。
夕方の陽が傾くインド洋に進み出た艦隊は早速、日本の潜水艦と遭遇する。
「見つかるのは想定内だ。それよりも魚雷を撃ち込まれんように敵潜水艦を近づけるな」
マルシャルは敵潜に発見されても動じない。
艦隊の外周で駆逐艦が爆雷を打ち出し、潜水艦の接近を防ごうとしている。艦隊の主力は敵潜水艦を気にしないように進む。
その陣容は足の速い戦艦「ティルピッツ」と「グナイゼナウ」を先頭に立てたものだった。
マテウスは艦橋に居る以外に役目が無い。この先に起きる海戦がどんな結果になるだろうかと色々と頭を巡らせていた。
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